7-9月期の米実質GDPは前年比3.0%増加したが、ユーロ圏GDPは1.7%に低下した。米EUの経済成長率格差の拡大から対ドルでユーロは売られ、昨年6月以来のドル高ユーロ安だ。昨年第4四半期の実質GDPの前年比伸び率はユーロ圏が米国を上回っていたが、今年第1四半期に逆転、第2四半期は0.7ポイント、第3四半期は1.3ポイント、米国がユーロ圏を上回った。経済成長率の格差により、先行きの金利見通しもドル高に作用している。米株は昨年末を上回っているが、欧州株や日本株は下回っている。原油価格の値下がりなどでCRB指数は今年9月19日以来の水準に低下した。商品市況の下落は世界の物価をより安定させることになる。
10月の米雇用者は前月比25万人増加し、賃金も前年比3.1%と今回の景気拡大局面で最大の伸びとなった。過去3ヵ月の累計雇用者増加数も大きな変動はなく、米国経済が堅調に推移している様子が窺える。過去12ヵ月の累計増加数は昨年9月を底に拡大している。製造業の12ヵ月累計増加数は29.6万人と昨年1月を底に増加しており、1998年3月以来20年7ヵ月ぶりの増加数である。
10月の米失業率は前月と同じ3.7%と1969年12月以来約49年ぶりの記録的な低失業率である。9月の個人消費支出物価指数(食品・エネルギーを除くコア)は5ヵ月連続の2.0%と安定している。エネルギーの物価指数は前年比5.1%へと鈍化してきていることに加えて、食品は0.5%の低い上昇にとどまっていることから、食品とエネルギーを加えても、物価は前年比2.0%の伸びに低下してきた。
失業率は歴史的な低水準にあり、さらに消費者が敏感に感じる食品が0.5%しか上昇していないなど、米雇用・物価環境は空前ともいえる良好な状態にある(ちなみに9月の日本の食料物価指数は前年比1.8%)。トランプ大統領はこの完全雇用経済を中間選挙に活かすことができるだろうか。
7-9月期の米実質GDPは前年比3.0%と6四半期連続で伸び率は拡大し、約3年ぶりの高い伸びとなった。名目では前年比5.5%と2006年7-9月期以来12年ぶりの高成長だ。成長を牽引しているのは個人消費支出であり、実質前年比3.1%増加し、これだけでGDPに2%寄与した。さらに設備投資は6.4%伸び、GDPに0.9%寄与し、この2部門でほぼ成長率を説明できる。
個人消費支出と設備投資が堅調に推移している最大の要因は、今年から始まった大型減税である。個人と企業で2018年から10年間で総額1.5兆ドルの減税が効果を発揮している。個人所得に占める所得税の割合は今年1-3月期以降、3期連続11.7%に低下し、7-9月期では前年よりも0.4ポイント低い。一方、可処分所得・個人所得比率は88.3%に上昇し、可処分所得が前年比5.2%増と約4年ぶりの高い伸びとなったことが、個人消費支出を押し上げた。
今年7-9月期の実質個人消費支出・GDP比率は69.5%であり、この比率は長期的に上昇してきている。1960年代には一時60%を割っていたときもあったが、半世紀のあいだに10ポイントも高くなった。半面、今年7-9月期の政府部門・GDP比率は17.1%と35%近くまで上昇していた1960年代の半分に低下した。主要国のなかでは米国の政府部門は最も小さいのだ。
企業も減税の恩恵がはっきりあらわれている。今年4-6月期の法人税・企業利益比率は10.5%と前年から6.5ポイントも低下した。1-3月期は9.7%と初めて10%を下回っている。法人税・企業利益比率は1960年代には40%を超えていたが、長期的に低下しており、2008年以降、20%を割り込んだが、トランプ大統領の減税によって一段低下した。
減税によって今年の米国経済は拡大しているが、減税効果が一巡する来年の実質GDPは2%台に低下するだろう。企業利益も減税による嵩上げ分が剥がれ、収益率は鈍化することになる。一方、大型減税により歳入はほぼ横ばいとなり、2018会計年度(今年9月までの1年)の米財政赤字は7,790億ドルと3年連続で拡大した。今は経済が拡大しているため深刻な経済問題は表にあらわれていないが、景気が減速することになれば、さまざまな問題が現れてくるだろう。小さな政府といえば聞こえはよいが、社会保障年金、所得保障、保健、医療保険等の歳出は人口の増加に伴い拡大していくはずだ。
所得が拡大するにつれて消費性向は低下するから、他の支出が変わらないとすれば、公的支出の増額が必要になる。ところが、米国経済は個人消費支出の伸びが高く、可処分所得に占める貯蓄比率は今年7-9月期、6.4%と2012年10-12月期の10.2%をピークに低下しつつある。金融危機後の経済不安感から貯蓄比率は上昇していたが、雇用が回復するなど徐々に経済が安定するにつれて、消費意欲は高まっていったのである。消費が伸びることによって、政府支出の伸びが緩やかでも、有効需要不足を来すことがなく、経済成長を持続させることができたといえる。
今年7-9月期の実質GDPは1960年1-3月期比5.7倍に拡大しているが、個人消費支出は6.5倍、設備投資は8.7倍といずれもGDPの伸びよりも高い。だが、政府支出は3倍の伸びにとどまっている。いかに米国経済が個人消費支出の拡大で成長してきたかということがわかる。こうした豊かになっても衰えない消費性向の上昇が米国経済の強さといえる。
米国は2017年までの10年間で約1千万人の移民を受け入れている。米国の人口は年0.7%増加しているが、移民の寄与は0.3%と高い。こうした移民による人口の増加が普通なら低下する消費性向を引き上げているのだろう。