混迷の度を深める世界経済

投稿者 曽我純, 11月6日 午後6:36, 2011年

パパンドレウ首相が国民投票を唐突に持ち出し、その後撤回するなどのギリシャの政治に国債市場は振り回された。週末、ギリシャ国債(10年物)の利回りは32.36%と週末比8.75%も急騰し、価格は26.33に急落した。債務危機包括策で決まったギリシャ国債の50%カットでは値下がりを補えず、8割の削減を実施しなければならないようになってきた。ギリシャは経済だけでなく政治も瓦解しており資金援助で救えるような状態ではない。EU、ECB、IMFのトロイカで監視を強めても、厳しい緊縮財政を強要するだけでは、ギリシャ経済は崩壊していくだけであり、まともな経済に戻ることはできないだろう。

IMFの監視下に入ったイタリアの国債利回りは週末、6.39%と週末比0.49%上昇した。価格は88.85であるから1割以上の損失が発生していることになる。国債残高から予測すればイタリア国債保有者は1,900億ユーロの含み損を抱えていることになる。これだけの国債の値下がりに見舞われれば、残高が巨額なだけに債券市場はギリシャ以上に神経質になってくる。

ギリシャ、イタリア、スペインの国債が売られる一方、ドイツ国債は買われ、利回りは週末比0.36%も低下した。米国国債の利回りも0.27%低下し、日本国債は0.985%と政府債務残高が1,000兆円に近づいているが、国債は買われた。

イタリアの経済成長率は05年以降、ドイツを下回り続けており、2010年はドイツの3.6%に対してイタリアは1.3%の伸びにとどまった。欧州委員会は9月の予測で2011年のユーロ圏経済成長率を1.6%に据え置いたが、ドイツは上方修正し、イタリアとフランスは下方修正した。今年のイタリアの成長率は0.7%とドイツ(2.9%)との成長格差は広がり、成長の鈍化がイタリアの財政赤字を悪化させる見通しである。

ドイツのGDPは09年には前年比4.7%減少したが、2010年にはプラス3.6%に回復した。このうち輸出が大幅に伸び外需の寄与度は1.2%にも達した。他方、イタリアの成長率は09年5.2%も落ち込んだが、2010年はプラスに転じたものの1.3%と回復力は弱く、今年はさらに低迷している。ドイツのように外需に頼ることができればよいが、イタリアの輸出回復力は弱く、2010年も外需寄与度はマイナスであった。本来ならば、経済が弱くなれば通貨も弱くなり、輸出の拡大が期待できるけれども、ユーロ圏ではそうはいかない。通貨が弱くならなくてもドイツのように製品に競争力があれば輸出は拡大するが、そうでない国であれば、外需の恩恵は受けにくい。通貨メカニズムが働かなければ、輸出は拡大せず、成長を高めるには財政に頼らざるを得なくなる。だが、ユーロでは財政赤字はGDPの3%以内というルールがあり、むやみに財政を拡大するわけにはいかない。だが、財政の拡大を図ることができなければ、経済の回復は遅れ、財政の負担はますます大きくなる。製品競争力のない国で通貨調整が行われなければ、財政が皺寄せを受けることになる。

 G20を開催しても重要なことはなにひとつ決まらない。単に、首脳が集まり事実を確認しただけである。米国が経済不振に陥り、そこからの脱却の道筋がまったくみえてこない。自国の問題にも手がつけられないなかでは、オバマ大統領は欧州の問題にまで首を突っ込むことなどとてもできないといった様子だ。ガイトナー財務長官や財務次官などもほとんど存在感がなく、リーダー不在の会議の虚しさを痛感させられた。

 マリオ・ドラギは欧州中央銀行総裁に就任するやいなや政策金利を年1.25%へと0.25%の利下げをした。政策金利の0.25%の引き下げなど暖簾に腕押しでなにの効果もない。効果があるとすれば、それこそイタリア国債を購入することくらいではないか。それでも影響は微々たるものだと思う。今は政策金利をさげても、信用不安が高まっているので利下げと長期金利にはまったく関連性がない。インフレ率が3.0%と高い水準にあるので、政策金利の引き下げはECBの方針に矛盾している。

FRBはFOMC(11月1,2日開催)で経済見通しを発表したが、2011年の実質GDPを前回予測の2.7%~2.9%から1.6%~1.7%に、2012年は3.3%~3.7%を2.5%~2.9%にそれぞれ下方修正した。今年は2010年の成長率3.0%から大幅に減速し、来年もこれを越えることが難しいようだ。

10月の米経済指標が発表されつつあるが、非農業部門雇用者数は前月比8.0万人と前月の約半分になり、6月以来の低い伸びとなった。民間部門も9.0万人と増加数は鈍化し、週平均労働時間は横ばい、週平均給与は0.2%増にとどまる。失業率は9.0%と0.1ポイント低下したが、仕事を諦めるなどで非労働人口が1年前に比べると150.1万人増加しており、事態は改善しているとはいえない。

学歴別失業率をみると、大学卒の失業率は4.4%だが、高校卒だと9.6%、高校も卒業していなければ13.8%に跳ね上がる。人種別では白人やアジア系の8.0%、7.8%に対して黒人、ヒスパニックは15.1%、11.4%と高く、学歴や人種の違いが雇用に歴然とあらわれており、延いては所得や資産の格差を引き起こしているのだ。

10月のISM景況指数は製造業、非製造業ともに前月を下回った。1,389.7万人の失業者に仕事を与えることができるほどに雇用が増加していないことが、失業率を高止まりさせ、個人消費マインドの改善を遅らしている。

7-9月期の米名目GDPは15.2兆ドル、個人消費支出はその71.1%を占める10.8兆ドルである。これが回復しなければ、米国経済は回復しない。個人消費支出の次に大きな支出は政府部門であり20.1%を占め、このふたつで9割を超える。雇用の改善の遅れが、個人消費の拡大を妨げているが、この時に政府支出を絞ることになれば、米国経済の低空飛行の長期化は間違いない。欧州の緊縮財政を金科玉条とする政策では、さらに経済は悪化するだろう。加えて、米国も同様の罠に陥りつつあり、世界経済は混迷を深める方向に大きく踏み出しているように思う。 

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