深刻な消費不振

投稿者 曽我純, 5月8日 午後9:14, 2016年

岡山の備前から帰ってきたが、円ドル相場や日経平均株価は1ヵ月前に比べて大きな変化はない。変わったところは商品相場であり、WTIの前月比18.3%増などにより、CRB指数は前月比7.8%も上昇した。市場参加者が、米国経済の足取りが依然重く、FRBが利上げになかなか踏み切れないと予想しているからだ。商品相場のマネーゲームにまた火が付いた。NYダウ(4月20日)と日経平均株価(4月22日)は18,000ドル、17,500円をそれぞれ突破したが、超低金利持続だけでは高値を維持することはできない。特に、日本株は米株に追随しただけであり、空疎な値上がりだった。だから下げは速い。

米国経済は辛うじて成長している状態である。1-3月期の実質GDPは前期比0.1%と3四半期連続で伸び率は低下した。個人消費支出は前期比0.5%伸びたが、耐久消費財のマイナスによって、前期より鈍化した。設備投資は前期比-1.5%と2期連続のマイナスとなり、輸出も前期割れが続く。前年比で実質GDPは1.9%と4四半期連続の低下となり、2014年1-3月期以来2年ぶりの低成長だ。FRBの実質GDP予測(2.1%~2.3%)を下回ったことも、当分、利上げは行われないという見方を強めた。

非農業部門の雇用は4月も16.0万人増加し、失業率も5.0%と金融危機以前の水準に戻っているが、個人消費の伸びは低い。超低金利で車や住宅といった耐久消費財は堅調であるが、非耐久財やサービスは低調である。2015年と2008年の実質耐久消費財支出を比較すると35.4%増だが、非耐久消費財とサービスは9.8%、9.5%それぞれ伸びているにすぎない。いかに耐久消費財の伸びが突出しているかがわかる。

2015年までの7年間の実質個人消費支出は、耐久財の拡大により12.1%増加した。同期間、実質可処分所得は11.4%の伸びにとどまり、実質個人消費支出の伸びを下回っている。金利要因によって、耐久財に偏った支出がなされ、その結果、非耐久消費財やサービスへの支出は抑制を余儀なくされたのである。

実質GDPの68.4%を占める個人消費支出の拡大を図らなければ、米国経済の伸びは高くならない。そのためには可処分所得を引き上げるような所得配分を実施することが、成長には不可欠である。

所得税の累進性を強め、法人税率を高くする税制を導入し、消費性向の高い低所得層の可処分所得を増やす必要がある。今のように所得格差が拡大した状態が続けば米国経済のさらなる成長は期待できない。これはゼロ金利政策でもできないことなのだ。金融政策で恩恵を受けるのは富裕層と金融機関であり、FRBは所得格差拡大を一層進め、長期消費不振の原因を作り出したのである。

 

米国以上に日本経済は消費不振に陥っている。日本の場合は、人口減、高齢化、無職世帯の増加など構造的な問題によるところが大きく、消費不振から逃れることはできない。さらに日本が地震列島であることをまたも目の当たりにし、捉えどころのない不安のなかでの生活を余儀なくされることも考慮しなければならないだろう。リーダーといわれている人の資質が官庁、企業の成否を握っているが、東芝や三菱自動車などどうもリーダーとして相応しくない人物の登場によって、勤労者の収入・支出に悪影響を与えているともいえるだろう。

それにしても、3月の消費支出(家計調査、2人以上の世帯)は前年比-5.3%と酷い内容であった。季節調整値(2010=100)でも前月比1.5%減の96.1に低下し、1-3月期は前期比0.7%減少した。これほど消費が減少しているときに物価が上昇することなどあり得ない。事実、3月の消費者物価の総合は前年比-0.1%、生鮮食品除くは-0.3%とマイナスである。生鮮食品除く季節調整値は1月以降、3ヵ月連続の前月割れだ。4月の東京都区部消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年比-0.3%と4ヵ月連続の前年割れだ。消費支出の減少が持続する経済状況下では、消費者物価指数は、低下はするが上昇することはないのである。

3月の鉱工業生産指数は前月比3.6%と2ヵ月ぶりのプラスだが、出荷が1.4%と生産を下回ったため、在庫は2.8%増加した。特に、資本財(輸送機械を除く)の在庫は前月比5.7%も増加し、在庫調整は躓いている。消費の落ち込みにより、資本財の需要は縮小しており、資本財の生産減と在庫調整の長期化は避けられない。

消費支出を支えるには所得税と法人税の見直しは不可欠である。累進性を高め、低所得者の消費を底上げしなければ、消費の減少はますます深刻になるだろう。非正規社員を多数採用し、労働コストを引き下げるだけでは、結局、企業は自分で自分の首を絞めることになることを、現状はつぶさに示している。

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