消費税率引き上げ後、下振れした消費支出

投稿者 曽我純, 3月6日 午後8:35, 2016年

世界的に株式は買い戻されているが、危うい相場から抜け出してはいない。原油価格が35ドル台まで回復したが、さらに上昇するのは難しいだろう。世界経済の動きは一段鈍くなってきているからだ。雇用統計などから米国経済は悪くはないという見方もあるが、基本的には米国経済の足取りは重く不安定な状態にある。1月の米貿易統計によれば、財の輸出は前年比-10.8%と4ヵ月連続の2桁減、輸入も-8.3%とマイナスが続いており、世界経済や米国の需要は低調であることが窺える。サービスを含む米輸入のピークは2014年12月であり、すでに約1年減少傾向にある。

2月のドイツの景況指数はいずれも前月から低下し、鉱工業生産も昨年7月をピークに縮小しつつある。2月のグローバルPMI(Markit)は50.2と前月比2ポイントも低下し40ヵ月ぶりの低水準に落ち込んだ。つまり、今、世界経済はかなり深刻な状況下にあるといってよい。こうした指標が公表されているときでも株価は値上がりしている。景気を先取りするといわれているが、そのようなことはない。株式は遅行することもあるのだ。特に、行き過ぎた金融政策が株価形成を歪めてしまっており、先行指標として株価をとらえるととんでもない過ちを犯すことになる。

世界経済が低迷しているなかで、日本経済だけが良いというわけにはいかない。円安ドル高により、輸出増でなんとかやりくりしていたが、頼みの輸出は昨年1月をピークに失速。輸出の不振で鉱工業生産は1月までの半年、ほぼ前年割れである。

消費については目を覆いたくなるような暗澹たる状況だ。昨年3月以降、実質消費支出(家計調査、2人以上の世帯、季節調整値)は急速に悪化しており、昨年11月は91.8(2010年=100)と消費税引き上げ後の2014年5月を下回り2000年以降では最低を更新した。今年1月も92.1と最低水準にある。1月の名目は前月比1.1%低下の95.9と2011年3月以来約5年ぶり低い水準であり、2000年以降では下から2番目だ。

消費支出の推移から直ちにわかることは、今の消費水準は名目では2011年3月の大震災・原発大惨事が起こったときと同じであり、実質では2011年3月よりもはるかに低い水準に落ち込んでいる。消費税率引き上げ後の2014年5月に、実質消費支出は急低下したが、その後、反動減も緩み2015年3月までは回復していた。だが、2015年4月以降、消費はただならぬ事態に陥っているのだ。

2014年4月の消費税率引き上げを契機に消費支出は下方にシフトしてしまったのである。消費者は物価に敏感であり、値段に目を凝らしている。値段が高くなれば、買い物を少し減らしたり、低価格のものを買うという生活防衛行動をとっているのだ。

なぜ消費者はこんなにも値上がりに消費減で対応するのだろう。消費を左右する最大の要因である給与が増えないので、防衛せざるをえないのだ。機密費で飲み食いしている人にはわからないだろうが。

『毎月勤労統計』によると、2014年、2015年の現金給与総額はそれぞれ名目前年比0.4%、0.1%、実質前年比-2.8%、-0.9%となっている。『家計調査』では、2015年の勤労者世帯(2人以上の世帯)の実収入は名目前年比1.1%増加したが、税・社会保険料の増加によって、可処分所得は0.9%の増加にとどまった。2015年の可処分所得を10年前と比較すると3.1%減少している。同期間、税・社会保険料が17.9%も増加しているからだ。実収入に占める税・社会保険料の割合は2005年の15.9%から2015には18.7%に上昇している。

これでは消費者は購買意欲があっても、財布の中身と相談すれば、おいそれと財布の紐を緩めるわけにはいかないのである。消費税率の引き上げの消費支出への影響を政府は甘く見ていたのだと思う。しかも、消費税率を引き上げた2014年度は団塊世代最後で最大の1949年生まれが65歳に到達する年度であった。生産年齢人口が大幅に減少することの消費支出への影響は決して軽くはない。また、2人以上の世帯のうち無職世帯の割合は2015年、32.9%と上昇傾向にある。個人営業の世帯が17.1%を占め、勤労者世帯が50.0%である。勤労者世帯を世帯主が60歳未満と60歳以上にわけると9.9%、40.1%となり、60歳以上世帯の比率が上昇している半面、60歳未満は低下している。無職世帯や勤労者でも60歳以上の世帯は収入が乏しく、そうした世帯数が増加することは、消費支出を構造的に不振する要因になるだろう。下振れした消費支出は来年も消費税率が引き上げられれば、さらに下振れし、深刻な不況に突入することは間違いなさそうである。

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