消費税率の引き下げで消費不況脱出を

投稿者 曽我純, 5月22日 午後8:52, 2016年

今年1-3月期のGDPが公表されたが、名目GDPは前年比0.8%と2四半期連続の成長率低下である。しかも閏年により前年よりも1日多かったが、この伸びなのである。閏年により前年比1%程度上乗せされているので、実際の成長率は前年をやや下回ることになり、実際はマイナスなのだ。閏年であったにもかかわらず、民間最終消費支出は前年比1.0%減と2四半期連続のマイナスであった。消費税率引き上げ後の2014年7-9月期から2015年4-6月期まで4四半期連続の前年割れとなり、7-9月期はプラスに転じたものの再びマイナスに陥り、消費不況は深刻な状態にある。

1-3月期、名目で前年比プラスは民間住宅と政府最終消費支出の2部門だけであり、あとはすべて前年割れとなった。GDPが辛うじてプラスになったのは輸入が15.2%も減少したため純輸出が2011年1-3月期以来5年ぶりのプラスになったからだ。外需の好転で名目GDPはプラスになったということなのである。

来年4月から消費税率を10%に引き上げることになれば、現状でも水面下にある消費支出はさらに下振れすることになるだろう。低所得者から高所得者までまんべんなく取る消費税の逆進性は消費マインドを冷やすことは間違いない。消費支出が減少することは、企業が生産したものが売れなくなることなのだ。当然、企業は稼働率を落とし低需要に対応せざるを得ない。先行きの需要低迷を予想すれば、設備投資を拡大する意欲は湧いてこない。設備投資部門は生産縮小を余儀なくされ、設備投資部門の給与の低下、さらに当該家計の消費支出抑制と繋がり、経済は悪循環に陥ることになる。

消費支出が前年割れしているようなときには消費税率を引き上げるのではなく、引き下げ、所得税の累進性を高め、法人税を上げるべきだ。博打場である有価証券取引や為替取引にも課税する必要がある。富裕層や高収益を上げているところには、政府はそれ相当の負担を求めなければならない。消費性向が低い高所得者や内部留保の厚い企業は十分追加課税に耐えることができるのだから。

「貯蓄から投資へ」の標語を掲げ、株式売買を促す政策を打ち上げたが、博打場を煽るような政策は、日本経済になにのプラス効果ももたらさなかった。株高では消費支出さえも引き上げることができないのだ。一部の金持ちの消費だけでは日本経済はもちあがらないのである。むしろ株式乱高下による弊害が大きくなり、株式流通市場の活況は、博打が盛んになるのと同じように、悲惨な結末を迎えるだけである。

今、導入しなければならない政策は消費税率を5%に引き下げ、所得税と法人税を増税すべきだ。昨年度の補正後の所得税は17.5兆円と2001年度以来14年ぶりの高水準である。だが、これまでの所得税の最高は1991年度の26.7兆円である。所得税と住民税を加えた最高税率は昨年5%引き上げられ55%に上昇したが、1974年には93%であった。それが1980年代に4回引き下げられ、1989年には65%に低下し、1998年に50%へと大幅に引き下げられた。

消費税率を5%に下げれば、約7兆円の税収減になる。1989年度には約19兆円の法人税が昨年度は回復したとはいえ12兆円弱に縮小している。法人税を強化することと所得税の累進性を高くすることで、消費税率引き下げの穴埋めは可能なはずだ。消費税率引き下げによる消費回復が潤滑油となり、経済全体が少しずつ動き出すことになるだろう。日銀のマイナス金利や大規模な国債買いなど必要ないのだ。消費税率を引き下げるだけで日本経済はある程度豊かになれるのである。

これまでの安倍政権の経済政策は消費にはまったく功を奏しなかった。1-3月期の名目最終消費支出(季節調整値)は290.5兆円と安倍政権発足の2012年10-12月期から1.0%増の2.9兆円しか増加していない。10年前の2006年1-3月期比では3.5兆円下回っている。このことが安倍政権の経済政策の失敗を証明している。安倍政権と日銀が遂行している政策では消費不況は留まるところを知らないのではないか。

PDFファイル
160523).pdf (374.09 KB)
Author(s)