消費減・貯蓄増傾向強まる日本経済

投稿者 曽我純, 1月15日 午後6:50, 2012年

格付け会社が格付けを下げるまでもなく、すでに欧州の国債利回りには大きな格差が存在していた。1年前のドイツとフランスの国債利回りの開きは0.4%ほどであったが、週末には1.3%も拡大した。このような格差があるにもかかわらず、同じ格付けをしていたのでは格付けの信頼性が揺らぐ。3ヵ月も前から格付け会社はフランス国債の格付けをネガティブに見直す素振りをみせていた。格付け会社はドイツとフランスの利回りの開きをただながめているだけにはいかず、後追い的に格下げに踏み切ったということだ。

格下げされたとはいえ、フランスやオーストリアなどの国債利回りは、1年前に比べれば低下している。スペインでさえ1年前より0.24%低下し、買いが優勢であったことを物語っている。1年前に比較して最大の上昇をみせているのはギリシャであり、24%も上昇した。ポルトガルは5.5%、イタリアは1.9%上昇しており、欧州の国債の序列化は著しい。

週末の利回りは日本が唯一1%を下回っており、ドイツ、アメリカ、イギリの順で高くなっている。それでもこれら3ヵ国の利回りはいずれも1%台であり、第2次大戦以降でははじめての現象である。アメリカの利回りなどは名目GDPの伸び率の約半分にすぎず、実体経済から判断すると異常に低いといえる。先行きの経済が、ストックの毀損により、長期的に低迷することの反映か、あるいは国債バブルに陥っているのかもしれない。欧州は経済力の違いの発露が国債の価格付けにあらわれている。いくら利回りが高くても、紙屑になるような国債は買えないからだ。欧州で経済的に信用の置ける国といえばドイツを置いてほかになく、みながこぞって買い求めている。それにしても低い利回りであり、かなりのプレミアムが付いていると言わざるを得ない。

12月8日のEU首脳会議に合わせて、ECBは2ヵ月連続で政策金利を引き下げた。同時に、約5,000億ユーロの長期資金(期間3年)を供給すると発表し、同21日に入札が行われた。金利は政策金利の1%であり、この超低金利で3年間借りることができるという好条件の融資である。フランス国債を求めても、うまくすれば2%の鞘が抜けるかもしれない。5,000億ユーロすべてをフランス国債に投入したとすれば、年100億ユーロの稼ぎとなる。このような機会をECBは金融機関に提供したといえる。金融危機の張本人である金融機関においしい仕事を与えたのだ。金融取引税などの金融取引を正常にする制度はさておいて、金融機関を過剰に保護するだけでは、金融機関に社会の利益を吸い取られ、非金融機関の衰退を来たすだろう。

1月11日現在のFRBの総資産は2.9兆ドルと過去最高水準にある。ゼロ金利とFRB総資産の膨張を以ってしても、痛んだ経済の回復は遅々として進まず、実体経済の足取りは重い。実体経済は低調だが、不良資産の肩代わりとゼロ金利によって、金融危機後、米金融機関の収益は急回復している。08年10-12月期は赤字に転落したが、その後の回復は目覚しく、2010年10-12月期には過去最高を更新した。2011年4-6月期以降は前年を下回っているが、それでも製造業よりも稼いでおり、7-9月期、金融機関の利益は国内部門の26.2%を占めている。

 政権発足から4ヵ月しか経過していないが、野田政権は内閣改造を余儀なくされた。だが、内閣支持率の低下に歯止めは掛からず、早晩、内部崩壊するだろう。震災や原発の対応をみていれば、野田内閣が新たな課題に取り組もうとしても、単なる政権維持手段として取り上げるだけであり、できはしないと多くの国民は覚めた目でみており、野田内閣には多くを期待していない。今は震災と原発に人物金のすべてを集中して投下しなければならないときだ。生命や生活に関わるこれ以上大事なことはないが、野田政権はこの現実を軽視しており、全力で対処しているとはとてもいえない。

欧州の債務問題に恐れ、増税に走れば、経済の低迷に拍車を掛け、経済は大混乱に陥り、路頭に迷う人が続出する事態に陥るだろう。そのような酷い経済状態を想定してか、すでに国民は貯蓄を上乗せしている。日銀の『貸出・資金吸収動向』によると、昨年12月の預金は前年比3.3%増加した。昨年2月の2.0%を底に3月は2.7%に上昇、その後もじわじわ上昇している。震災・原発により手元資金を多めにしていることに消費の削減が加わり、預金が増加しているのだ。現金通貨は12月、前年比2.3%と3月(2.8%)より伸び率は低下しているが、12月の預金通貨は5.7%に上昇しているほか、準通貨は0.4%へと3月のマイナス0.4%からプラスに転じている。M3(現・預金+準通貨+CD)は今年1-3月期の前年比1.9%を底に10-12月期は2.5%へと伸びており、貯蓄増の傾向がはっきり読み取れる。

『家計調査』によると、昨年11月の勤労者世帯の消費支出は前年比4.7%減と3月以来の大幅な減少である。消費しないことは貯蓄を増やしていることでもある。大半は金融機関の預金に向かっていると考えられる。消費を削ることは物やサービスがそれだけ売れなくなることだ。物やサービスを販売している人の売上は少なくなり、商売はよりきびしくなり、そこで働いている人たちの給与の削減だけでなく、場合によっては雇用でさえも脅かされることになるだろう。他方、金融機関には金が貯まることになるが、物やサービスの売れ行きが悪いので、設備投資などへの貸付は増えない。現金保有では利息をうまないので、国の発行する国債を買うことに行き着く。

昨年11月の全国銀行の保有する国債は163.1兆円、前年比20.7兆円増、リーマン・ショックの起こった08年9月比では約2倍に増加している。現在も預金が金融機関に流入し続けており、金融機関の国債買い余力は十分にある。2010年の勤労者世帯の年間貯蓄純増額は92万円、この貯蓄額を総世帯(2010年国勢調査、5195万世帯)に適用すると年間50兆円弱となる。これに法人貯蓄が加算され、日本全体では相当な過剰貯蓄状態になっているのである。日本人の強い貯蓄志向が財政を支える構造はまだ続きそうである。 

Author(s)