10月1日、安倍首相は現在の5%の消費税率を来年4月に8%に引き上げることを決定した。3ポイントの引上げは1997年4月のときより1ポイント高い。今年間12.5兆円程度の消費税が来年4月から20兆円ほどに急増する。GDP統計(名目)によれば、2012年度の民間最終消費支出は289.8兆円である。これの3%は8.7兆円であり、2013年度の民間最終消費支出が前年度と同じ消費をすると仮定すればこれだけの負担が生じることになる。
3%から5%に消費税率が上がった1997年度の民間最終消費支出は前年比0.4%増にとどまり、前年度より2.3ポイントも低下した。2%消費税が上がっても消費支出が0.4%増にとどまったことは、1.6%数量を減らしたからである。1997年度の消費者物価指数(総合)は前年比2.0%上昇しており、ものやサービス価格に消費税引上げが転嫁されたことを示している。1998年度の民間最終消費支出は前年度比横ばい、1999年度は0.5%と消費税率引上げ後の消費は完全に足踏み状態に陥ってしまった。
1996年度まで3年連続で所得税減税を実施し、引上げ後も1998、1999年度と2年連続で再び所得税減税に踏み切っている。けれども、家計の消費意欲は持ち直すことなく、2004年度まで民間最終消費支出は1997年度のレベルで推移するという有様であった。その後、2007年度にかけて幾分増加したものの、金融危機で再び落ち込み、2012年度の民間最終消費支出は1997年度とほぼ同じである。
2004年度までの8年間もの間、民間最終消費支出が横ばい状態であれば、設備投資意欲など高まるはずがない。事実、民間設備投資は不振を極め、2002年度には64.4兆円と1997年度よりも14兆円弱減少した。民間住宅も10兆円弱減少しており、民間部門は激しい縮小過程に入り込んでしまった。
来年4月の消費税引上げにより、最終消費は前回以上に抑えられることになるだろう。物価が3%上昇しても、2014年度の民間最終消費支出はほとんど増加しないと思う。前回の引上げ時よりも人口や人口構成の面で著しく悪化しており、税率引き上げの影響力ははるかに大きくなることは間違いない。
1997年度の民間需要は392.5兆円だったが、2002年度には369兆円に落ち込んだ。その後持ち直したものの1997年度の水準を超えることなく、2012年度は363兆円と1997年度よりも30兆円も少なく、2002年度を下回っている。まったく民需の規模は様変わりしていることを忘れてはならない。
2015年10月にはさらに10%への引上げを目論んでいる。右肩下がりの民間最終消費支出の傾斜はますますきつくなり、企業は設備投資などに見向きもしなくなるだろう。昨年度62.6兆円だった民間設備投資は50兆円台に下振れし、企業収益も大幅な減益が見込まれる。
名目GDPに占める民間設備投資の割合は2012年度、13.1%と1997年度比1.9ポイント低下しているが、米国では同年12.1%とさらに低く、成熟した経済ではもっと低くなるはずだ。民間住宅の比率も3.0%とずいぶん下がってきたが、まだ米国よりも高く、低下の余地はある。
消費増税をし、家計の負担を重くする一方、企業には設備投資減税や復興法人税廃止の検討など優遇措置を採るという。企業をいくら優遇しても、最終消費の中心を担うのは家計であり、家計が消費をしなければ、経済はうごかないのだ。企業減税したところで、消費の減少が分かっているときに設備投資などだれがするのだろうか。まったくばかげた政策だ。お門違いも甚だしい。
今回の安倍内閣の消費税率引上げ決定で来年度の経済が大きく下ぶれすることが確実になってきた。2段階で引き上げるようだが、いずれにしても、引上げ後、最終消費が一段大きく落ち込むことになり、日本経済の縮小を加速させることになるだろう。
日経平均株価は昨年11月以降急騰したが、今年5月につけた1万5,000円台がピークとなり下げ足を速めるだろう。企業収益の悪化に加え、日銀への政策不信が募り、昨年の急騰以前の水準に戻るかもしれない。
「家計調査」によると、8月の消費支出(2人以上の世帯)は前年比0.5%減と前月のプラスからマイナスに転じた。特に、耐久財は-18.4%もの大幅減となり、まだ駆け込み需要はみえない。「毎月勤労統計」によれば、8月の現金給与総額は前年比-0.6%と2ヵ月連続のマイナスだし、所定内給与の前年割れは続いている。失業率も4.1%と前月比0.3ポイント上昇し、昨年8月よりも0.1ポイント低いだけだ。男に限れば4.5%と昨年8月と同じである。10月からは年金の減額と厚生年金保険料の引上げという消費支出マイナス要因が働く。
消費関連の指標はいずれも改善しているとはいえず、消費は停滞したままであり、今の日本経済は公共工事関連で維持されている。公共工事請負金額は8月、前年比7.9%と一桁の伸びだが、7月までの4ヵ月間は20%を超えていた。新設住宅着工件数も8月、前年比8.8%に鈍化したが、7月までの3ヵ月間2桁の伸びであった。いまでも公的支出によって支えられているが、来年4月以降、民需は冷え込み、日本経済は一層公的支出に依存せざるを得なくなるだろう。