消費拡大を図る政策を

投稿者 曽我純, 12月24日 午後8:44, 2017年

2018年度の一般会計政府予算案が週末、閣議決定された。「人づくり革命」、「生産性革命」と言葉は踊るが、中身が変わったかといえばほとんど過去の踏襲にすぎない。「革命」とは程遠い内容である。このような予算を作るためにも膨大な時間と金を掛けているが、無駄と非効率な日本の現状を象徴している。どれだけ国民の生活に資するインパクトのある予算を作ることができるかが、問われなければならないのだが、そのような努力や視点は窺えず、圧力団体の意見を取り入れた医療関係費や米国追随姿勢を強める防衛費などが目立つばかりだ。国民のための予算ではなく、政治力のある特定の団体のための予算といえる。
「財政健全化」とはいえ国債発行額は今年度当初比6,776億円減にすぎず、プライマリーバランスもほとんど改善しない。公債依存度は34.5%と高止まりしており、財政の規律は緩んだままである。国の債務残高は膨れるばかりで、いつになれば債務を減らすことができるのだろうか。債務を積極的に削減しようという政治家の意志は汲み取れない。いざとなれば、増税すれば債務に歯止めを掛けることができると考えているのだろう。
2018年度の一般会計予算案は97.7兆円と当初予算比0.3%増である。過去5年ほど予算規模は大きく変化していない。決算額では、金融危機が発生した2008年度の84.6兆円から、急激に減少した需要を補うために2009年度には100.9兆円へと急増、その翌年は95.3兆円に減額されたが、東北大震災により、2011年度は100.7兆円と再び100兆円を超えた。その後は100兆円を下回っているが、金融危機以前の最高である1999年度の89.0兆円を大幅に超える状態が続いている。
1980年代後半の株式・不動産バブル崩壊が日本の経済力を著しく弱め、その影響は長く続いていた。1997年には証券・銀行が行き詰まり、消費は落ち込み、公的部門の拡大により、辛うじて日本経済は保たれていた。
1997年度から2007年度までの10年間で名目最終消費支出は4.0%と横ばい状態であった。消費がほぼ停滞している状況下、貯蓄超過になれば、経済は縮小することになる。過剰貯蓄を直ちに吸収できるのは公的支出しかない。だが、同期間の一般会計の歳出は4.2%増と最終消費支出並みの伸びにとどまった。その結果、名目GDPは10年間で0.5%減少したのだ。
2007年度から2017年度(予想)までの10年間では最終消費支出は約3%増と2007年度までの10年間よりもさらに伸びは低下した。だが、一般会計歳出は19.0%と最終消費支出の伸びを大幅に上回り、名目GDPは3%の拡大を見込む。歳出を拡大したことによって、経済をわずかだがプラスにすることができそうである。
最終消費支出は経済の起点となり、最終消費支出が拡大しなければ、経済は動かないのである。そして、最終消費支出の低迷は公的部門依存度の上昇を避けがたくする。過去20年間、最終消費支出は不振であったが、人口減と高齢化が一段強まる環境では、最終消費支出をプラスに維持することは難しい。
『家計調査』によれば、2016年までの7年間の勤労者世帯(総世帯)の消費支出は5.5%落ち込んだ。一方、無職世帯は0.3%だがプラスであった。ただ、無職世帯の消費支出は20.1万円(月平均)と勤労者世帯の75.2%にとどまる。これからさらに増加していく無職世帯が今まで以上に消費を増やしていくとは考えにくい。勤労者世帯も所得の確実な拡大が見込めなければ、消費意欲を高めようとはしないだろう。
最終消費支出の低迷が続くという超過貯蓄を前提にすれば、これからも日本経済は公的部門に頼らざるを得ないのだ。公的部門に頼らなくても経済を維持できるほど、設備投資や輸出が拡大すればよいが、消費低迷下では設備投資の力強い回復は期待できないし、為替に左右される輸出に頼ることにも限度がある。
歳入の大半は税収と公債である。消費税率は2019年10月に10%に引き上げられるが、最終消費支出は間違いなく減少するだろう。そして公的支出は拡大されるはずだ。そのためには税収の拡大を図る必要があるが、所得税の累進性強化、金融資産・取引への課税、都市部の不動産取引への課税強化などが実施されるべきだ。特に、東京など首都圏の不動産価格の上昇が消費に及ぼしている影響は計り知れない。超低金利が不動産の取得を容易にしているが、それでも狭隘な土地に建つ住宅は環境を損ね、自然災害のリスクを高める。しかも、多くの住宅は数十年も経過すれば劣化し、とても耐久財とは言えない代物である。日本の年間住宅着工件数97.4万戸(2016年度)に対して米国は120.6万戸(2016年)である。米国の人口は3.26億人と日本1.26億人の2.6倍だが、年間の住宅着工件数は米国が23.8%上回るにすぎない。いかに日本の住宅産業は建て替え、つまり回転売買によって成り立っているかがわかる。土地の取得費に資金を奪われてしまい、住宅建築費を抑えなければならないことが、住宅の質に悪影響している。東京地区の天文学的地価をいかに抑え、消費財への支出により多くの資金を回すことができるかが、日本の行く末を決めるポイントのひとつだと考えている。

★次号は正月のため休刊とします。よい正月をお迎えください。

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