消費低迷でも緊縮財政と増税に走る世界経済

投稿者 曽我純, 10月2日 午後4:28, 2011年

4-6月期のユーロ圏GDPは前期比0.2%増にとどまり、景気減速が明らかになった。欧州委員会の予測(9月15日発表)によると、7-9月期は前期と同じ0.2%の伸びを見込んでいるが、ユーロ圏経済の3割弱を占めるドイツの成長率を0.4%と高めに想定しており、ドイツ経済の行方がユーロ圏の鍵を握る。

9月のユーロ圏PMIは49.2と09年7月以来の50割れとなり、9月の経済センチメント指数も94.0と4ヵ月連続で低下するなど、ユーロの景況感は過去数ヵ月で急速に悪化している。景気は悪化しているが、インフレ率は9月、前年比3.0%と前月から0.5ポイントも上昇し、景気低迷下の物価上昇という厄介な問題が持ち上がってきた。

ユーロを牽引しているドイツの景気が冷えてきていることが、ユーロ全体に不安な影を投げかけている。9月のIfoは107.5と3ヵ月連続で低下し、2月をピークに急激にドイツの景況感は悪化しつつある。特に、期待指数は7ヵ月連続で落ち込んでおり、先行きを厳しくみている。8月のドイツ小売売上高が前月比2.9%減少したことも、景気後退懸念を高め、債券買い株式売りに自信を与えている。

主要国の株価は軒並み下落しているが、過去3ヵ月でDAXは25.4%減とS&P500(14.3%)やTOPIX(10.4%)の下落率を大幅に上回っている。他方、ドイツ債の利回りは1.89%と3ヵ月で1.1%下落しており、株式から債券への資金シフトが急速に進んでいることがわかる。

ギリシャ救済のための資金供給に加えて、欧州金融機関のギリシャ国債関連の不良資産処理がユーロ経済を苦境に追い込んでいる。経済が厳しい状況に置かれていながら、財政規律を重んじ、民間部門に依存度を高めていくならば、ユーロ経済の収縮は避けられないだろう。ユーロの停滞だけならまだしも、米国経済も長期停滞に陥っているなかでは、外需も期待できず、民間部門はますます萎縮してしまう。

 米国の消費も沈滞している。8月の個人消費支出は前月比0.2%と弱く、実質ベースでは横ばいとなり、米国経済はかろうじて伸びているといったところだ。消費の低迷は所得が増えず、雇用が改善しないからだ。可処分所得は前月比横ばいとなり、実質では2ヵ月連続で減少した。このように所得環境が悪化する状態では消費の増加は期待できず、米国経済は不安定な状態から抜け出せない。

実質個人消費支出は前年比0.9%と7ヵ月連続の低下となり、2010年1月以来の低い伸びだ。実質個人消費支出の伸びが1%を下回るのは1990年代以降でも数えられるほど稀なことであり、ITバブル後の不況のときには1%割れは2001年9月に一度みただけである。実質個人消費支出が前年割れになれば、米国経済は後退に入ったといえる。向こう数ヵ月の間にそのような事態に出くわす可能性は高い。

米欧の景気悪化によって商品市況は急落している。9月末、CRBは298.15と2010年9月末以来の300割れだ。1ヵ月で金は11.3%、銀は27%もの暴落だ。日米のゼロ金利政策による商品バブルが弾けつつある。商品相場の急落でヘッジファンドのなかには破綻するところもでてくるだろう。世界景気の後退の程度によりCRBは200~250程度に低下するだろう。ユーロのインフレ率や米消費者物価のコアも上昇してきているが、商品市況の急落によって上昇率は低下していくはずだ。

日本の消費は欧米よりもさらに悪い。『家計調査』によると、8月の一般世帯の消費支出は前年比3.9%減と12ヵ月連続の前年割れである。特に、前年の伸びが高かったこともあり、耐久消費財が26.8%も落ち込み、これで4ヵ月連続の2桁減と不振である。『商業販売統計』の小売業売上高も8月、前年比2.6%と3ヵ月ぶりのマイナスとなった。四半期では昨年10-12月期以降3期連続減だが、7-9月期もおそらくマイナスになるだろう。原発による放射能汚染が、消費マインドを暗くし、消費する気持ちを起こさせないのではないか。

消費が落ち込んでいることなど目もくれず、28日、政府は復興増税11.2兆円を打ち出した。2013年からとはいえ、増税の心理的効果は大きい。給与が減少し、所得格差が拡大しているときに、増税を打ち出せば、それだけで消費は萎縮し、経済に深刻な影響をおよぼすだろう。米国でも富裕層からの増税で財源を手当てする方針だが、日本でも富裕層からの増税で財源を確保すべきだ。非正規社員の乏しい給与から搾り取るのではなく、高給を得ている正社員から取らねばならない。

30日、人事院は公務員給与の0.23%削減を勧告したが、まるで子供だましだ。このような仕事をしているなら、人事院を廃止したほうがコスト削減になるのではないか。バブル崩壊以降の民間給与減少により、税金から支払われている公務員給与が民間よりも高くなっている。退職金や年金を考慮すれば公務員の生涯報酬は民間をはなはだしく上回ることになる。500万人を超える公務員から年100万円削れば年5兆円の資金が捻出できる。10年間で50兆円にもなる。民間並みの給与に落とせば年10兆円は浮くことになる。一般会計予算の半分以上を国債で賄わなければならないにもかかわらず、公務員給与をほとんど減らすことができなかったが、公務員給与をカットすれば、財政赤字はかなり削減することができる。公務員家計の消費需要減の経済へのマイナス効果は大きく、マクロの落ち着きどころを予測することは難しいが、公的部門を改善するにはまず取り掛からなければならぬ。

子供手当てなど捻出するのはわけないのである。所得税率の累進性を強め、株式・債券、デリバティブ等の資産取引にも課税する。法人税率を下げてはいけないし、欠損法人からも徴税する手立てを考えねばならない。企業は競争力が低下するなどと法人税の軽減を主張するが、競争力の低下は自らが引き起こしているのであり、税金の問題ではない。税金が安ければ企業が強くなるというのはまやかしだ。巨額の現預金を保有し余裕資金を持て余していることのほうが問題である。企業自身が従業員への分配を少なくして墓穴を掘っていることを忘れてはいけない。懐が豊かであるにもかかわらず、減税で貯蓄に励みさらに企業は豊になるが、経済は疲弊することになる。法人税減税はこれまでの日本経済衰退の流れを強めるだけである。 

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