13日発表のIMFの世界経済予測によれば、今年の世界の経済成長率は前年比-4.4%と6月予測を0.8ポイント上方修正した。先進国は-5.8%と2.3ポイントの上方修正だが、日本は-5.3%、0.5ポイントの上方修正にとどまり、4月予測からは0.1ポイントの下方修正である。このIMFの予測は、新型コロナ感染者が増加している現状を考慮しておらず、次回予測では下方修正されるのではないだろうか。
日本は6月予測から0.5ポイント上方修正されただけで先進国の2.3ポイントに比べれば小幅である。2021年の経済成長率も2.3%と先進国3.9%を下回る見通しである。生産と消費はいずれも回復力が弱く、これから冬場にかけての経済活動は、さらに停滞感が強まるかもしれない。
そうした実体経済が不調ななかで、金融の動きだけは活況を呈している。『貸出・預金動向』(日銀)によれば、9月の貸出(銀行計)は前年比6.2%、預金は9.0%も伸びている。都銀だけを取り上げれば、貸出は7.3%、預金は10.4%もの伸びである。消費を控えていることや給付金が銀行等への預金急増に繋がっている。9月の預金(都銀・地銀・地銀Ⅱ、平均残高)は793.3兆円、1年前に比べて65.5兆円増である。人々は先行きの不安感が拭えず、貯蓄行動に走っているのだ。
貸出も伸びているが、預金ほどではない。銀行計貸出(平均残高)は9月、498.7兆円であり、前年比29.1兆円増と増加額は預金の半分以下である。だが、今年1-3月期の貸出は前年比2.1%、4-6月期4.9%、7-9月期6.4%という具合に著しく伸びてきている。これほど貸出が伸びていることは、実体経済も上向いているのではないかと想像させるが、実際には、実体経済は回復と呼べるような状態にはなっていない。それでは、貸出はどこに向かっているのだろうか。
政府がさまざまな新型コロナ対策を講じているが、5月から始まった民間金融機関による実質無利子・無担保融資によって、貸出は伸びているのだ。さらに、2021年末までの「住宅借入金等特別控除」も住宅ローンの拡大要因になっている。本来、到底貸すことができないところへ貸す制度なので、売上の減少の補填など、経済の活力を増すような資金の使い方ではなく、極めて後ろ向きの使い方といえる。多くの資金がこうした資金不足を補うような用途に使われていることが、貸出の伸びと実体経済が連動していない背景なのである。
預金は今年1-3月期の前年比3.0%から4-6月期6.1%、7-9月期8.7%と異常に伸びている。貸出も伸びているが、それをはるかに上回っており、9月の預金引く貸出は294.6兆円と預貸差は拡大している。概ね差額は日銀の当座預金に積み上げられており、それを原資に日銀は金融機関から国債を購入しているのだ。
『マネーストック』(日銀)によると、9月のM3は前年比7.4%増である。昨年10月の2.0%を底に伸び率は高くなっていたが、今年2月以降は9月まで8カ月連続で伸びは強まっている。特に、伸びが顕著なのは預金通貨であり、今年5月以降2桁増となり、9月は15.5%増だ。9月の預金通貨残高は806兆円、前年比108.2兆円増である。2020年度の一般会計予算によれば、国債発行額は約90兆円だが、預金の急増によって過去最高の巨額発行も消化されるだろう。
今年度の一般会計予算額は160.1兆円、2019年度(104.6兆円)の実に53.1%増である。これだけの公的支出を拡大していても、日本経済は失速した状態を続けているのだ。消費から預金という流れが緩やかにならない限り、消費の落ち込みを補うための公的支出拡大を止めることはできない。
『機械受注統計』によると、8月の総受注額は前年比-16.5%と4月以降5カ月連続の2桁減である。製造業、非製造業ともに2桁減であり、今回の不況は経済全体に及んでいることが分かる。世界的に新型コロナ感染が再拡大していることから、企業の設備投資意欲は容易に回復しないだろう。
設備投資は日本だけでなく欧米でも不振である。9月の米鉱工業生産指数によれば、生産財は前年比-11.1%、ユーロ圏の資本財生産も8月、前年比-13.2%と依然マイナス幅は大きく、欧米の企業も先行きを慎重にみているようだ。
輸出も新型コロナが収束するまでは回復することはなく、今のところ、輸出回復を見通すことはできない。設備投資が低調であり、その上、輸出も叶わないのであれば、公的需要に縋るほかない。超過貯蓄の日本経済は需要不足に苦しんでいるのだ。
しかも、新型コロナは来年、弱毒化するかどうかもわからない。まだ1年も経過していないので、これからより深刻な事態に陥るかもしれない。そうなれば、消費減と貯蓄増という家計行動は続くことになり、需要不足はますます拡大し、公的需要依存度は高くなるだろう。それこそ、2021年度の国債発行額は今年度の90兆円をさらに上回り、一般会計予算は200兆円に膨らむことも想定しておくべきかもしれない。
国民給付金は消費を刺激しなかったが、今後、2度目の措置を講じなければならない場面に直面するかもしれない。失業率の上昇などにより、生活が立ち行かない人たちが増えていくことが予想されるからである。
2013年の雇用に占める非正規雇用の割合は36.6%だったが、2019年には38.2%に上昇している。非正規雇用の割合が高くなっているところへ新型コロナが発生し、非正規雇用者の解雇が始まった。今年3月、非正規雇用者は前年比減となり減少幅は拡大しつつある。8月は前年比120万人減と前月よりも縮小したが、先行きは不透明である。一方、正規雇用者は3月以降も5月を除けば前年比プラスで推移しており、8月も38万人増である。
非正規雇用の賃金は低く、当然、貯蓄も正規に比べれば少ないだろう。『民間給与実態統計調査』(国税庁)によれば、2019年の非正規雇用の年平均給与は174.6万円だが、正規は503.4万円であり、非正規は正規の34.7%に過ぎない。第2次安倍政権が発足した2012年の同比率は35.9%、7年で1.2ポイントの低下だ。非正規の給与の伸びは正規より低かったということである。そうした非正規雇用の解雇は直ちに生活を成り立たなくする。そういった不安定極まりない脆弱な社会を安倍政権は作り上げたのだ。
賃金は安くかつ解雇されやすい非正規雇用が増加すれば増加するほど、一旦、深刻な不況になったときには、景気の谷はより深くなるし、景気回復のための公的支出は大きくなるのである。補正で160兆円の一般会計予算を成立させても、日本経済に然したる変化がみられない一因として、低賃金の非正規雇用の増加を挙げておきたい。