歴史的な商品相場の崩壊

投稿者 曽我純, 1月17日 午後3:30, 2016年

商品市況の値崩れによって、主要国の株式は売られ、債券は買われた。CRB指数は160を割り込み、2008年6月のピークの3分の1に崩落した。1980年以降では最低を更新しているが、どこまで下落するのだろうか。CRB指数を構成している19品目のひとつに原油が入っているが、WTIは30ドルを割り込み、2003年以来の安値を付けた。WTIは30ドルを割れたが、このあたりが下値になる根拠はなにもない。WTIの上昇の起点は中国のWTO加盟の2001年12月である。2001年12月末のWTIは約20ドルだった。それが中国の世界経済への組み込みにより、資源の大幅な需要拡大、資源高を招いた。

中国がWTOに加盟する以前のWTIの推移は長期間20ドル前後で安定していた。その後の原油価格高騰により、原油開発は活況となり、新たなシェールオイルも生産され、原油の供給能力は格段に拡大した。そこへ金融危機による世界経済の停滞、さらには中国経済の減速などにより、高い伸びを予想していた原油需要のシナリオは崩れてしまった。供給拡大と需要低迷の同時発生が起これば、価格が下落することは避けられない。WTIが30ドルから20ドル前後に下落することもありうるのだ。一時140ドルを超えていたWTIはすでにその2割の水準に下落しているが、それでも底値を見いだせない。まさにバブルの崩壊なのである。WTIの底値がわからないことには、CRBもまだ下げ余地があるということだ。

商品バブルの崩壊は取りも直さず、世界経済の低迷を映し出していることでもある。世界経済の成長率は低下し、企業業績は悪化することを示唆している。だから、資金の株式離れが本格化しているのである。これまではなんとかゼロ金利で誤魔化していたけれども、米国が利上げをしたことで、株式市場の環境は変わってきた。米国の持続的な利上げを前提にすれば、世界の資金の流れは大きく変化し、為替、債券、株式は絡み合いながら、さまざまなルートを経由して思いもよらぬ変動をもたらすことになるだろう。そのような変動はだれも予測することはできない。不安が不安を呼び相場は大きく動くことになる。人間の知識やましてや予測能力はたかが知れている。

商品バブルの崩壊は、世界的に物価を押し下げることは間違いない。日銀は2%の物価目標を掲げたままだが、歴史的な商品相場崩壊の過程で消費者物価が上昇することなどあり得ない。常識が通用しない頭の持ち主が日銀には多いのだ。原子力村同様、特殊な集団としか考えられない。昨年11月の消費者物価指数は前年を僅かに上回っているが、早晩、マイナスになり、しかもマイナス幅は大きくなっていくだろう。デフレがこれから強くなるともいえる。

資源輸入国の日本は資源安の恩恵を米国よりもより多く得ることから、消費者物価の下がり方も日本がより大きいといえる。日米の物価格差から為替は円高に進むことになるだろう。さらに経常収支の黒字幅は拡大し、それが円買いドル売りに繋がる。円高ドル安になれば、ドル建ての商品価格は、一層下落することになり、日本の消費者物価は予想を超える下落を示すことになろう。日銀の物価上昇シナリオとは全く反対の結果が待ち受けている。

米株も商品市況に遅ればせながら反応してきた。ダウは昨年のピークから12.5%の下落だ。米国経済は原油高によりエネルギー部門が拡大し、その波及効果の恩恵を受けてきた。それが逆回転すれば、エネルギー部門縮小という形で米国経済を痛めることになる。

米鉱工業生産に占めるエネルギーの割合は27.52%であり、エネルギーの生産は昨年12月まで3ヵ月連続の前月比マイナスだ。前年比では8.9%落ち込み、鉱工業生産を前年比2.4%引き下げ、鉱工業生産指数も前年を1.8%下回り、これで2ヵ月連続の前年割れである。

エネルギー生産のピークは昨年2月であり、12月はそこから9.3%低下した。これは金融危機後の下落率を上回り、過去最大級の収縮であり、こうしたエネルギー生産の減少によって、非エネルギー生産も昨年央以降は足踏み状態である。米国経済はエネルギー部門の縮小に揺すぶられているのである。

 生産の悪化は米国だけでなく日米欧すべてにみられる現象である。エネルギー部門の不振が非エネルギーへ、さらには非製造業へと伝播している。世界経済全体が沈滞してきている。主要国の10年物国債の利回りは低下傾向を示しており、特に、日本は過去最低を更新、0.2%まで低下した。ドイツは0.5%、利上げを実施した米国も2.0%と低下気味である。

日本は国債利回りがいくら低下しても、資金需要が生まれてこない。日銀が年間80兆円の国債を購入し、利回りが低下しても、実体経済にプラスの効果はないのである。資源安の影響が物価をマイナスにするという期待が強く、特に、設備投資関連の需要は減少するだろう。デフレでもっとも有利なものは現金であり、現金志向は強まるはずだ。昨年12月の現金通貨は前年比6.3%と預金通貨(4.1%)よりも高く、準通貨は0.4%の伸びにとどまっている。保有しているだけで価値が増すというデフレ下の行動を取っているのである。

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