米国の雇用改善によって、円安ドル高が進行し、1月下旬以来の103円台に下落した。他方、ECBが金融緩和に踏み切らないことから対ユーロでドルは売られた。ユーロ高ドル安は商品市況の上昇をもたらし、CRB指数は2012年10月以来の高い水準に上昇した。S&P500は過去最高値を更新、米株高と円安ドル高を背景に、日経平均株価も1月第4週以来の1万5,000円の大台に乗せた。
1月の景気先行指数は前月比0.8%上昇し、2007年7月以来6年半ぶりの高い水準を示した。一致指数も昨年6月を底に7ヵ月連続で上昇し、水準は2008年7月以来となり、金融危機以前の景気に戻っている。だが、景気は駆け込み需要と公共事業で引き上げられているだけであり、先行指数はピーク近辺にあるはずだ。ディフュージョン指数の一致と遅行は1月、それぞれ100%となり、これ以上の景気の広がりは望めない。
企業業績は好転しているが、数字が示しているほど内容はよくない。昨年第4四半期の全産業の売上高は前年比3.8%と2010年第4四半期以来3年ぶりの高い伸びになった。が、前年同期が6.8%の大幅減であったことが、プラス幅を大きくした。営業利益は28.5%も伸びたけれども、これは人件費を削減したことによるところが大きい。人件費は2012年第1四半期以降8四半期連続の前年割れであり、第4四半期としては1992年以来21年ぶりの低い人件費となった。企業は売上高が3.8%伸びながら、人件費を3.9%も削減することによって、利益増を図ったのである。円安ドル高による原材料コスト高から売上原価は前年比3.9%と売上高並みに増加したが、販管費は1.1%前年を下回った。人件費を前年同期と同じと仮定すれば、営業利益は12.5%増にとどまる。
人件費削減は個々の企業にとっては、コストを引き下げ利益の拡大要因になるが、経済全体からすれば、購買力の低下となり、企業の作ったものが売れなくなり、利益もでなくなる。売上高、売上原価、営業利益の伸びはそれぞれ釣り合いが取れたものでなければならない。
人件費は役員と従業員の給与と賞与、福利厚生費からなるがそのすべてが削減されている。特に影響の大きい従業員給与は4.8%もの大幅減だ。従業員数も3.2%削減されているが、それでも従業員1人当たりの給与と賞与の合計額は前年比0.8%減少した。従業員が削減され続けている一方、役員は3四半期連続で増加している。
業績を企業規模別にみると、大企業(資本金10億円以上)の好業績が一目で分かる。大企業の売上高は前年比7.1%も伸びたが、中堅(資本金1億円以上10億円未満)と中小(資本金1億円未満)は2.7%、0.8%それぞれ伸びたにすぎない。営業利益も大企業は38.7%と圧倒している。が、伸び率は小幅だが2四半期連続で低下、原材料コスト高が響いている。
大企業を製造業と非製造業にわけてみると、非製造業が製造業の売上高の伸びを上回っているが、非製造業は人件費がプラスになり、製造業がマイナスになっていることが影響し、営業利益は製造業の86.6%増に対して、非製造業は15.1%増にとどまった。
円安ドル高の恩恵は製造業によくあらわれているが、なかでも大企業自動車・同付属品の営業利益は急増し、前年の約5倍に拡大し、製造業営業利益の25.7%を占めた。第4四半期としては2007年を抜き過去最高を更新した。自動車・同付属品の全規模営業利益(9,056億円)を規模別にみると、大企業8,548億円、中堅350億円、中小158億円と大企業が独り占めにしていることが分かる。自動車・同付属品従業員の給与と賞与の合計額は大企業を100とすると、中堅70、中小でも1千万円以上2千万円未満は43となり、企業規模の格差ははなはだしい。
営業利益は製造業中心に拡大しているが、設備投資マインドは改善せず、製造業は前年比0.7%の微増にとどまる。大半の部門がプラスに転じたことから非製造業は5.7%と3四半期連続増である。製造業はプラスになったものの、最も業績好調な大企業は4.9%減と6四半期連続減だ。今の業績拡大は一時的で長続きしないと予想しているからだ。
昨年末の利益剰余金は293.5兆円、前年よりも19.1兆円も増加し、純資産は539.2兆円に膨れた。自己資本比率は38.6%、前年よりも0.8ポイント高くなった。設備投資が低調なことから企業は使い道のない膨大な資金を抱えている。使い道のない資金は現預金や有価証券で保有しているが、預金金利はゼロに近いし、金融資産の運用利回りは低い。現預金の使い道が定まらず、保有しているだけでは企業は衰亡していくことになる。有効なかねの使い方もわからない企業が増え続けている。