円ドル相場は週末比で2円40銭円高ドル安に振れた。昨年12月第1週以来の円高ドル安だ。トランプ氏が米大統領選挙に勝利して以降、法人税の減税や財政支出による景気拡大期待、FRBの利上げ等を背景に、円安ドル高が進行していたが、11日に行われたトランプ氏の初の記者会見でこうした期待が、期待の域をでるものではないことに気づいてきたからである。すでに米国経済は失業率4.7%(昨年12月)、PCE物価指数(食品・エネルギーを除く)前年比1.6%(昨年11月)と理想に近い経済状態を実現しており、これから減税や財政出動を実施すれば、米国経済は過熱することになるだろう。
消費者物価は上昇力を強め、それにFRBは利上げで対応することになる。なすべきことは米大恐慌以降最大に拡大している所得・資産格差や肥大した金融経済の是正、トランプ氏が廃止するというオバマケアの一層の充実など米国経済の構造的問題を解決していくことなのである。こうした構造改革を実施していかなければ、米国経済は強くならない。トランプ氏のやろうとする小手先の政策が通用するような米国経済ではない。
トランプ氏の経済政策はこうした構造問題に目をつぶり、大企業寄りの政策を推進していくものである。選挙でトランプ氏を支持した低所得者の白人に対してトランプ氏の経済政策は彼らの期待を裏切ることになるだろう。トランプ氏の通商政策、米国第1主義では貿易取引は縮小し、物価は上昇することになり、低所得者層の生活は厳しくなるのではないか。消費性向の高い低所得層は消費性向の低い高所得層に比べて、物価上昇の影響を受けやすいからだ。
財政支出の拡大にしても、税収が変わらないとすれば、財政赤字は拡大し、国債利回りの上昇やドル安進行が起こりやすくなる。さまざまな脱税方法を駆使して実際の米法人税はすでに十分低いため、法人税減税はプラスよりもマイナス効果が大きくなるだろう。企業の税引き後利益が増加したからといって、経済が良くなるわけではない。企業の利益が増加してもそれを溜め込むのでは有効需要は不足するからだ。企業の設備投資の拡大には消費支出の増加が不可欠なのである。トランプ氏の経済政策には個人消費を拡大するような政策は見当たらない。おそらく個人消費を拡大するという視点はトランプ氏の頭から完全に抜けているのだ。
経済政策以前の問題があまりにも多すぎる。品位のない傲慢さに満ちている。こうした悍ましい振る舞いを取り続けるのであれば、トランプ氏は大統領に就任しても早晩、地位を喪失するのではないだろうか。墓穴を掘る可能性は高い。身内を重要ポストに据え、トランプ帝国を構築するつもりなのだろう。だが、政権を身内で固め、独裁志向を強めれば強めるほど、政治経済の実態は見えなくなり、米国を誤った道に導くことになる。
トランプ氏の言動をみていれば、米国経済は発展ではなく衰退に向かうことになりそうだ。約2ヵ月続いたドル高や米株高は徒花に終わるだろう。ドル高や米株高に連れ高していた主要国の株式も米株の反落の影響をまともに受けることになる。
中国や東南アジアでの安物作りが一巡しつつあることから、世界経済の足取りは重い。低賃金を求めて世界に進出するというかつての帝国主義となんら変わらないやり方で物作りを追及してきたが、いつまでもそうした搾取を続けられるわけではない。経済の掟に従うならば、いずれ賃金は上昇し、うま味は薄れていくものだ。低賃金による低価格大量生産方式も曲がり角に差し掛かっている。世界経済の成長力も鈍化するということである。金融経済だけが増殖を続けることは不可能だ。