対ドルで円は大幅に上昇し、2016年11月以来の円高だ。円高ドル安により、米株などに比較して、日本株の反発は弱く、週間、TOPIXは0.3%にとどまった。1月の米消費者物価指数が予想を上回る上昇を示したことなどが、ドル安に繋がったようだ。黒田日銀総裁の再任は円安ドル高材料と考えられるが、日銀はすでに金融緩和の壁にぶち当たっており、日銀の為替相場への影響力は出尽くしている。
いまだに、日銀は国債を年80兆円購入すると主張しているが、2月10日時点の日銀保有国債額は449.3兆円、前年比30.8兆円増にとどまっている。しかも、今後5年間、年80兆円購入すれば400兆円も増大することになり、残高は850兆円となる。昨年9月末でも日銀の国債保有比率は40.9%だが、5年後には80%程度になるだろう。だが、日銀の国債購入先である金融機関の国債保有額は183兆円(昨年9月末)と日銀が購入額を拡大した2013年以降大幅に縮小しており、年80兆円も購入し続けることは不可能なのだ(年30兆円ならば可能だが)。このように、すでに日銀の金融政策は限界を露呈しているから、円安ドル高ではなく円高ドル安に向かっているのではないか。
日銀が金融機関から国債を買い現金を金融機関が受け取っても、そのカネの大半は日銀に預けられ、日銀は金融機関が預けたカネで国債を購入しており、金融政策といったところで、日銀と金融機関とのやり取りにすぎないのである。
企業は余剰資金を持て余しており、金融機関から借りたいところは、不動産関連など問題が発生しそうな企業であり、金融機関から非金融部門へカネはさほど流れてはいない。日銀の国債購入も金融部門内部でのカネの移動であり、だから、日銀がいくら国債を購入しても、実体経済は良くならず、金融中毒を日本全体に蔓延させるばかりなのである。
貸出金(国内銀行主要勘定)をみると、昨年11月は前年比2.9%伸びているが、黒田総裁就任後の約5年間、貸出に大きな変化はないのだ。マネーストック(平均残、M3)についても、2013年3月の前年比2.5%に対して、今年1月は2.9%である。巨額の国債を買いまくっても貸出やマネーストックは伸びないのである。マネタリストの考えに基づけば、貸出やマネーストックが伸びなければ、物価は上昇しないのではないか。
過去5年間の日銀の金融政策は貸出さえも伸ばすことができなかったが、その反省も検証もなく、これから5年間また同じことを繰り返すという。なにもかもやりっぱなしで、過去を顧みない。そして、何度も同じ過ちを犯す。日本とはそういう国なのであろうか。
第2次大戦、バブル崩壊、原発メルトダウン等何一つ徹底的に究明していない。歴史的大事件を振り返り、究明することによって、少し賢明になれるのだと思うが、適当に遣り過ごすのでは、知識は豊かにならない。今回の日銀総裁人事が安倍内閣の腹積りでなんなく決まるプロセスこそ、日本の弱体化を象徴しているとはいえまいか。
日銀が巨額の国債を購入しなくても、民間の需要が不足すれば、必然的に公的部門は拡大せざるを得ない。2017年度の公債は35.5兆円(補正後)、一般会計予算の35.9%を占め、名目GDPの6.5%に当たる。民間設備投資や純輸出が拡大すれば、公的部門の支出は少なくてすむけれども、現実には、バブル後の1990年代から日本経済は停滞しており、政府依存は強まっている。
1992年度には10兆円にも満たなかった国債発行額は1997年、1998年の金融危機に伴い、1999年度には37.5兆円と7年間で約4倍になった。ITバブル崩壊後、国債発行額は35兆円超にまで膨らんだが、金融危機直前の2007年度には25.3兆円まで縮小していた。だが、リーマンショック後の世界的不況から、2008年度、2009年度の日本の名目GDPは前年比4.1%、3.4%それぞれ落ち込んだ。2009年度、国債が51.9兆円も発行されたにもかかわらずだ。2009年度は国債が税収をはじめて上回り、2012年度までその状態は続いた。2011年3月の東日本大震災により、2011年度の国債は54.0兆円と過去最高を更新し、名目GDP比では10.9%に上昇した。これだけの大規模な財政出動しても民間需要を喚起できなかったのだ。
2008年の金融恐慌以降、民間設備投資は冷え込み、世界的不況による輸出不振から、頼れるのは政府部門のみという状態になった。完全な需要不足に陥った経済では、貯蓄・投資関係に基づけば、政府支出の拡大によってのみ貯蓄・投資関係は維持されるのである。日銀が大規模の国債購入をしようがしまいが、貯蓄・投資の関係が維持されるように国債は発行されるのだ。
国債発行額を減額するには民間設備投資や純輸出が拡大しなければならない。そのためには消費の伸びが不可欠だ。『家計調査』によれば、2017年の消費支出(二人以上の世帯)は名目前年比0.3%と3年ぶりのプラス、実質では-0.3%と4年連続のマイナスとなり、消費は低迷したままである。安倍政権以降の2013年、2014年、名目消費支出はプラスだったが、2017年を5年前の2012年と比較すると、2017年が1.1%少ないのである。日銀が国債を300兆円超購入しても、消費にはまったく効かなかったのだ。
2017年の実収入(二人以上の勤労者世帯)は前年比1.3%、実質では0.7%といずれも3年連続だが、微増にとどまり、消費を拡大させるにはいたっていない。『毎月勤労統計』によれば、2017年の現金給与総額は名目前年比0.4%と4年連続のプラスだが、最高でも0.5%と微増。実質では-0.2%と2015年以来のマイナスだ。黒田日銀総裁就任後の過去5年間で実質現金給与総額がプラスになったのは2016年(0.7%)だけである。このような寒い懐では消費マインドは改善するはずがないし、物価が上がることもない。これで2%に物価が上昇したら、円安ドル高の進行が本格化することになり、国債利回りは急騰しかねない。それこそ日銀は存亡の危機に陥り、日本経済も崩れてしまうだろう。日銀や安倍政権が主導する金融政策は日本経済を潰しかねないのだ。日銀は国債や株式の購入から手を引かなければならない。博打は身を亡ぼす。