株高の消費刺激効果はない

投稿者 曽我純, 9月13日 午後9:43, 2015年

株価の乱高下に伴い東証1部の売買代金は急増している。急落した8月25日には5兆円弱に達した。昨年の1日当たり売買金額(2.36兆円)を今年は大幅に上回りそうだ。売買が活発なことは売買回転率(代金)も高く、7月は年率126%と売買代金が平均時価総額を上回っている。8月の東証1部総売買代金の61.5%を外人が占め、個人は17.4%、自己は13.4%と続く。言ってしまえば、日本の株式市場は外人に牛耳られているといえる。その外人は8月第2週以降4週連続で売り越し、合計売り越し金額は1兆8,875億円に達している。

政府や日銀の尻馬に載った結果、株式は実体経済から掛け離れた高いところまで舞い上がってしまった。株式が上昇しているときは、株高効果が期待できるなどと上昇歓迎一色となる。だが、実際に株高が実体経済に効果を上げているのかどうかをみると、ほとんど効果がないことがわかる。博打が経済効果を上げない、むしろ社会の荒廃を招くというマイナスの効果が大きいことを鑑みるならば、賭博のような現在の株式はプラスよりもマイナス面が大きいように思う。

東証1部の個人の売り買い合計金額は8月、22.4兆円であった。これだけの巨額の金が動いているのである。上下動が激しくなれば、株価が気になり、スマホに気を取られ、仕事どころではなくなる個人も多いはずだ。夜中も市場が開いているので、睡眠もろくに取れない事態に陥っているのではないか。株式や為替の取引関係者は人間らしさとはほど遠い生活を送っている人も多いのではないだろうか。博打にのめり込むとは昼夜を忘れ、家族の関係までも歪めてしまうものなのだ。株式の活況は決して歓迎されるべきことではないのである。

8月の東証1部合計売買金額は128.4兆円だった。0.3%の有価証券取引税を掛ければ3,852億円の税収が得られる。一般人をむやみに株式に引きずり込むのではなく、遠ざけるためにも取引コストを株式売買に再導入することが必要不可欠だ。証券会社、投資信託、運用会社などが儲かるような社会は健全ではない。虚業はなるべき質素に目立たないように経営すべきである。

今年4-6月期のGDP改定値が公表されたが、実質528.9兆円、前期比0.3%減少した。デフレーターは前年比1.5%と前期よりも2ポイントも低下し、民間最終消費支出は-0.1%と2013年4-6月期以来8四半期ぶりの前年割れとなり、再び、デフレに陥ったといってよい。

日経平均株価は2012年10月以降急上昇し、今年4月には20,000円の大台を回復した。2012年10月からの上昇率は2.4倍強となった。これだけ急騰すれば、実体経済にもそれなりの好影響をおよぼしたと考えられるが、実際は期待を裏切るものであった。2014年度を2012年度の実質GDPと比較すると、2年間でGDPは6兆円、1.2%の増加にとどまった。主力の民間最終消費支出はマイナス0.7%、2.1兆円減少した。株高により、高額商品がよく売れたなどといわれているが、消費支出はまったく回復していない。消費増税による駆け込み需要が2013年度に発生し、前年比7.7兆円増加したが、2014年度には前年比約10兆円も減少してしまった。民間企業設備は3兆円増加したが、もっとも拡大したのは公的部門であり、2014年度までの2年間で4.8兆円増加した。公的部門は2008年度を底に拡大を続け、2014年度は2008年度比12.2兆円増加し、実質GDP構成比は23.8%と2008年度比1.4ポイントの上昇である。要は、国の財政拡大によって経済をかろうじて支えたのであり、株高の消費刺激効果はまったくみることができないのである。株式博打のマイナス面をもっと強調すべきであり、取引機械であるスマホ等の電子機器に熱中することの時間の浪費や精神的ストレスにも目を向ける必要がある。

消費支出の不振は雇用者報酬の推移からもあきらかである。名目では2010年度以降5年連続で増加しているが、2009年度が4.4%も激減したため、2014年度は252.5兆円と2008年度(254.2兆円)をまだ下回っている。2014年度の雇用者報酬を1997年度に比べると26.4兆円も減少しており、企業が長期間、雇用コストを削減し、消費支出不振の原因を作り出してきたことがわかる。

 生産年齢人口の減少も消費支出に影響していることは間違いない。名目GDPの推移と生産年齢人口には密接な関係を認めることができるからだ。生産年齢人口の伸び率は戦後一貫して低下しているが、GDPもまったく同じ傾向を示している。1950年代や1960年代の生産年齢人口は前年比2%を超えるような勢いがあったけれども、次第に、伸び率は鈍化し、株式バブルの頂点であった1989年には0.9%と1%を下回った。そして、1994年には前年比ゼロに、1996年はついに戦後初のマイナスになった。株式・土地バブルの崩壊に生産年齢人口の伸び率低下が加わり、名目GDP成長率は1993年、前年比0.8%と戦後最低の伸びとなり、1998年にはアジア通貨危機、銀行・証券会社の破綻や消費増税の影響もあり、初のマイナスに転落した。

 生産年齢人口の前年比マイナス幅は拡大し続けており、2009年には1%減、さらに団塊世代の65歳到来にともない、2013年、2014年はいずれも1.4%減、さらに2015年は1.5%にマイナス幅は拡大している。生産年齢人口がこれだけ減少していれば、消費は伸びるほうが不思議である。減少するのが当たり前なのだ。それを無理やり引き上げようとすれば、経済構造は歪んでしまう。消費は減少しながらでも生活の豊かさを増すことができるのである。各家庭の消費行動が見直され、豊かになるような生活の知恵を付けることが必要なのではあるまいか。

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