景況感の悪化や米中貿易戦争の始まりなどから日経平均株価は前週比、2.3%下落し、これで3週連続のマイナスである。外人は6月第3、4週で7千億円弱売り越す一方、日銀は6月、上場投信を7千億円超購入し、信託銀行は6月第1週から第4週までに4,361億円買い越している。日本株は引き続き日銀と公的年金が買い支えているのだ。とてもまともな市場とはいえない。社会主義経済の統制下にある株式だといえる。国債利回りをゼロに操作し、株式を煽り、売買回転率は1980年代後半のバブル期をはるかに上回る。博打が蔓延る社会の長期化が、日本経済をだめにしているのだ。
これほど活発な株式売買が持続しても実体経済にはほとんど影響していない。特に、経済の中枢を占める消費への株式の資産効果は皆無といってよいだろう。株式が過去最高値を更新した米国でも資産効果はあらわれていない。一握りの金持ち層が株式を支配する構造になっているから、株高の消費引き上げ効果は出てこないのだ。
活況な株式取引で潤っているのは証券会社や投資信託会社などの手数料を主な収入源としている企業だ。本来なら、証券会社は直接金融の担い手なのだが、そのような役割は見る影もない。銀行までが手数料欲しさに投信販売に明け暮れ、個人の金を吸血鬼のように吸い取っている。株式は経済を活性化するのではなく、元本を食いつぶし、本来なら消費に回るはずの金が証券会社や投資信託会社に吸い取られているだけなのである。
経済へのマイナス効果しかない株式博打の社会への悪影響が日本経済を蝕んでいるのだと思う。本来、生産的な分野に投入できる人・物・金が株式博打に投下されているからである。しかも、日本取引所は日銀も政府も加わるという国家ぐるみの博打場なのだ。いかに日本経済が異常であるかが、株式博打が証明している。日本経済はまともな経済とは似て非なる経済なのである。株式博打が続くあいだは、日本経済は荒んだ状態のままだと思う。
今年1-3月期の大企業製造業の業績を一瞥するだけで、株式への警戒感を強めなければならないことがわかる。売上高は昨年10-12月期までの高い伸びから1-3月期には前年比0.9%に低下し、営業利益も2桁増から0.9%に急低下した。4-6月期はマイナスに陥る可能性もある。こうした収益状況の悪化を目にすれば、買いよりも売りが優勢になるのは至極当然のことである。
6月調査の『短観』によれば、大企業製造業の業況判断は21と3月から3ポイント低下、これで2四半期連続の低下だ。先行きは21と6月と同じだが、営業利益の落ち込み方からみれば、企業の業況判断はいかにも甘いと言わざるを得ない。製造業で好調なのは機械だが、6月は3月比1ポイント低下の43となった。3月まで改善していただけに、他の指標などを考慮すると機械の業況判断はピークアウトの兆しとも読み取れる。
景気に敏感な資本財は、国内と海外での旺盛な需要に支えられていたが、貿易戦争も加わり一気に設備投資マインドが冷え込むことにもなりかねない。さまざまな分野で使用され経済の鏡である銅の市況は昨年の7月下旬以来、約1年ぶりの低い水準に落ち込んでいる。
大企業非製造業の業況判断は4四半期連続の23から1ポイント上昇し、24となった。建設は3月比1ポイント上昇の44、不動産は前期比横ばいとの37と高止まりしている。短期金利のマイナスにオリンピック特需が加わり、特に都区部の地価は著しく引き上げられ、バブル化しており、建設と不動産はその恩恵を享受している。他方、小売業の業況判断は3月よりも11ポイント悪化のゼロに低下し、非製造業のなかでは最も悪い。
『短観』では、今年度の大企業製造業経常利益は前期の20.8%から-8.6%に悪化すると予想しているが、設備投資(土地除く・ソフトウェア含む)は前期の6.5%から18.1%へと大幅に拡大する計画だ。減益だが、設備投資は強気だという矛盾した予測が立てられている。
それにしても小売業の業況判断は今の日本経済を象徴しているように思う。株式の活況とはあまりにも対照的である。個人の金を減少させるのが株式なのだという捉え方は、的を射ているのではないだろうか。将来の株価などだれもわからないことに大事な金をつぎ込む、まるで博打となんら変わらないことをしているのだ。博打が経済を良くするなどと考えている人は極めて少ない。むしろ、博打は身を亡ぼすことになるので、近づいてはいけないところだと大抵の人は心得ているのではないだろうか。
5月の『家計調査』によれば、消費支出は前年比-3.1%と4ヵ月連続で伸び率は低下している。年ベースの消費支出をみても、2017年は実質前年比-0.3%と4年連続のマイナスであり、第2次安倍内閣が発足してプラスになったのは2013年だけなのである。名目でも2017年の消費支出は2012年を1.1%下回っているのだ。あれほど大々的に異次元緩和などと触れ込んでも、消費はなにも変わらなかったのである。変わったのは期待で動くふわふわとした株式や為替など金融経済だけであった。勇ましい言葉ほど空虚なのは、いつも真実なのだと思う。安倍首相しかり、トランプ大統領しかりだ。