株式至上主義の米国の行く末

投稿者 曽我純, 11月11日 午前8:18, 2019年

米主要株価指数の過去最高更新は、ドルや商品市況を強くしている。金融経済だけでなく足取りが弱くなっている米実物経済にもなにがしかの影響を及ぼしている。改めて米国経済は株式中心に動いている思いを強くする。トランプ大統領はそのことをいままでのどの大統領よりもよく理解しているように思う。株式こそ大衆が経済の状態を判断するときに頼る大切な指標なのである。株式至上主義国の米国では、株式が堅調であれば、トランプ大統領が有利なのだ。政治や経済の込み入ったことには関心を示さなくても、刻々変動している株式なら分かりやすい。1年を切った大統領選に向けて株高の演出に一層力を入れるのではないだろうか。米中通商交渉もトランプ大統領の株式操作の道具と化している。

時価総額が50兆ドルを超えている世界最大の米株式が力強さを維持しているときには、資産運用者の運用余力は増し、リスクも取れるようになり、ファンダメンタルズ抜きで米国以外の出遅れている株式も買われることになる。日本株もその例にもれず、5週連続の上昇で年初来高値を更新しており、昨年末からの上昇率は16.9%に達し、NYダウの18.7%に近い。ドイツのDAXなどは25.3%とナスダック総合に近い上昇となっている一方、離脱の行方が定まらないイギリスのFT100は9.4%にとどまっている。米株の牽引力を思い知らされる。

円ドル相場も米株高によって円安ドル高に振れてきている。円安ドル高は外人にとって日本株を購入しやすくなる。10月の外人の東証1部の買い越しは今年4月以来6ヵ月ぶりであり、買い越し額は1.2兆円に上る。外人の資金流入があったから年初来高値を更新できたのである。

政治、経済と同じように日本株も米株次第なのである。独立国でありながら独立国でないような曖昧な国が日本なのだ。米株が上昇していれば日本株もそれなりにその恩恵を受けることになる。だが、米株が一旦崩れると日本株は大崩れとなるのである。米株よりももっと酷い事態となり、経済もより悪くなる。悪いときは米国の何倍も悪くなる覚悟が必要だ。

それは米国と違って貿易の影響を受けやすい外需依存経済だからである。米国の貿易収支は赤字続きであり、昨年は6,276億ドルと赤字額は拡大している。モノだけの赤字額は8,873億ドルと巨額である。昨年の米国の輸入額は3.12兆ドル、そのうちモノは2.56兆ドルである。因みに日本の輸入額は82.6兆円(2018年)であり、米国はモノだけで2.56兆ドルもの需要を作り出し世界経済を支えている。

米国経済が不況に陥れば、モノの輸入は減少する。2008年の金融恐慌の発生に伴い、米国経済は激しい収縮に見舞われたが、なかでも2009年のモノの輸入は前年比26.9%の5,589億ドルも減少し、世界経済に大打撃を与えた。ただ、米国の貿易収支は恒常的に赤字だったため、輸入の減少は赤字額の縮小となり、米国経済の落ち込みに対する緩衝材となったのである。2009年の米名目GDPは個人消費支出や設備投資が減少したが、貿易収支の改善により、成長率は1.8%減にとどまった。

2009年の日本の名目GDPは前年比6.0%も減少した。輸出が-32.4%と落ち込んだため、企業の設備投資が冷え込み、さらに個人消費も悪化するなどで深刻な不況に陥った。金融恐慌の震源地、米国の名目GDPが-1.8%に対して日本は-6.0%と米国のマイナスを大きく上回った。超過輸入国の米国は輸入を減少させることで、国内生産をそれほど落とさなかったが、日本の輸出入はほぼ同じ減少率であったことから、GDPへの寄与はほとんどなかった。大不況期には超過輸入国は不況の悪化を緩和する。

最近の米株上昇で米国株式の価額は53兆ドルに増加しているようだ。7-9月期の米名目GDPは21.5兆ドルだから、株式価額は名目GDPの2.47倍になる。2018年第3四半期を上回り過去最高を更新しているはずだ。今の株式価額・名目GDP比率はITバブル期や金融恐慌前の水準よりもはるかに高く、1951年以降の68年間で経験したことのない高い比率なのである。これほど実体経済と金融経済のバランスが崩れた状態が持続するとは考えられない。いつかなにかのちょっとしたきっかけでナイフエッジの上に立つような危ういバランスは崩れてしまうだろう。

ウォール街とトランプ大統領の思考は同じであり、株価は高ければ高いほうが良く、常に強気なのだ。宴後のことは考えない。彼らにとっては、今現在こそが大事なのである。美人投票の行き着くところは相手を出し抜き、一歩でも先んじることなのだ。投資が社会的にどうなのか、といった高尚な考えは少しもない。やるか遣られるかの世界なのである。トランプ大統領のディールもこれによく似ている。

人口増加国の米国経済のショック吸収度は日本のような人口減少国よりも高い。昨年の米人口は1%伸びているが、日本の総人口は0.21%減少している。日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は-0.63%、15歳未満はなんと-1.13%である。しかも、2009年から2018年の人口構成は著しく変わっている。その間、生産年齢人口は600万人減少し、人口構成比率は63.9%から59.7%に低下する半面、65歳以上は651万人増加し、22.8%から28.2%に上昇している。

日本人人口は-0.35%、43万人減であり、これからさらに減少数は拡大する。2009年から2018年の期間、日本人は212万人減、安倍首相が再登場した2012年から2018年でも180万人減である。2013年の減少率は-0.17%だったが、ほぼ毎年減少率は拡大しており、2018年は-0.35%である。総人口でも2012年から2018年では115万人減少しており、日本経済の容量は小さくなってきている。さらに、人口構成の大幅な変化による体力低下も加わり、外的ショックに耐える力は弱くなっている。

バランスを欠く米国経済が不況になれば、日本経済は猛烈な台風に襲われたような影響を受けるだろう。さらに、日本から海外資金は引き上げられ、日本株は急落する危険がある。日本株が崩れることになれば、株式運用比率を上げている公的年金や27.9兆円もの上場投信を保有している日銀は巨額の損失を被ることになろう。

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