日産前会長カルロス・ゴーンの逮捕は独裁の行き着く先であり、株式会社制度が今のような仕組みではこれからも起こり得るのだということを暗示している。巨大企業日産はゴーン、および限られたその側近で支配されていたのだ。ゴーンは思うままに会社を操縦し、自分で自分の給与を決めていた。こういうことが平然と行われていたのだから、日産は企業としての体をなしていなかったといえる。しかも長期間、独裁体制が続いていたのである。取締役会も機能せず、最高議決機関の株主総会も形骸化しており、経営者への縛り規制はまったく機能していなかった。
こうした企業は日産だけでなく他の上場大企業にも言えることだ。いくら不祥事が続いても、その場限りの対処で事を収めてしまう。だから、不祥事は繰り返されるのだ。企業経営を全うに遂行させるような仕組みを導入しないかぎり、経営者の独走や不祥事を止めることはできない。取締役会や株主総会が十分に機能していれば多くの問題ある事案はある程度解決されるだろう。だが、いまの取締役会や株主総会では経営をチェックすることはできない。いうなれば、取締役会や株主総会は形だけのものであり、お墨付きを与えるだけだからだ。
日産のように、大株主はルノーであり、フランス政府がルノーの株式を保有するようでは一部の利害関係者のみによって、重要な経営案件は決められる。日産に限らず、多くの上場企業の株式保有状況は特定株主で占められており、とても民主的に経営が進められるような状況ではない。大なり小なりゴーンのような独裁が蔓延る組織、仕組みになっているのだ。株式会社の宿命といってよいのかもしれない。企業をまともにするには、独裁・暴走を許さないように株式会社を作り直す以外にはない。
少なくとも取締役会を良識のある場にするには、最高経営責任者の顔色を窺いながら会議に臨むような人材の登用ではなく、経営側に対抗できる人材の投入が不可欠である。そこで自由闊達な議論が行なわれ、そこからあるべき経営方針がみえてくるようにしなければならない。あまりにも株式会社は意思決定のプロセスが特定の人に偏りすぎている。怖いもの知らずの独裁経営者を誕生させない仕組みを構築させることが喫緊の課題だといえる。
トランプ大統領の就任によってアメリカは中国やロシアにより近くなった。日本の安部首相も同類だと言ってよいだろう。民主主義国だが、独裁志向が強く、基本的考えは習近平やプーチンと変わらない。民主的な選挙で選んでもトランプ大統領や安部首相が現れてくるのだから、選挙によって選ばれない企業経営者は政治家よりも甘い基準で登場することになる。
企業経営者の大半は前任者の指名、特定のなかからの選別や世襲という方法で選ばれる。だから、民主主義の国でありながら、その中に異質な人事制度が組み込まれているのだ。外からはまったく見えない閉じられた世界で経営者は決定される。一旦、権力を掌握すれば、ゴーン流を振る舞ってみたいのではないだろうか。本当に偉くなったのだと舞い上がってしまう経営者を輩出することもある。ゴーンほど大胆に行動はできないが、流儀や思考は似たり寄ったりだと思う。
経営者の独裁・暴走を許さないためには、取締役会のメンバーに労働組合を参加させる、経営者の選出に社員の投票を採用するなどの方法を導入する必要がある。現在の取締役会は時代遅れも甚だしい。取締役の選出にも社員投票など広範な関与が望ましい。人間みな欲が深く、暴走しがちだ。株式会社制度に暴走を止める手立てが整備されていない点が最大の欠点だ。いかにこの点を克服し、民主主義により近い株式会社制度を作り上げることができるかが本格的に議論されるべきである。
東京オリンピックの次には大阪万博と政財官界は花火を打ち上げるのが好きな人たちばかりだ。自分たちの懐は痛まないのだから気楽なものだ。しかも、祭りは大衆を引き付けるにはうってつけだ。現実から逃避させ、政財官の醜さを一時的にでも逸らすことができるからである。
対GDPで世界一の財政赤字を抱えていることなど、政財官の眼中にはない。勤勉で貯蓄に精を出す国民性により、今のところ政府の赤字は家計部門でファイナンスされているが、少子高齢化などにより先のことはわからない。
保育園や介護施設も充分ではなく、働けど暮らしが楽にならない非正規労働の問題もある。IT技術の発展にもかかわらず、長時間労働は続き、生活の質は改善していない。所得格差・資産格差も開いたままだ。
安倍首相は24日、バッハIOC会長を福島に案内したが、福島は放射線管理区域と指定されるべきところが多い。2011年3月から福島第1原発は放射能を放出し続けているのだ。核燃料を取り出すというが、絵に描いた餅だ。今の方法を取り続ける限り、福島第1原発の収束は数百年後でも覚束ないのではないか。巨大な負の遺産は貴重な資産を呑み込み続けることになる。
目先の明るいところばかりに目は向かうが、その背後の酷い現実には目を背けがちである。現実に横たわる問題には、政財官は見て見ぬふりをし、大衆受けすることに注力する。大阪万博もそうした政財官の行動様式に則ったものである。
原油価格の急落に歯止めはかからない。週間で10.7%も落ち込み、バレル50ドルに接近した。これで今年10月3日の高値76.55ドルから34.1%もの急低下である。先週末に公表された11月のユーロ圏PMIは52.4と前月比0.7ポイント低下し、47ヵ月ぶりの低い水準だ。特に、製造業産出は50.4と5年5ヵ月ぶりの低い水準となり、製造業は拡大収縮の境目を示す微妙なところまで後退してきた。こうした景況感の悪化やサウジが減産に踏み切れないだろうという観測から原油の底値は見通せなくなった。
原油価格急落によって、世界的に物価は低下するだろう。食品・エネルギーを除いたコア指数は安定しているが、上昇気味だった総合指数も低下するはずだ。FRBは金融政策の変更を匂わせたが、現実に物価が低下し、経済が減速すれば、利上げの根拠はなくなる。原油価格の激しい下落は金融政策変更の可能性を一層高めた。円高ドル安への動きが顕著になるだろう。