株式・債券、分断及びコロナ

投稿者 曽我純, 11月16日 午前8:37, 2020年

世界的に新型コロナ感染者数が過去最多を更新しつつあるなかで、S&P500などの米株価は過去最高値を更新している。感染を防ぐワクチンの開発が報じられたことによって、一斉に株式買いに動いたからだ。だが、さまざまに変異しているウイルスに有効なワクチンが1年にも満たない短期間で開発できるのだろうか。株式はあまりに先走りすぎである。

もし1年後に、有効なワクチンが接種できるのであれば、世界経済の回復は確実となり、今から債券利回りは上昇しておかしくないはずだ。が、米債券利回りは週間、8ベイシスポイントの上昇にとどまっている。日欧の債券相場も、株式が燥ぐような様子は認められない。株式も債券も共に、経済の先行きを睨みながら値付けが行なわれるのだが、開発中のワクチンに対する評価は株式と債券では相当異なる。一体、どちらが正しい判断をしているのだろうか。

10年債米利回りは週末、0.89%と1%割れは約9カ月間続いているが、長い米債券史のなかで1%割れは今回がはじめてである。FRBが政策金利を向こう数年ゼロに据え置く、という声明を出しているため、このような異常な水準まで下がっているのだ。

ワクチンが使用できることになれば、米国経済は一気に拡大に向かうことになる。1年後か2年後か正確にはわからないけれども、数年後にはワクチンの有効性は明確になるだろう。そのようなシナリオを前提にすれば、債券相場もそう遠くない時点で崩れていくことになるのではないか。いずれにせよ、債券利回りは上昇することは間違いない。残存期間の短い債券を短期売買することで、リスクの低減を図っていくしかない。

債券利回りの上昇が予想されるのであれば、債券を手放し流動性のある現金を選好するだろう。現金もゼロ金利下では利息を生まないので、リスクはあるが、株式を買うしかない。このようにして米株は過去最高値を更新したのである。

債券利回りが1%未満に下がると、利益は変わらないとしても、利回りの低下だけで株式の現在価値を引き上げる。日米欧の中央銀行がすべて政策金利をゼロにしていることが、現在の株高をもたらしているのだ。来年の予測経済成長率は日米欧ともプラス成長である。プラス成長するけれども、政策金利はゼロに据え置くという矛盾した政策を続けることが、株式の優位性を作り出しているのだ。

今から30年前の1990年のFFレートは8.25%、米10年債利回りは9%であった。その後、政策金利(FFレート)のピークは時代を下るにつれて低くなり、2000年5月のITバブルによる引き上げでは6.5%、2006年6月には5.25%、2018年12月は2.25%とピークは著しく低くなった。政策金利の低下に伴い、短期よりも波動の小幅な10年債利回りはほぼ一貫して低下し続けてきた。現在の債券利回りは1990年のピークに比べれば、約8%も低いのだ。

日本の10年債利回りも1990年9月には8.7%に上昇していたが、バブル崩壊により、利回りは急低下していった。上下動はあるものの、利回りはほぼ一貫して下げ、銀行、証券会社の倒産続出で金融危機が深刻化していた1998年9月には0.76%と1%割れし、8年で8%の下げとなった。米金融恐慌前の2007年には2%近くまで戻していたが、再び低下し、2011年11月以降は1%を割り込む状態となった。さらに2016年以降はゼロ前後の水準で推移している。

こうした特異な債券相場下においてのみ株式は値上がりしていくのである。そうであれば、日銀はゼロ金利を続けていかざるを得ない。ほぼすべての金利がゼロという貨幣の流動性プレミアムを消滅させ、株式や一部の不動産だけがゼロ金利の恩恵を受ける経済を作り上げてきた。しかも、日銀は巨額の株式を購入しており、ゼロ金利の離脱は直ちに自分の首を絞めることになる。

 

米大統領選の開票が終わり、バイデン氏が306人の選挙人を獲得したが、トランプ大統領は敗北を認めず、選挙に「不正があった」といまだに嘯く。このような誹謗中傷が罷り通ること自体、民主主義を踏みにじることである。トランプ大統領の獲得投票数(7,273万票)を背景に、トランプ大統領の支持勢力、特に白人男性が鬱憤を募らせ、米国社会の分断を引き起こしている。そうした勢力を扇動することによって、分断をさらに深めているのがトランプ大統領なのである。

米国の分断から統合への道筋はいばらの道である。トランプ大統領支持層の白人男性は素直にバイデン氏のメッセージを受け取らないだろう。トランプ大統領も支持層を引き留めるために統合には反対するはずだ。トランプ後もバイデンとトランプの対立の構図が米国社会の統合に立ちはだかることになりそうだ。

 

感染者数が過去最多を更新していることから、11月のミシガン消費者センチメント指数は前月から低下し、11月7日までの新規失業保険申請件数も70.9万件と高止まりしている。10月の米消費者物価指数は前月比横ばいと伸び率は鈍化しつつあり、米国経済の足元は不確かである。寒さが厳しくなるにつれて、感染者の拡大に歯止めがかからないことになれば、外出等の規制が余儀なくされ、経済活動は不自由になるだろう。

欧州経済も新型コロナで回復は頓挫している。11月の独ZEW景気指数は前月比-17.1ポイントの39.0と2カ月連続で低下し、4月以来7カ月ぶりの低水準を付けた。ユーロ圏は同-19.5ポイントの32.9に低下しており、欧州経済は回復ではなく、再下降しているようだ。

ユーロ圏の鉱工業生産指数は9月、前月比-0.4%と4月以来のマイナスとなった。前年比では-6.8%と過去3カ月ほとんど変わりがないが、第4四半期のマイナス幅は拡大するだろう。企業は先行きを読めず、設備投資には慎重であり、資本財生産は前年を13.3%下回っている。

米株の過去最高値更新に連れて欧州の株式も買われているが、昨年末の水準を回復するにはいたっていない。日経平均株価は昨年末よりも高いが、TOPIXはまだ下回っている。日本も新型コロナ感染者数が過去最多を更新しており、感染の大きな波の中に入っているようだ。気温の低下と乾燥というウイルス生存の好環境下では、感染拡大を防ぐことは容易ではない。人の活動が制約されることにより、これから経済の弱い部分は立ち行かなくなるだろう。年末年始のかき入れ時に新型コロナで買い物や旅行がままならないことになれば、衰弱している飲食、宿泊などの接客業の多くは破綻するだろう。感染が過去最多を更新していながら何の対策も講じない鈍さが、弱者の経済的困窮に拍車を掛けることになる。

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