中国人民元の対ドルレートは2014年からドル高元安に動いており、その間10%ほど安くなっている。6年ぶりの元安であるにもかかわらず、中国の輸出は振るわず9月もドルベースで前年を10%も下回った。中国の輸出が不調ということは、世界経済の足取りが重いことを示している。8月の米貿易収支でも米国の中国からの財輸入は前月比横ばいだったが、四半期別では昨年第3四半期をピークに減少傾向にある。日本の貿易統計によれば、日本の中国からの輸入は8月、前年比-15.4%と3ヵ月連続の2桁減である。元安で価格が下落していることが大きく影響しているが、数量ベースでも8月までの過去3ヵ月を平均するとマイナスになる。IMFの世界の財輸入をみても数量ではほとんど停滞した状態にあり、資源価格の下落などから金額ベースでは7月、前年比6%減と2015年9月の-14.4%をピークにマイナス幅は縮小しているが、22ヵ月連続の前年割れだ。
中国は世界への輸出拡大で国内生産を維持してきたが、輸出が不振になると国内の生産設備の稼働率が低下することになり、中国の経済状況は厳しくなる。今、世界経済を牽引するのは中国ではなく、米国、EU、日本などの消費需要国である。中国の低賃金による価格競争力で世界的に需要を喚起していたが、中国はもはや低賃金ではなくなり、過去のような世界的な需要ブームは終わってしまった。主要国の需要停滞が中国の生産活動に打撃を加えており、そうした中国の生産部門の不振が中国経済全体に悪影響しているのだと思う。
8月の日本の経常収支は前年を23.1%上回る2兆円と3月以来5ヵ月ぶりに2兆円を超えた。経常収支の改善は貿易収支が今年の2月以降、7ヵ月連続で黒字を維持しているからだ。2014年には3.8兆円に落ち込んでいた経常収支は昨年、16.4兆円に急増し、今年は8月までで14.4兆円へとさらに拡大しており、通年では20兆円を突破するだろう。名目GDP比では4%に上昇し、米国から黒字額が多すぎると指摘されており、円安ドル高には進みにくい。
ポンドの対ドル相場は1ヵ月で7.9%急落し、それにつられてユーロや円も売られた。ただ、円の下落率はユーロに比べて小幅である。年20兆円もの経常黒字を計上するような国の通貨は実需のドル売り円買いにより、簡単に値下がりしないはずだ。物価についても、日本はマイナスであり、米国よりも優位にたっており、円高ドル安要因になる。
9月の米PPIや小売売上高が公表されたが、米国経済の見方を変えるような内容ではなかった。PPIコアの前年比伸び率は1.2%であり、小売売上高は前月比0.6%増加したが、前月がマイナス0.2%であったことを考慮すれば、意外性はない。7―9月期の3ヵ月をみれば小売売上高は前年比2.5%であり、4-6月期(2.6%)とほぼ同じである。
8月の米CPIは前年比1.1%だから実質では1.4%にすぎないのである。小売売上高がこのような低い伸びでは、FRBの経済予測を達成することはできない。ゼロに近い金利水準でもこの程度の小売売上高の伸びでは、利上げをすれば、さらに縮小するだろう。そうなれば米国経済は失速することになる。FRBがそのようなリスクを取るとはとても考えられない。年内利上げはないという見通しに変わりはない。
日本の『機械受注統計』によれば、8月の外需は前年比13.9%減と1月以降、8ヵ月連続のマイナスであり、世界的に設備投資マインドは冷えているといえる。外需は機械受注総額の約4割を占めているため、外需が落ち込めば民需(船舶・電力を除く)が伸びても、大きく伸びることはない。8月の民需は前年比11.6%伸びたが、外需が13.9%減少したため、総額は4.0%前年を下回った。昨年12月以降、総額はほぼ前年割れとなっており、外需の影響力が強いことがわかる。
2013年以降、民需は3年連続のプラスだが、2007年の水準を下回っている。非製造業は2007年を17%も超えているが、製造業は22.3%下回っており、製造業の不振が目立つ。2013年以降、総額もプラスだが、昨年の伸びは2.6%に鈍化しており、今年は外需の悪化から2012年以来、4年ぶりのマイナスになるだろう。
マネーストック統計によれば、9月のM3は前年比3.1%伸びた。現金通貨と預金通貨は5.2%、8.6%それぞれ増加する一方、準通貨は1.2%減少しており、預金者は準通貨から預金通貨に替えていることがわかる。現金通貨は今年4月には6.8%まで伸びたが、その後、徐々に伸びは鈍化しつつある。が、5.2%とは依然高い伸びだ。日銀のマイナス金利の導入で、家計などが手元に現金を蓄えておく姿勢を強めているのだろう。
M3は3.1%も伸びているが、8月の第3次産業活動指数は前年比1.0%の伸びにとどまっている。4-6月期の伸びは0.5%、7月はゼロ%であり、第3次産業活動指数はM3の伸びを下回っている状態が続いている。マネーの動きは活発だが、第3次産業は低調であり、マネーとは対照的である。
8月の第3次産業活動指数(季節調整値、2010=100)は104.1であり、約6年前に比べて4.1%しか伸びていない。情報通信業(8月、109.6)、金融・保険業(113.0)、医療・福祉(115.3)の指数は平均よりも高く、第3次産業を牽引しているが、それでもこれら3業種のウエイトは約3割であり、指数が100に満たないマイナス業種を埋める程度なのである。