景気後退の真っ只中の日本経済

投稿者 曽我純, 11月4日 午後5:43, 2012年

経済や業績の急速な悪化にもかかわらず日経平均株価は2週間ぶりに9,000円台を回復した。よく持ち堪えていると思う。だが、収益の悪化は株式が割高になっていることであり、なにかをきっかけに、激しく売り込まれるだろう。

10月の雇用統計は予想よりも良かったが、NYダウは値下がりし、これで2週連続安となった。非農業部門雇用者は前月比17.1万人増加したが、11月分はどうなるかわからない。週労働時間は前月比横ばいが続いており、前年比でも伸びていない。稼ぎも横ばいで、前年比でも1.6%と消費者物価の伸びを考慮するとマイナスになる。これでは、本当に米国経済が良くなっているとはいえず、本格回復からは程遠い状態だ。

それにしても、日本経済は悪く、完全に景気は後退している。しかも相当深刻な落ち込みである。昨年の大震災を除けば、08年の金融危機に次ぐ急激な経済の後退だ。このような経済の悪化と政府による圧力から、日銀は2ヵ月連続で資産買入等の基金を増額した。「日本経済をしっかりと下支えする時だ」(日経社説、10月31日)という声もあるが、すでに言及しているように、資産買入等ではまったく経済効果はない。単に、日銀と金融機関との間の資金シフトにすぎないからだ。

デフレ経済でしかも景気が落ち込んでいるときに金を借りる人や企業は少ない。金を借りれば高い利息を払わなければならず、将来返済しなければならない元本はデフレで実質的には借りたときよりも増えることになるからだ。金融機関が借りる金利は限りなくゼロに近いが、貸出金利は高い。この利鞘で銀行は儲けているが、利鞘は大きすぎる。だから大手銀行の純利益は巨額になるのである。本当に金が非金融機関に流れ出ていくには、金融機関の利鞘を金融機関の再生産に最低限必要な収益を計上できる規模まで引き下げる必要がある。そうすれば預金は貸出に回るかもしれない。日銀が金融機関に強制的に貸出金利の引き下げに繋がる利鞘縮小に踏み込む以外に非金融機関に金が回る手立てはない。

デフレ経済の怖さを嫌というほど見せ付けられている。日本の電気メーカーの極端な資産償却である。先行き好調と予想し、巨額の設備投資を行ったが、売れ行きが落ちてしまい稼働率は著しく低下してしまった。デフレによる資本設備の減価に加え、負債の負担が増すことによって、バランスシートは大きく傷ついた。そこで設備稼働率の急低下に見舞われれば、資産価値は急落、場合によってはゼロになってしまう。売上回復が期待できなければ、不稼動資本設備は清算するしかないのである。ただし、借金だけは残る。ほかの資本設備が価値を生み出し、体制を維持することができなければ、すべてを清算するしかない。これが資本主義の掟なのだ。

鉱工業生産指数のなかの情報通信機械工業をみると、9月の生産指数(季節調整値)は58.7(2005=100)と前月比7.3%低下し、昨年11月以来の低い水準に落ち込んだ。7-9月期では63.0と前期比2.3%増加したが、このような低水準では今の経営には焼け石に水であろう。7-9月期の出荷も0.8%増加したが、前年比では30.0%減と見る影も無い。在庫や在庫率は大幅に減少しているが、それでもまだ十分に減らしたとはいえない。

10月のユーロ圏ESI(Economic Sentiment Indicator)は84.5と前月比0.7ポイント低下し、ユーロ圏景気は底無しの沼の様相を呈している。10-12月期のユーロ圏への輸出はまだ期待できない。対米輸出も伸びが鈍化しており、弱い状態が続くだろう。依存度の高い外需の不振により、情報通信機械工業の行方は依然混沌としている。

 9月の鉱工業生産指数は前月比4.1%と3ヵ月連続の低下となり、2011年4月以来の低い生産指数となった。出荷も4.4%減少し、在庫は2ヵ月連続で減少した。が、在庫率は2ヵ月ぶりに増加し、09年5月以来の高い水準に上昇した。生産水準を切り下げても出荷が生産以上に減少するため、在庫率指数は思うように下がらない。輸出の減少は続き、内需も弱く、生産はしばらく下降するだろう。

 鉱工業生産指数は数ヵ月後には底打ちする見通しだが、米国経済のもたつきや欧州の財政規律重視の政策により世界経済の回復は遅れ、それに伴い底打ち後の日本の生産も緩やかなものになるだろう。9月の鉱工業生産指数は86.5だが、2008年の金融危機以前のピークは110.1(2008年2月)であった。金融危機後、98.5(2011年2月)まで戻っていたが、大震災で3月急低下、だが、その後の回復力は弱く、再び下降を辿っている。

9月の生産指数は2008年2月のピーク比21.4%の低下である。ピークからすでに4年7ヵ月経過したが、これほどの生産の不振では、資本設備の維持は大変なことだろう。金融危機以前の生産指数のピークが、欧米の不動産バブルによりそれまでのピークよりも10%ほど引き上げられていたので、需要減は経営により深刻な影響を及ぼすことになった。おまけに日本の企業の資産は過剰であり、設備稼働率が落ちると余計に過剰が伸し掛かってくるというか、そういう構造問題を抱えていたことが問題だったのである。過剰資産を保有していた上に、欧米バブルで設備投資意欲は高まり、民間設備投資は07年度まで5年連続で増加した。だから桁違いの純損失の計上を余儀なくされる。まさに自業自得といえる。 

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