景気後退のリスク増す欧米経済

投稿者 曽我純, 9月18日 午後6:38, 2011年

ギリシャ国債の暴落によって欧州の主要銀行の株価は急落、信用不安が拡大した。14日のギリシャ国債(10年物)の利回りは25.6%と1ヵ月前に比べて約10%も上昇し、価格は4割下落した。ギリシャ国債を保有している銀行は大きな痛手を受け、投資家の不安は高まった。このまま事態を放置しておいたのでは、ギリシャ国債は紙屑になりかねず、やむなくメルケル首相、サルコジ大統領、パパンドレウ首相の電話会談で「ギリシャの将来はユーロ圏にある」(14日)と手を差し伸べざるを得なくなった。

先週末、ギリシャ国債の利回りは21.75%、14日比3.85%低下したが、依然異常な高水準にあり、金融支援というミルク補給だけでは限界があり、いつ危機が再燃するかわからない。ギリシャのGDPは大幅なマイナスであり、貿易収支も1-6月期、95億ユーロの赤字だ。インフレ率は8月、1.4%と低いが、失業率は15.0%と高止まっており、2010年の財政赤字はGDPの10.5%、政府の債務残高は142.8%に上昇している。

欧州委員会は15日、ユーロ圏の経済成長率を下方修正した。4-6月期のGDPは前期比0.2%に鈍化したが、7-9月期も0.2%、10-12月期は0.1%とほぼ横ばいで推移すると予想している。ユーロ圏経済の停滞が強くなれば、ギリシャ経済の落ち込み幅は一層大きくなり、この状態で財政をさらに引き締めることになれば、景気の悪化は必至であり、信用不安を鎮めることは難しい。

欧州経済の低迷の原因は米国同様、住宅バブル崩壊の処理が中途半端な状態にとどまっているからだ。住宅の差し押さえなどによって、住宅の在庫は増加しており、住宅価格は下がる傾向にある。住宅関連市場の低迷や貸出リスクの高まりから欧州の金融機関の家計への貸出は低迷している。そうしたなかで財政規律を重んじることになれば、ギリシャと同じように、欧州全体の経済が収縮することになる。

ECBの政策金利は1.25%だが、長期金利は各国の経済、信用状態等によって決まるため、政策金利と掛け離れた水準に上昇することがある。ギリシャのように20%を超えることになれば、怖くて国債を買う人がいなくなり、国が自力で資金調達をすることができなくなる。 ユーロ加盟国に財政規律を一律に課すことには無理があり、経済規模等により、ランク付けすることも必要である。ドイツのような国の基準に合わせることは所詮不可能なのである。そのあたりの折り合いをいかにつけるかは政治判断になる。

 ギリシャ国債の利回りが低下したため、危機感は緩和され、欧州の主要株式は買い戻され、4日連続の上昇となった。あくまでも買い戻しであり、それが一巡すれば、景気の行方に左右される展開となるだろう。債務問題はなくなるわけではなく、信用問題であるだけに引き続き株式に大きな影響を与え続けるはずだ。だが、ユーロの盟主であるドイツ経済は4-6月期のGDPが前期比0.1%と1-3月期の1.3%から大幅に鈍化し、ユーロ全域に暗雲を招いている。8月のIfo景況指数は108.7と2ヵ月連続の急低下となり、7-9月期のドイツGDPはさらに悪化するかもしれない。実体経済に後退の気配が忍び寄ってきているだけに、欧州の株式は買い戻し以上に株価を引き上げる材料はない。

米国の住宅も金融機関の差し押さえ物件や延滞債権の増加などで、市場の動きは依然鈍い。家計保有の不動産価額も減少に歯止めが掛からず、6月末には16.18兆ドル(Flow of Funds  Accounts)、3月末比0.4%減少した。これで5四半期連続減となり、06年末比では6.56兆ドルも目減りしてしまった。不動産がじわじわ減価していることが、米国経済にボディブローのように効いている。

日本の地価(全国市街地価格指数、全用途平均、日本不動産研究所)は1992年以降、19年連続の下落である。今年3月末も前年比4.1%低下し、ピークの1991年9月末の37.9%   の水準だが、下げ止まる兆しはみえない。実体経済の収益性と比較して地価が高いから下がるのである。ゼロ金利政策が資金コストを低下させ、投機的な側面を後押しし、実需を反映しにくくしている。

 米国もゼロ金利政策を長期間続けているが、住宅価格は軟調である。ゼロ金利を継続しても、不良資産を抱えている間は、住宅価格は回復せず、日本と同じように長期不況からの脱却は難しい。6月末のモーゲージ残高は13.6兆ドル、ピークからは約1兆ドル減少してはいるが、減少の速度は緩やかだ。米国の住宅価格はピークの06年から31.9%も下落しているが、いまだに巨額のモーゲージが残存していることは、住宅資産と負債との乖離が大きくなっていることでもある。借金の元利を払い続けていれば問題ないが、景気の悪化で滞納したり、払えなくなって差し押さえになれば、資金の出し手が損失を被ることになる。

モーゲージ資産の約半分に当たる6.2兆ドルを保有しているのは公的企業である。住宅価格の下落率から推計すれば兆ドル単位の損失が発生しているはずだ。これを表面化させずに、政府で抱えているが、この状態を続ければ続けるほど損失は拡大するばかりで、最終的には税金負担で処理せざるを得なくなる。

モーゲージをGDPや可処分所得に比較しても、まだ過去の水準に比べて高く、正常な値に戻ったとはいえない。モーゲージ残高は可処分所得の1.17倍と長期趨勢から逸脱している。可処分所得に比べてモーゲージが多いことは、借金をし過ぎており、返済不能になるリスクが大きいことをあらわしている。

8月の米小売売上高は前月比変わらずとなり、過去半年の小売業の売上げは低調である。家具や家電などの耐久消費財の売れ行きは良くなく、デパートは前月比、前年比ともにマイナスになった。消費は低迷しているが、8月の米消費者物価は前年比3.8%増、エネルギー・食品を除くコアも2.0%と昨年10月の0.6%を底にじわじわ上昇し、08年11月以来の高い伸びとなった。

政策金利からコアの消費者物価の伸び率を引いた実質金利はマイナス2%とマイナス幅は過去最大である。失業保険申請件数は増加しつつあり、雇用の悪化が予想される。物価が上昇しながら、失業率の高止まりで消費が低迷する状態が続きそうである。マイナスの実質金利でも実体経済は一向によくならないが、マネーゲームの分野だけはその恩恵に浴している。

2010年の米貧困率は15.1%と前年よりも0.8ポイント上昇し、1993年以来の高い水準となった。貧困者数は4,618万人、1959年の調査開始以来最高となり、貧困者の増加、所得不平等の拡大が消費低迷の原因になっていると考えられる。足元の景気悪化を食い止め、成長経路に乗せるには克服しなければならない課題がいかに多いことか。富裕層からの増税が議会で可決されるかどうかが最初の関門になる。(次号は休みます) 

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