景気判断を歪曲する内閣府と通産省

投稿者 曽我純, 9月2日 午後4:24, 2012年

日本株の経済への反応はなぜこれほど鈍感なのであろうか。景気の先取りではなく後追いである。景気先行指数は6月まで、すでに3ヵ月連続の前月比マイナスになっており、日本経済は今春以降、下り坂に入っていることを示している。『景気動向指数』は内閣府が作成しているが、自ら作っている統計に真摯に向き合っていない。活用しない統計であれば作る必要はない。文言をわずかに書き直し、それで通用するような『月例経済報告』など人・物・金の無駄使いの象徴といえる。

株式に引導を渡したのは、週末発表の7月の鉱工業生産だ。6月の速報では7月の鉱工業生産指数は前月比+4.5%の大幅増と予測されていたが、蓋を開けてみると1.2%のマイナスであった。強気筋もあまりの違いに愕然とし、売らざるを得なくなった。8月、9月の鉱工業生産指数は前月比0.1%、-3.3%とさらに悪化すると予測されており、この通り推移すると7-9月期では前期比-3.0%と2四半期連続減となる。これでは7-9月期の企業業績の悪化は必至であり、とても株式などに手に出すことはできない。年末までに日経平均株価は7,000円台に下落するだろう。

生産だけでなく消費も伸びが鈍化し、小売業では8ヵ月ぶりの前年割れとなった。景気に敏感な中小企業の製造業業況判断指数(商工中金)は8月、前月よりも3.6ポイントも低下した。「景気は、このところ一部に弱い動きがみられる」(月例経済報告、8月28日)ような生易しい状態ではなく、かなりの重症に陥っている。

7月の鉱工業生産の予測が大きく外れたのは、ウエイトの高い電子・デバイスが予測の前月比+19.3%ではなく-6.5%に落ち込んだからだ。情報通信も予測よりも伸びは縮小し、一般機械はプラス予想が実際にはマイナスになった。

このように鉱工業生産は下振れしているが、通産省は「生産は横ばい傾向」と判断。どこが横ばいなのだろうか。原発事故後も何食わぬ顔で原発推進を目論むくらいだから、世間の関心の薄い「鉱工業生産」の歪曲など意に介しないのだろう。

 鉱工業生産指数(2005=100)は今年1月(95.9、)をピークに7月には91.5に低下、出荷は4月の96.4から3ヵ月連続減で、7月には90.8に落ち込んだ。これでも通産省は「生産は横ばい傾向」なのだ。幾ら生産が落ちれば、「生産は低下」というのだろうか。

生産よりも出荷の減少が激しいため、在庫や在庫率は増加している。在庫指数2001年9月以来約11年ぶり、在庫率は09年6月以来約3年ぶりの高水準である。これほど在庫や在庫率が高ければ、企業は生産を縮小し、在庫を減らさなければならない。

 意図せざる在庫を抱え、企業は一層の生産縮小に走り出している。9月までの生産は予測よりももっと下振れするし、年内いっぱい生産は落ち込み続けるはずだ。そして在庫が適正水準に減少してから生産は回復に向かうだろう。

 異常な在庫を異常と捕らえず、いまだに「生産は横ばい傾向」という通産省。こうした杜撰な状況判断を平気で発表する官僚組織が一向に是正されず、事実の歪曲が繰り返されていることが、日本を衰退させているひとつの要因になっている。事実が歪められているため、適切な対応や処方できないからである。

企業もいまだに御上に頼る習性から抜け出せず、そうした企業体質が官僚を付け上がらせているのだ。最近のエレクトロニクス関連企業の凋落には目を覆うばかりだが、自立性の弱い日本企業の弱さがもろに出ている。世界・日本経済の動向を御上頼みで自らしっかりみてこなかった付けが回ってきている。そのうち景気は良くなるだろうといういいかげんな判断で設備投資したが、需要は目標を大幅に下回り、身動きができなくなってしまっている。

エレクトロニクスの暗澹たる状況は、液晶テレビ等を含む「情報通信機械工業」の出荷が昨年度、前年比18.7%減少したが、その後も一向に回復せず、さらに落ち込んでいる事実にあらわれている。デジタル化で2010年度が急増した反動で昨年度は減少したが、その後も反動の影響は大きく現われており、出荷はますます酷くなってきている。これではリストラも追いつかない。リストラに次ぐリストラで社員の士気は低下し、企業は崖っ縁に立たされている。

「情報通信機械工業」の出荷(季節調整値)は7月、72.6と前年同月の128.2と比べて43.4%も激減した。生産指数は同期間、21.8%低下したが、出荷ほどの減少ではなく、在庫は2倍、在庫率は3.6倍に拡大してしまった。これほど在庫を積み上げてしまったのは、まさしく将来の需要を読み間違えた経営者の判断ミスである。

「情報通信機械工業」の個別製品の7月出荷をみると、液晶テレビは前年比-86.6%、DVDビデオ-70.1%、ビデオカメラ-56.1%、デジタルカメラ-36.6%、カーナビ-17.1%と壊滅的である。液晶テレビの在庫率は2,033.6%と目を疑うような数値だ。これでは液晶テレビを主要製品にしている企業は生きていけない。

東証1部業種別株価指数の電気機器は8月末890.75と月末値では09年2月を下回り、バブル後の最安値を更新した。ITバブルで沸いた1999年12月末の高値から75.5%の下落であり、ハイテク株を抱えているところほど、評価損は巨額になっている。

今春まで生産を引っ張ってきたのは、政策効果で需要が盛り上がった輸送機械である。だが、輸送機械の生産、出荷指数のピークは今年4月であり、5月以降3ヵ月連続の前月比マイナスである。7月までの3ヵ月間の生産、出荷は14.9%、19.7%それぞれ減少し、政策効果で作られた需要が、今度は逆回転の展開を示しており、意図的特需の反動減が、自動車産業を苦しめることになりそうだ。

国が一部の巨大産業に施しを与える不公平な政策はやめるべきだ。当たり前のことだが、一時的には売れるが、持続はしない。戦後、このような偏った政策の実行で政官財が結びつき、甘い汁を吸ってきているが、まさに税金の無駄使いであった。いまだに偏向政策がむら社会を中心に作成されている。むら社会に属する一部の特権階級は豊かさを維持できるけれども、その他は瘦せ細ることになる。不公平、格差拡大等の内部矛盾によって、日本社会は荒れ、滅亡の危機に瀕することに成りかねない。 

PDFファイル
120903_.pdf (418.84 KB)
Author(s)