16日、G20が閉幕した。日本への名指しの非難はなかったものの、共同声明で「通貨の競争的な切り下げを回避する」、「競争力のために為替レートを目的とはせず」と表現され、いままでのように日本は過激な金融・為替に関する発言をすることはできなくなった。バーナンキFRB議長やラガドルIMF専務理事が日本を擁護したのは、米国も欧州も金融緩和では呉越同舟であり、薮蛇になるからだ。日米欧と新興国の対立が激しくなり、非難噴出し収拾がつかなくなる事態を回避するための無難な声明となった。円安ドル高は峠を越した。
円ドル相場は過去4ヵ月半で20%も円は下落し、2010年4月以来約2年10ヵ月ぶりの円安ドル高である。昨年下半期の貿易取引通貨別比率によると、輸入はドル建てが72.5%で円建ては22.9%だが、輸出はドル51.5%で円38.4%であり、円安ドル高の影響は輸入がより出やすい。しかも昨年は輸入が輸出を6.9兆円上回っており、2年連続の貿易赤字となっている。輸入超過でしかもドル建てが7割以上を占めているため、貿易赤字額は大幅に拡大することになる。
昨年10-12月期のユーロ圏実質GDPは前期比0.6%も落ち込み、深刻な不況下にあり、同様に米国もマイナスであった。円高・ドル安ユーロ安の進行により日本製品が安くなっても、欧米経済が低迷している状態では輸出はそれほど伸びないだろう。むしろ輸入価格上昇による輸入額の拡大が心配である。
昨年の輸入額は前年比3.8%増の70.6兆円であった。2012年の平均円ドル相場は1ドル=80円であり、今は93円台である。もし今年の円ドル相場が93円だと仮定すると、昨年よりも1ドル当たり13円も余計に払わなくてはならない。すべてドル建てで、今年も昨年と同量を輸入するとすれば、輸入額は82兆円になる。輸出が10%増加して70兆円に増加しても12兆円の貿易赤字になる。サービス収支は毎年赤字であるので、経常黒字も消えてしまうことになる。
経常収支で黒字も計上できなくなれば、今度は円売りが本格化することになるだろう。巨額の財政赤字に経常赤字が加われば、円の信認は失われることになるからだ。落ち着いている物価が上昇しだすと、円の価値はさらに下落することになり、手がつけられなくなる。市場の動きは往々にして、ほどほどではすまなくなるので、円安も日本経済を混乱に陥れるほどに進行するだろう。そのようにならないためにも、政権は金融政策をごり押し、市場介入する行動は禁物である。
14日、昨年10-12月期のGDP統計が公表された。名目GDPは年率470.8兆円と前期を下回り、大震災後の2011年4-6月期以来6四半期ぶりの低水準に落ち込んだ。これで3四半期連続減となり、景気後退が深刻化していることがあきらかになった。
実質前期比-0.4%と7-9月期の-1.0%から縮小したとはいえ、今後どのようになるかはわからず、政府やマスコミのように安易に良い方向に向かっているとはいえない。しかもマスコミ等が取り上げるのは物価の下落で嵩上げされている実質GDPであり、これだと前期比-0.1%と名目よりもはるかにマイナス幅は小さくなる。が、実質は実体が無いのである。そもそもGDP統計は他の経済統計から推計したものであり、曖昧さが付き纏うものだ。そこへきて、物価の下落が加われば、実質はますます架空の数字になってくる。
今の実質GDP統計は2005年の物価を100として求めたものである。2012年の物価指数は91.6に低下しているので、2012年の名目GDPは475.7兆円だが、これを物価指数で除すと実質では519.2兆円になる。物価指数の下落で実質は名目よりも43.5兆円も多くなっているのである。
名目家計最終消費支出(帰属家賃除く)は3四半期ぶりに増加し、住宅は東北3県の特需により、09年1-3月期以来15四半期ぶりの高い水準だ。だが、民間設備投資はふるわず4四半期連続減となった。民間設備投資の冷え込みや民間在庫の減少により、民需は3四半期連続で減少した。半面、公的支出は公共事業が4四半期連続のプラスになったほか、政府最終消費支出も拡大し、公的支出の合計額は122.1兆円と2002年7-9月期以来約10年ぶりの規模となった。
公的需要の拡大とGDPの縮小によって、GDPに占める公的需要の比率は2012年10-12月期、25.9%に上昇し、今回公表された1994年1-3月期以降では最高である。大震災後の2011年4-6月期に25.3%に上昇したが、昨年7-9月期にこれを上回り、10-12月期はさらに上昇した。今の日本経済は紛れも無く公的需要で持っているのだ。だが、これだけ公共事業を拡大しても、プラスに転じないのである。
10-12月期の名目GDPは前年比でも-0.3%と2四半期連続の前年割れだ。だが、公的固定資本形成は前年比18.7%と3四半期連続の2桁増となり、これだけでGDPを0.9%も引き上げた。外需と民間設備投資の不振により、前年比でもマイナスから抜け出すことができなかったが、1-3月期も伸びるのは公共事業くらいでGDPの前年割れは続くだろう。
安部首相の経済政策は、すでに異常に拡大している公共事業の規模をさらに大きくし、消費税率引き上げのために、政府主導で4-6月期のGDPを無理やり成長させようとしている。このような公共事業主体の経済回復を行っても、効果は来年度だけであり、消費税率が引き上げられる2014年度以降は惨憺たる経済状態になるのは目に見えている。
公共事業はこれまで自民党が散々やってきた政策の踏襲であり、新味はなにもないのである。それをアベノミクスなどとカタカナで表示することで、なにか新しい政策が実行されているかのような印象を与えている。マスコミもアベノミクスと囃したて、政府を支援している。まったく、原発事故後の出鱈目な報道と同じことが繰り返されているのだ。
すでに成長が止まってしまった日本経済を無理やり成長させることなどできはしない。成長しなくても国民が生活できる経済を構築していくことが求められているのだ。2012年の名目GDPは1991年レベルだということを肝に銘じておく必要がある。経済規模が21年前と同じでありながら、まだ成長の幻想を振り撒いているのは、滑稽なことだ。金融・不動産バブルの生成と崩壊や原発政策の破綻など日本経済を駄目にしてしまったのは自民党なのである。経済を潰した自民党ができることは、さらに日本を破壊することくらいだ。
公共事業が切れた後、深い不況に陥り、税収は伸びず、財政赤字は膨らみ、日本経済は満身創痍で身動きが取れなくなるだろう。憲法改正、集団的自衛権を目指すなど政治的冒険主義も日本の立場を危うくすることになる。今、安倍政権の進めている政策は、政治的にも経済的にも日本丸の舵を嵐の中へ大きく切ろうとしている。このまま安倍政権が突き進めている政策が実行されていけば、経済的に行き詰まり、戦後すぐに実施された財産税が俎上に載せられるかもしれない。