旧日本軍を彷彿させる日銀

投稿者 曽我純, 7月17日 午後4:56, 2016年

先週の日経平均株価は前週比9.2%と2009年12月第1週以来約6年半ぶりの急騰だ。参議院選で与党が大勝したことが影響したと考えられるが、それだけではこれだけの値上がりを説明することはできない。2014年12月14日に行われた衆議院選後の週間値上がり率は2.0%にすぎなかった。自公が3分の2を獲得し、圧勝したけれども、それほどの上昇ではなかった。円ドル相場などは1円も動かなかった。今回は為替も前週比4円以上変動した。特に、11日、12日の変化率が大きく、日経平均株価は前週比プラス1,391円のうち、989円は週前半の2日間で達成した。為替も2日間で4円16銭も円安にぶれた。英国のEU離脱などに伴う円高と株安の反動の面もあるだろうが、それだけではこの変動は説明できない。なにか別の要因があったのだ。

今、日本株を動かす最大の要因は為替である。為替の変動を説明できればそれだけで株価も説明したことになる。為替が1日で2円も動くことはめったにない。それだけのインパクトのある材料としては金融政策しかない。FRBの金融政策変更はしばらく実施されないことから、あるとすれば来週の7月28日、29日に開かれる日銀の決定会合である。新たに政策委員が加わり、黒田総裁の意向が反映されやすい体制となったことも、思惑を掻き立てる。そこに、バーナンキ前FRB議長が11日、政府の招きで来日したことのインパクトが加わり、金融政策変更観測が広まり、円安ドル高に勢いがついていった。週間でドルユーロはほとんど変化せず、円ドルのように動いた通貨はなかった。為替市場は円ドル相場だけに賭けたのである。

バーナンキ前FRB議長は11日、黒田日銀総裁と面談、その翌日の12日には安倍首相と会談した。マネタリストのバーナンキ氏であるから、貨幣供給量を増やす政策提言をしたことは間違いないだろう。日銀はさんざん国債を購入し金融機関に貨幣供給したけれども、なお足りないというのだ。食欲のない患者に食べ物を与えても口に運ばないが、それと同じで日本経済という体に問題があるので、金融機関から非金融部門にマネーが出ていかないのである。

安部首相がバーナンキ氏を招いたのは、金融政策うんぬんよりも政策の変更期待を市場参加者に抱かせ、円安を誘導し株高を図ることに力点が置かれていたのかもしれない。だが、このような小細工をしても、線香花火のように、瞬間楽しめるが、長持ちはしないのである。外人の経済学者を次々招いているが、どのような経済学者を呼び、話を聞いても、彼らの経済モデルには貨幣は入っていないので、所詮お伽噺以上の話にはならないのである。日本人自ら日本経済のあるべき姿について考え抜かねばならないのである。それを偏った変なマネタリストに聞いても、得るところは何もない。

やけのやんぱちで金融政策をやられても困るのである。黒田総裁が就任してからすでに3年以上になるが、年80兆円もの国債を買い続けても結局、実体経済にさしたる変化はないのである。それでも反省の欠片もなく、国債購入を続ける。企業がこのように愚かな政策を続けていれば倒産は確実だ。日銀の突撃で、日銀だけ倒産するのであればよいが、日本全体を巻き込み、恐慌にでも陥ることになれば、どうするのだろうか。日銀の行動は、旧陸軍などの無謀な行進を彷彿させる。まったく理屈が通用せず、邁進するのみの行き着く先は国民を奈落の底に突き落とすだけである。日銀にクーデターは起きないのだろうか。

企業の没落をみても結局は、競争とかに負けるのではなく、企業組織が腐り内部崩壊に至るケースが多い。第2次大戦にしてもそうである。治安維持法公布(大正14年)からその13年後の昭和13年には国家総動員法が成立。長い暗黒時代を経て、昭和20年8月14日、日本はポツダム宣言を受諾した。ただし、ポツダム宣言は昭和20年7月26日に発表されており、即刻受諾していれば、広島(8月6日)、長崎(8月9日)の原爆は投下されなかっただろうし、ソ連の対日参戦(8月9日)も回避できたかもしれない。事態が絶望的になってもなおポツダム宣言の通告を黙殺し、被害を著しく拡大させた。御前会議の面々が、国民を虫けらのように扱い、自己保身だけを目指した結果である。

イエスマンで固めた日銀の金融政策決定会合では、もはや会合の前に結論は決まっており、決定会合ではないのだ。会合は形式的でおざなりとなる。日銀組織にはなにの浄化作用も働かず、滓が溜まるばかりだ。日銀は軍隊組織に似ており、下から上には情報が伝わりにくいのだろう。そうした体質だから、いつまでも現実からかけ離れた目標を掲げたままなのだ。

日銀の金融政策が日本経済を崩すことに繋がるかもしれない。政府とぐるになり、国債購入と国債発行を限りなく拡大させていけば、国債や通貨の信用に対する不安があらわれてくるだろう。中国や北朝鮮などの対外的な不安を煽っているが、日本経済の内部に大きな崩壊の芽が成長していることのほうが深刻な問題である。国の借金や日銀の国へのファイナンスだけでなく、人口減、所得格差等内部の対処すべき問題は多い。外部からの攻撃ではなく、内部の問題で自壊していく可能性がより高いのである。

 

来週号以降、夏休みでしばらく休みます。

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