日銀は潔く失敗を認めよ

投稿者 曽我純, 9月18日 午後9:39, 2016年

為替・株式市場参加者は日米の金融政策を控え、神経質になっているが、米国については8月の小売売上高や鉱工業生産はいずれも前月比マイナスとなり、実体経済の基調は弱く、FRBの予想GDP達成は難しく、9月だけでなく11月、12月のFOMCでも利上げは見送られるだろう。日銀の黒田総裁はまだ金融緩和策があると強気の姿勢を保っているが、これまで実施してきた政策でなにが金融緩和しているというのだろうか。これまでにたびたび書いたけれども、日銀が国債をどれだけ購入したとしても、金融機関からお金が出ていかない。金融機関からお金は出ていかず、使い道がないので日銀に預ける、それをもとに日銀は国債を買う。日銀の金融緩和とは、こうしたことを繰り返しているだけなのだ。言ってしまえば、日銀は国債買い取り機関なのである。だが、このようなことは、日銀がやらなくても金融機関でできる。

実体経済が活発で資金需要が旺盛であれば、買いオペは効果を発揮するだろうが、長期的に経済が縮小しているときには、資金需要は低下、しかも企業は手持ち資金が有り余っているのだから日銀がいくら頑張って金融機関に資金供給しても、お金は社会に出ていかない。

新聞等の記事にも「大量のお金を市場に流し」とか「異次元緩和」という表現をよく見かけるが、どこにお金が流れているのかさっぱりわからない。市場と簡単に言うけれどもどこの市場なのだろうか。築地市場なのか、東京美術倶楽部の市場なのか。株式市場には日銀がETFを購入しているので流れているが、博打場に年6兆円ものお金を流すという、呆れるばかりだ。そのようなところにお金を流すことは間違っている。

そんなにお金が流れているのであれば、国民はもっとお金を使っているのではないだろうか。どこを見渡してみてもお金が大量にながれているところなど見当たらない。お金が流れていないから、実体経済も弱く、したがって物価も低下しているのだ。

日銀は社会に直接、お金を流すことはできない。社会には金融機関を通してしか流せない。家計や企業に直接、貸すことはできない。そうなれば金融機関と同じになり、中央銀行ではなくなる。だから、日銀は金融機関にはお金を大量に流しているが、そこから先のことについてはどうすることもできないのである。

「異次元緩和」もよくつかわれているが、現実とかけ離れた言葉である。緩和さえできていないのに、異次元を付け加えると言葉はますます踊ることになる。日銀が家計に直接100万円の減価貨幣を配るなら話は別だが。普通、日銀が減価紙幣を家計に供給することは考えられない。

日銀はいまだに2%の物価目標を掲げているが、家計消費支出や鉱工業生産の前年割れ、企業収益の悪化など消費者物価のマイナス幅が拡大する要因が強まっている。人口減、超高齢化等構造的に日本の消費は減少していき、物価は低下に向かうだろう。構造的に物価は低下するものと考えておかねばならない。日銀は完全に的外れの目標を設定し、自縄自縛に陥ってしまった。もともと特殊な組織であるだけに、一旦、掲げた目標を取り下げることには抵抗があるのだろう。しかも、政府に傀儡として仕えているだけに一層、身動きが取れなくなっている。金融政策の独立性を放棄した結果がこの無残な姿なのである。

そもそも金融政策の主目標が為替相場であったことが間違いのもとである。大々的に金融緩和を触れ込み、円高ドル安から円安ドル高に進行したが、資源高のさなかの円安ドル高は輸入価格の高騰により、マイナス面が大きく現われ、一部の業界にはプラスに作用したが、総合的に見れば為替の影響は、思ったほどではなかった。

数量ベースの輸出は2013年度と2014年度は前年比プラスとなったが、それでも0.6%、1.4%の小幅な伸びにとどまった。2015年も年度平均円ドル相場は1ド=120.39円と前年比11円17銭の円安だが、輸出は2.7%減少した。今年1-6月期は113円12銭と円高ドル安にぶれたため-2.3%と引き続きマイナスである。

2013年度の大企業製造業の売上高は前年比4.2%増加したが、前年度の落ち込みを取り戻した程度であり、2014年度は1.9%に鈍化、2015年度は-4.0と3年ぶりのマイナスとなった。営業利益も2013年度は67.1%と急増したが、2014年度は2.5%、2015年度は-3.8%と減益となったが、一段の円高ドル安により今年度は2桁減となるだろう。

企業業績の改善から家計消費増への波及を狙った政府・日銀の円安ドル高策は一時的なものでしかなかった。その円安ドル高でさえも、2015年央をピークに反転し、現在102円台とピークよりも23円もの円高ドル安で推移している。米国の利上げ観測を背景に高騰していた商品相場は急落、円高ドル安も加わり、円表示の資源価格は大幅に値下がりした。しかも、企業業績の悪化により、今年度の大企業製造業給与(法人企業統計、賞与含む)は減少するだろう。円安の恩恵をもっとも受ける大企業製造業の給与は大幅な増益になった2013年度でも前年比0.6%の微増にとどまり、2014年度も1.1%、2015年度はゼロであり、儲けは内部留保や自社株買いに充てている。

政府・日銀の狙いを企業は潰してしまったのである。企業寄りの政策を実施してうまくいった試はないのだ。手厚くしなければならないのは最終消費者である家計であり、生産者ではない。生産者の気持を慮って買いオペを拡大し、円安ドル高を図ったけれども、敗北に終わってしまった。一日も早く自縄自縛から抜け出すことを願う。

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