日銀とGPIFで100兆円の株式を保有するリスク

投稿者 曽我純, 2月4日 午後10:12, 2018年

1月の米雇用統計によって米国経済が予想以上に底堅いことが確認された。なかでも週平均賃金が前年比2.9%と3ヵ月連続の上昇となり、2009年6月以来9年5ヵ月ぶりの高い伸びとなったことに株式・債券市場関係者の関心は集まった。賃金が上昇し続けば、物価が上がり、FRBは利上げにより積極的になるのではないか。そうした懸念から債券は売られ、10年債利回りは4年ぶりの水準に上昇した。債券利回りの上昇は株式の現在価値を引き下げ、2日のNYダウは前日比665ドル安と約9年ぶりの下げ幅となった。

賃金の伸びは昨年9月、すでに2.8%に上昇し、今年1月と同じ2009年6月以来の伸びだったが、その時、債券市場はほとんど反応しなかった。伸び率を下2桁までみれば違いは僅か0.06ポイントである。これだけの賃金上昇率の差で物価が一気に上がるとは考えにくい。しかも、実質賃金では前年比1%ほどしか伸びていない。これくらいの賃金の伸びで、消費は増加するだろうか。おそらく、消費はほとんど変化しないだろう。

NYダウ株価は過去2年で約6割、10年で2倍にも急騰しているが、株高の資産効果は消費に表れていない。トップ1%の資産家が株高の恩恵をほとんど独り占めにしているのだから、普通の米国人にとって消費拡大は、賃金がより伸び懐が豊かにならなければならない。

株式がこれだけ大幅に下げるのは、バブル化しているからだ。株式の高所恐怖感を市場参加者は多かれ少なかれ抱いているから、なにか不安材料が出るとみんなが同じ行動を採るのである。今回の急落は株式市場の現状を浮き彫りにしたのである。

米10年債利回りが上昇したとはいえ、まだ3%に満たない。昨年10-12月期の名目GDPは前年比4.4%伸びた。これに比べれば債券利回りはまだ低く、上昇の余地は大きい。そのように市場参加者が思えば、先行き値下がりする債券を早目に売却する動きが強まることも予想される。債券利回りは政策金利を予測しながら動いているため、政策金利よりも先行する傾向がある。

昨年12月の米個人消費支出は前年比4.6%、10-12月期では4.5%と過去数四半期さほど変化していない。2017年では4.5%と前年よりも0.5ポイント高くなったが、2014年以降4年連続の4%台である。2017年の可処分所得が2.9%と2年連続の2%台の低い伸びから判断すれば、個人消費支出は健闘しているといえるだろう。

米債券利回りの上昇は主要国の債券相場にも波及し、ドイツ債の利回りも2年半ぶりの水準である。それでも1%に満たない超低利回りである。昨年10-12月期のユーロ圏GDPは実質前年比2.7%と米国を上回り、経済は堅調である。経済状態は米国よりも良いけれども、政策金利は依然ゼロである。このような経済と金融の関係は続くはずがないという観点から対ドルでユーロは上昇している。一方、日銀は現状維持を貫いているため、金融政策の違いから円は110円台に戻った。

FRBやECBも債券は購入しているけれども、日銀のように株式は購入していない。1月末の日銀保有の上場投信は17.7兆円、前月比4,752億円も増加している。昨年1年間の増加額は6兆円と月平均5,000億円も購入しているのだ。年間増加額は2013年以降5年連続増である。2010年末の保有額は142億円にすぎなかったが、いまでは17兆円を超える。日銀の異常な株買いである。

投資信託協会によれば昨年末の上場投信の純資産残高は30.7兆円、2010年の残高2.6兆円に比較すれば11.8倍にもなっている。日銀が上場投信の購入規模を拡大するにつれて、上場投信の純資産残高も急増していることがよくわかる。

2013年、外人は14.6兆円(東証1部)を買い越したが、2016年に3.6兆円売り越し、2017年は7,914億円の買い越しにとどまっている。2016年以降の買いの主役は証券会社の自己であり、日銀が上場投信の購入額を拡大していくにつれて、自己は買い越し額を拡大させ、2017年の買い越し額は6兆円を超えた。自己の異常な介入といえる。自己は2014年以降4年連続で買い越し、4年累計では10.4兆円だ。

信託銀行は外人が売り越しているときには買い越しており、2012年、2013年のように外人が買い越しているときは、売り越すというパターンがみられる。年金資金を使って株式を支える行動が窺える。

日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)といった公的資金を扱う機関が投機業者のような振る舞いを演じることは憂慮すべき事態である。日銀や年金が「投機の渦巻のなかの泡沫となると事態は重大である」(ケインズ、一般理論、p.177)

GPIFの運用資産額は162.6兆円(昨年9月末)、国内株式は26.05%の42.3兆円、外国株式は25.08%の40.7兆円である。日銀保有の上場投信17.7兆円を加えれば約100兆円になる。これだけ巨額の資金が株式で運用されているのである。中央銀行のゼロ金利政策などで株式投機は強まり続けている。日銀やGPIFが「投機の渦巻のなかの泡沫」になれば、数十兆円単位の資金が泡となるだろう。

米株のバブルが弾けることになれば、日本株も底なし状態になるだろう。1990年代以降のバブル崩壊は巨額損失、経営破綻等を引き起こしたが、今度は日銀やGPIFが激しいダメージを受けることになり、また巨額の損失が発生することになる。

1990年代のことを忘れたわけではあるまい。わかっていながら再び博打に手を出し、深みに入っていく。砂上の楼閣のような危うく脆い株式に手を出してはいけない。自ら責任を取ることができない資金運用をしてはいけない。ましてや、国民の金を巨額損失が発生するような株式で運用するのは間違っている。それほど運用に自信があるのであれば、身銭でとことんやってください。

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