日米の政権を支える悲惨指数の改善

投稿者 曽我純, 1月21日 午前9:02, 2019年

米中貿易戦争が解決に向かうような報道により、米株は前週比3.0%上昇した。アップルの売上高見通しの下方修正など忘れ去ったかのように。米株高によりドル高円安となり、日本株も値上がりした。市場参加者の変わり身の早さには驚かされる。株式市場は常に美人を求め続ける飽くなき欲望で渦巻いている。また、株式関係者はトランプ大統領の資質など歯牙にもかけない。独裁的だろうが、直情型であろうが、そんなことには無頓着なのだ。ただ、美人を一足早く探し出し、みなが出てきたところで素早く売り抜ける。株式市場とはこんなことの繰り返しなのである。百年前も今も変わりはしない。

『毎月勤労統計』がかまびすしいが、信頼性が高いと思われていた基幹統計でさえ規則が守られていなかったのだから、他の統計はどうなのかという疑問が湧いてくるのは当然のことだろう。日銀が四半期ごと公表する『短観』の「業況判断」もあれほどスムーズに描かれ、景気の山谷に概ね符号しているが、人がこれほど適切に業況を判断できるのだろうか、と思う。

過去に厚生労働省は数々の不正を重ねてきた。今回だけで800億円もの支出が必要というが、年金などこれまでの不始末で生じたコストは計り知れない。厚生労働省は国の予算の約3割(31.1兆円、2018年度)を配分される最大の部門だ。いつも二度と過ちを繰り返さないというが、隠蔽、捏造、改竄などの際限ない不正行為を止めるには、外部監査を導入しなければならないのではないか。

森友・加計関連でも費やされた経費はいかほどになったのだろうか。不正を行なえば莫大な追加支出を要する。金だけではなく命も失われている。1,100兆円におよぶ借金(国と地方の合計)を抱えているので、多少の経費など経費と思わないほど金銭感覚が麻痺してしまっているのかもしれない。しかも汗水たらしてこしらえた金ではなく、社会から巻き上げた税金だから、なおのこと金の大切さや値打ちに疎いのだ。これだけ国が借金をしていても給与ばかりか賞与も支給され続けているので、コスト意識など薄れてしまっているのだろう。

先週も『機械受注統計』、『企業物価指数』、『第3次産業活動指数』、『消費者物価』などが公表されたが、信頼に足る統計だろうか。昨年11月の機械受注(総額)は前年比5.6%と2ヵ月連続のプラスと底堅い。民需(船舶・電力を除く)は0.8%だったが、外需が18.6%も伸びたからだ。7-9月期の外需は4.3%減と7四半期ぶりに前年を下回ったけれども、10-12月期はプラスになりそうだ。ただ、工作機械や産業用ロボットの前年割れはより大きくなっており、中国の新車販売減などの影響を窺うことができる。

欧州中心に経済の減速が強まる中、外需は予想以上に健闘している。米国の対中制裁関税の影響は米国の統計にはさほどあらわれていない。昨年12月の米鉱工業生産は前月比0.3%、製造業に限れば1.1%も上昇した。昨年第4四半期でも製造業は前期比0.6%と前期より鈍化したものの悪くなっているとはいえない。鉱工業生産を牽引しているのはエネルギー部門であり、非エネルギー部門では自動車・同部品で、前月比4.7%増加した。なお、政府機関の一部閉鎖がセンサス局にもおよび、12月の小売売上高と住宅着工は公表されていない。

 

日本の昨年12月CPI(総合)は前年比0.3%と昨年10月の1.4%から大幅に低下した。原油価格の急落など商品市況の下落が国内物価に波及してきている。WTIは50ドル台に戻っているが、米株が上昇力を強めない限り、50ドル台から上にはいかないだろう。商品市況の低位安定が持続すれば、日本のCPIは前年比ゼロ近辺で推移するはずだ。生鮮食品を除くは前年比0.7%と10月から0.3ポイントの低下である。さらにエネルギーを除いたコアは前年比0.3%と11月と同じ伸びであり、1年を通してみれば、2月と3月が0.5%と高く、その後、コアの伸びは緩やかになった。

2018年のコア指数は前年比0.4%と前年よりも0.3ポイント上昇した。いずれにしてもコア指数は消費税率引き上げ後を除けば、2.0%超は1992年(2.5%)まで遡らなければならない。総合指数の2.0%超は1991年(3.3%)以降、経験していない。為替相場の変動や原油価格が上昇・下降しようが、日本のCPIへの影響は軽く、物価が大きく揺すぶられることはないのである。

日本のCPI総合は昨年12月、前年比0.3%、失業率は11月、2.5%である。米国のCPIは1.9%(昨年12月)、失業率は3.9%(昨年12月)。ドイツの物価HICPは1.7%(昨年12月)、失業率は3.3%(昨年11月)である。CPI上昇率に失業率の数値を加えて「悲惨指数」を求めると日本2.8、米5.8、独5.0となり、日本がもっとも低い。悲惨指数が低ければ経済社会は安定しており、高ければ生活困窮度が増し、社会はぎすぎす、混迷することになる。

金融恐慌で2009年10月には11.9まで上昇した米悲惨指数はその後低下し続け、昨年12月は5.8である。1999年のITバブル期の水準を下回る歴史的低水準にあり、経済的不満はずいぶん低くなっているはずだ。このような経済状況では与党は強いはずだが、下院では負けた。いかにトランプ大統領が信頼されていないかが中間選挙で明らかになった。

日本の悲惨指数は1980年代には6.0を超えていたが、1990年代以降概ね4.0前後で推移していた。だが、2016年からは徐々に低下していき、いまでは2.8と1980年代以降では最低の水準である。安倍政権が長期化しているのは、最も不満が出やすい失業や物価がことのほか改善され、格差拡大、人口減などいろいろな問題を抱えてはいるが、悲惨指数からみる限り、今は恵まれた時代だといえるからだ。

だから、森友・加計のような深刻な問題が露わになっても、しぶとくかわし、政権が存続しているのではないか。100年のあいだにも何度も出くわすことのない悲惨指数の低下が日米の政治体制を支えているのは間違いない。もし悲惨指数が上昇していたならば、安倍・トランプ政権は崩壊していたはずだ。

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