日本経済を酷くする日銀の金融緩和

投稿者 曽我純, 3月16日 午後4:14, 2014年

中国の経済指標が景気減速を示していることから銅が急落している。中国には銅を担保に資金を借り入れている企業もあり、銅急落により行き詰まるところも出てくるのではないかという不安が強まっている。ウクライナの動向も不透明であり、当面情勢を見るしかないといったところか。それにしても日本株の変動は激しい。銅はトン6,466ドルと前週比6.5%下落し、2010年7月以来の低い水準に落ち込んだ。ウクライナに接し、その影響力の大きい欧州株よりも日本株の値下がり率が上回っており、日経平均株価は週間で銅の下落率に近い6.2%も値を崩してしまった。

なぜこのように日本株は脆いのだろうか。外人に需給を握られているところが変動を大きくしているのだろう。外人の中心は欧州勢だが、自国の株式よりもまず海外の保有株を処分するのが常道なのだ。特に為替リスクもあり、早めの利食い損切りをせざるを得ない。2012年10月から昨年末までの外人買い越し額は17.7兆円に上っていることも外人売りが強まる要因だ。しかも昨年11月、12月の高騰時には4.7兆円も買い越し、見切り売りがでやすい。

日本株を買い進めたのは、日銀の金融緩和策に乗っただけであり、日本経済がどうのこうのといったことではない。金融緩和策がどのようなものかはっきりしないけれども、為替は円安ドル高に変わり、輸出企業はぼろもうけする。このようなおおまかなシナリオが生きている間は、日本株は買いだと考えていたのだろう。

だが、円安ドル高も1ド=100円程度で頭打ちとなっているだけでなく、円安ドル高の経済へのプラス面よりもマイナス面が露になってきており、これ以上日本株を買う魅力はないと外人は考えているのではないか。

 世界経済の回復力は思わしくなく、1月の数量でみた輸出は前年比0.2%減少する半面、輸入は8%増加した。金額では輸出は9.5%増加しているが、これはすべて円安による。輸入は円安がより強くあらわれ25.0%増だ。貿易収支の悪化で1月の経常収支は1兆5,890億円の過去最大の赤字になった。これで4ヵ月連続の赤字となり、しかも赤字額は急増している。

 経常赤字の原因は日銀の金融緩和であり、日銀にそうさせた安倍内閣の責任でもある。2011年からすでに貿易収支は赤字になっており、そのようなときに人為的に為替を円安ドル高にすることは貿易赤字を大きくし、物価を上昇させるだけであり、総合的に判断すれば、日本経済を傷める以外のなにものでもない。

 名目GDPは2012年、2013年と2年連続で持ち直しているが、2年間で7兆円、率にして1.5%増えただけだ。2013年の名目GDPは478.3兆円だが、内需は491.9兆円と名目GDPよりも13.6兆円多く、2008年以来5年ぶりの高い水準である。名目GDPが2010年の水準にも達していないのは、外需が2011年以降悪化しているからだ。2011年には4.2兆円の入超であったが、円安ドル高によって、入超額は2012年には9.3兆円、2013年は13.5兆円へと急拡大したからである。

 公的需要を2013年までの2年間で5.7兆円も増やしたが、外需はその間9.3兆円もマイナス幅が拡大しているのだ。政府の財政拡大で公共事業は増大する一方、日銀の金融緩和が円安ドル高を招き、外需は公的部門ではとうてい補いきれない入超になった。まさに金融財政政策による人為的結果なのである。

2013年、公的需要が前年並みであっても入超額も前年と変わらなければ、名目GDPは同じになる。消費者物価も今のように上がらず、より健全な経済の姿になっていたはずだ。

こうした政策により引き起こされた失政になにの咎めも無く、逆に政策を評価するという不思議な国である。安倍政権に圧力を掛けられて、追随してしまった日銀は巨額の財政赤字と経常赤字という双子の赤字になにの責任も感じないのだろうか。

3月10日時点の日銀の総資産は240.8兆円、そのうち国債は199.5兆円ある(1年前は166.0兆円、124.5兆円)。このような金融緩和をしても、日本経済は良くならない。金は人体をくまなく流れる血液にたとえられるが、だれにでもむやみやたらに輸血できないのと同じように、輸血を必要とする条件を満たしていなければ、輸血しても体は回復しない。日本経済は輸血して改善するような構造にはなっていない。金などは家計や企業にありあまるほどある。人口減、高齢化、非正社員の増加、資金の偏在等で最終需要が伸びないことに日本経済の問題があるのであり、金がないからではないのだ。だから、買いオペを極端に進めても金融機関の貸出はそれほど伸びない。実体経済はさほど変わらずに、為替が過度に反応しただけだ。結局、日本経済は良くなるどころか、円安ドル高が物価の上昇と経常赤字拡大を引き起こし、日本経済をより酷くしている。癌患者が抗癌剤なる毒薬で苦しむのと似ている。患者は苦しみ、命を取られるが、製薬会社と医療機関は儲ける。安倍政権や日銀にはなにの痛みもないのだ。原発と同じように、日本経済がどのようになろうが、責任などだれもとらないだろう。困るのは患者である国民なのである。

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