今年も残り少なくなったが、日経平均株価は週末、今年最安値の水準に落ち込んだ。週末値では09年3月第3週以来の低い水準である。TOPIXは年初来安値を更新し、昨年末を19.9%も下回ってしまった。欧州の株価も下落しているが、DAXは昨年末比16.1%減、FTSE100は9.1%減といずれも日本株よりも下落率は小さく、NYダウにいたっては前年末を1.9%上回っており、日本株の不振が目立つ。
欧州の国債価格下落による金融危機の嵐が日本株に強く吹き付けている。株式は風雪に曝されているが、日本国債の利回りは約1年ぶりの低い水準に低下し、欧州債務危機の影響を窺うことはできない。為替相場も円がじわじわ上昇し、対ドルで76円台に乗った。10月末の政府の介入から3週間しか経過していないが、早くも介入の効果が薄れてきた。
今年度上半期(4月~9月)の貿易収支は1.6兆円の入超であり、円高のメリットが大きくなりつつある。今後、黒字には戻るけれども黒字額は小幅にとどまり、貿易収支の側面からの円買いドル売りはさほどでないように思う。
7-9月期の名目GDPは前期比1.4%と4四半期ぶりのプラスとなった。実質では1.5%とユーロ圏の0.2%や米国の0.6%を凌ぐ成長となった。名目の寄与度をみると、民間在庫(0.3%)と外需(0.4%)で成長率の約半分を占め、後は震災復旧関連による一時的需要拡大などが影響したと考えられる。7-9月期の鉱工業生産指数は前期比4.3%増加したが、これだけでGDPを1%近く引き上げた。ただ、9月の鉱工業生産指数は前月比-3.3%と3月以来の下落となるなど、今後、GDPは7-9月期のようには伸びないだろう。
名目GDPは前期比ではプラスに転じたが、前年比では-1.9%と3四半期連続のマイナスだ。デフレーターも-1.9%と8四半期連続で前年を下回り、激しいデフレ下にあることを裏付けている。だから前期比でプラスとなったというだけでは素直に喜べないのである。米国やユーロ圏のGDPは前期比の伸び率は低いけれども、前年比ではプラスを維持しており、日本とは違う。
米国のデフレーターは前年比2.4%、ユーロ圏は1.3%(4-6月期)といずれもプラスで日本だけがマイナスである。日本の物価は前年を下回っている半面、その分円の購買力は強くなっている。日本の長期金利は1%以下だが、実質では2.8%と米国やドイツよりも2%以上高い。米国は物価が2.4%も上昇しているが、政策金利はゼロに据え置き、物価と不釣合いな低い水準にとどめている。こうした物価のシグナルを無視した金融政策が経済を不均衡にさせ、経済を歪めることになる。円の購買力上昇、実質金利高、米国経済の歪み等が円高ドル安を引き起こしているのである。
昨年度の名目成長率は0.4%と3年ぶりのプラスになったが、民間最終消費支出は0.5%減と3年連続のマイナスだ。山一證券の破綻などで金融不況が深刻になる1997年度以降の民間最終消費支出はプラス、マイナスの繰り返しであったが、米住宅バブルが大きくなる04年度から07年度までは伸びは低いものの4年間プラスであった。欧米の住宅バブル破裂により08年度以降はマイナスの状態が続いている。
欧米は住宅バブル破裂の処理がままならない間に、欧州では国債不安がひろがり、緊縮財政に向かっている。米国は雇用の回復が遅れ、所得格差がいっそう拡大するなど、問題は経済から社会全般へと広がってきている。10月の米経済指標は予想を上回っているものが多いが、不良資産の問題を抱えているだけに経済が順調に拡大していく可能性は低いだろう。こうした世界経済の流れに従えば、日本だけが回復していくことはなく、年度下期は上期よりも弱いのではないか。
日本株が売られるのは、欧州勢の売買に占める割合が高く、彼らがリスクを取れないことが大きく影響している。GDPの前年割れが続いているように、企業業績も減収減益であり、7-9月期の大企業22社の当期純利益は31.1%も減少した。政権は変わったけれども、内閣支持率は発足時から10ポイント以上下がり、40%の世論調査もでている。当初の期待が期待はずれとなりつつあり、野田政権も短命になる危うさを孕んでいることも、株式に影響している。
オリンパスの損失隠しや大王製紙の使い込みといった企業統治の破綻も日本株が大きく損なう原因なっている。東証や証券監視委員会の動きの鈍さ、原子力行政とまったく同じで、問題が出尽くして、やっと腰を上げるといった傍観者的態度。数十人の証券会社等のアナリストがオリンパスを調査していながら、月刊誌一社にも太刀打ちできないお粗末な調査力。お座なりな、会社寄りの調査を続けていることが、株式の信頼を失わせ、自ら墓穴を掘ることに繋がっているのだ。2009年3月期、オリンパスの総資産が前期に比べ2,520億円(18.6%減)も急減し、バランスシートに断絶が生じたにもかかわらず、追求することもなく容認した取締役、監査役、さらに監査法人の無責任さ。今の企業統治の方法では、社長や一部首脳の暴走を止めることができない。米エンロンなどの破綻を契機に企業統治がやかましく言われ、2006年、新会社法が施行されたが、コストが掛かっただけで企業の支配構造はほとんど変わってはいない。日本企業の業績や株価が不振に陥っているのは、企業組織が、企業内部に巣くうよこしまな経営者の行動を制御できる組織とはあまりにも掛け離れているからである。企業が社会通念から逸脱した行動を取り、自滅するのはいたしかたないが、あまりにもしばしば起これば、日本経済全体の信頼が揺らぐことにもなりかねない。企業の在り方を根底から考え直すことが必要ではないだろうか。