昨年末の実効ドル相場(名目)は前年比6.0%下落した。特に、対ユーロでドルは14.1%も下落したからだ。短期金利は米国の上昇を除けば、ほとんど横ばい状態であり、長期金利は3回も利上げした米国も上昇せず、国債相場は静かだった。ドル安によって、原油や金は上昇したけれども、総合指数のCRBはほぼ前年末並みである。大きく動いたのは株式であり、年間では主要株価指数はいずれも大幅に値上がりした。
NYダウの昨年の上昇率は25.1%、ナスダック総合は28.2%も上昇した。好調な米株に追随する形で日経平均株価も年間19.1%上昇し、これで6年連続のプラスだ。1989年までの12年連続増以来ということになる。2017年末までの6年間で日経平均株価は約2.7倍に膨れ、NYダウの2倍を上回っている。
なぜ株価はこれほど値上がりしたのだろうか。最大の要因は企業利益の拡大だ。昨年7-9月期と2011年10-12月期の大企業全産業の営業利益(法人企業統計)を比較すると、61.3%も増加している。製造業は114.9%と2倍を超える増益に対して非製造業は38.1%にとどまっている。ところが、2017年7-9月期の売上高は2011年10-12月期を下回っているのだ。2011年7-9月期と比較すると非製造業の売上高はプラスになるが、営業利益に大きな変化はない。売上高が伸びなくても利益を出せる仕組みにしたのだ。売上原価や販管費を削減することによって利益を捻出しているのである。はたしてこのような利益拡大方法をいつまで続けることが可能なのだろうか。
過去6年間、利益は急増しているが、人件費は横ばいである。人件費を抑制しているために、消費は長期的に低迷しているのだ。消費不振の原因は企業の人件費抑制にあることは間違いない。人件費を渋り、利益の極大化に突き進むという資本主義の強欲さを追求していくことの帰結は不況、さらに進めば恐慌なのではないか。
生産は需要があって始めて成立するのである。需要がなければ生産は持続できないのだ。需要の元は給与であり、給与に基づいて家計は消費活動を続けることができるのである。その給与を引き上げなければ、家計は消費を増やそうとはしない。企業の業況感は最近にないほど良いが、家計の消費は改善するどころか、悪化している。
『家計調査』によれば、昨年11月の消費支出(二人以上の世帯、季節調整値実質、2015年=100)は98.7と低迷している。2011年12月は104.4と100を超えており、その後も消費税率の引き上げ前までは伸びていたが、引き上げ後は急激に落ち込み、2015年後半からは100を下回る状態にある。企業利益は急増し、業況感は著しく改善しているが、家計消費はそれとは正反対の動きを示しているのである。
2012年12月、第2次安倍内閣が発足し、日銀とタッグを組み、経済・金融政策をぶち上げたが、家計消費は消費税率引き上げで拡大しただけで、引き上げ後は惨憺たる状況にあるのだ。消費には、まったく財政・金融政策は効かなかった。
大規模国債購入の実施によって円ドル相場は動いた。2012年の年平均円ドル相場は79.55円だったが、2013年には96.91円、さらに2014年105.3円、2015年121.0へと3年連続の円安ドル高となった。2015年までの3年間で52.1%も円安ドル高に振れたのである。輸出企業にとってはまさに干天の慈雨となった。ただ、円安ドル高は金額で輸入額を拡大させ、2014年の貿易収支は12.8兆円もの輸入超となった。こうした輸入増の負担は最終需要家である家計が負うことになり、家計にとってはマイナス要因となる。
『法人企業統計』から企業規模別の一人当たりの年給与(賞与を含む)を求めると、大企業(資本金10億円以上)は2011年度の553.9万円から2016年度には576.6万円と5年間で4.1%増加している。中堅企業(資本金1億円以上10億円未満)は419.7万円から429.4万円、中小企業(資本金1億円未満)は303.2万円から304.1万円へといずれも微増だが、中小企業の伸びがもっとも低い。
大企業と中小企業の給与格差は開いている。2016年度の従業員数は4,111.4万人だが、その67.1%は中小企業で働いており、大企業の従業員は17.7%にすぎない。7割近い従業員の給与が横ばいだということが、日本の消費低迷の最大の要因なのである。中小企業の従業員給与の拡大を果たさなければ、日本経済は消費不振というトンネルから抜け出すことは難しい。
このようなことは改めて述べることではなく、何十年も日本経済の根っこにある問題だ。労働時間や賃金といった経済的最重要課題がいつになれば労働者の立場から見直されるのだろうか。企業利益と賃金の分配の問題、企業間の賃金等のさまざまな格差が是正されない限り、日本経済はバランスを欠き、不健康な経済状態が持続するということである。
企業利益拡大と低賃金の持続というアンバラスを取り繕っているのは公的部門と外需である。国内需要は一定であるので、今は好調な輸出と国債の大量発行で供給に辻褄を合わせているが、世界経済や為替相場にいつ逆風が吹くかわからない。輸出の勢いが失すれば、企業の稼働率は低下し、収益率はただちに悪化することになる。そうなれば、国債発行はますます拡大し、公的部門への依存度は高まる。
企業収益率の低下は株式相場を揺るがすことになり、日銀や年金の買いではとうてい株価を支えることはできない。米国の消費低迷下の株高もリスク要因である。低成長でありながら、株式が選好されているのは経済と不釣り合いな低金利をFRBが続けているからだ。だが、今年3回の利上げで政策金利が2.0%になれば、はたして超低金利に慣らされた米国経済は、実質2.0%程度の低い成長でも持続可能だろうかという疑念が生れてくるかもしれない。その時、バブル化している米株はどうなるだろうか。
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