日本企業の減益と米国経済の底堅さ

投稿者 曽我純, 12月9日 午前8:55, 2019年

『法人企業統計』によれば、今年7-9月期の大企業の業績は減収減益だった。売上高と営業利益は2四半期連続の前年割れだ。なかでも製造業の営業利益は23.5%減とマイナス幅が大きく、これで5四半期連続の減益である。昨年秋以降、輸出が減少し、内需も振るわないことが製造業を苦しめている。もともと国内需要は低調であり、外需への依存度が高いだけに、外需が弱くなるととたんに経営は厳しくなる。米国の対中貿易戦争の影響をもっとも受けているのが日本の製造業なのである。全産業の営業利益は2016年7-9月期以来3年ぶりの低水準に落ち込んだ。

大企業製造業は5四半期も営業減益を続けているが、株式は高水準を維持している。株式価値を決定する最大の要因である利益が1年以上も前年比マイナスでありながら、11月末の日経平均株価は前年を4.2%上回っており、高値を維持している。なんとも不思議な現象ではないか。大企業非製造業の営業利益も2四半期連続のマイナスとなり、収益は悪化している。しかも消費税率引き上げ前の駆け込み需要が発生していたにもかかわらず、減収減益になるとはどうしたことか。

前回の消費税率引き上げ前の2014年1-3月期の大企業全産業売上高は6.7%、営業利益は29.0%も拡大している。同4-6月期の売上高と営業利益も1.4%、11.1%それぞれ増収増益を持続しており、企業業績は直ちに悪化していない。それが今回は消費税率を引き上げる前から不振に陥っているのである。

7-9月期の大企業全産業の人件費は前年比-2.3%と2四半期連続のマイナスだ。2017年4-6月期から2018年7-9月期までの伸びが高かったことの影響とも考えられるが、人件費が減少するようでは、売上高の伸びは期待できない。賃金と賞与の合計額でも製造業は0.1%と横ばい、非製造業は-4.7%である。

『家計調査』によれば、10月の消費支出(二人以上の世帯、季節調整値、2015=100)は97.5と前月比11.4%も減少した。8月、9月と2ヵ月連続して増加したことの反動減だが、容易に回復することはないだろう。勤労者世帯の実収入や可処分所得は伸びておらず、節約志向は続くはずだ。10-12月期の消費支出は前期比減となり、国内需要は悪化し、外需も引き続き弱く、企業業績はさらに厳しさを増すだろう。

日本株は米株高や日銀、公的年金の買いなどで支えられているが、企業利益の落ち込みが激しくなれば、外人も日本株を手放すのではないか。10月の景気一致指数は急低下し、2013年2月以来6年8ヵ月ぶり、先行指数は2009年11月以来約10年ぶりの低い水準である。これまでは景気指数と株価はほぼ歩調を合わせていたが、最近の株価は景気指数との相関性は薄れ、景気が悪くなり、企業業績が悪化しても株価は高くなるという常識とは掛け離れた動きを示している。

米株は依然過去最高値近くにある。トランプ大統領の口先介入で振れているが、企業業績は良くはない。7-9月期の税引き後企業利益は前年比1.6%減である。しかし、今年3回の利下げで計0.75%低下、政策金利は1.5%となり、国債利回りも大幅に低下したことが株価を引き上げた。

11月の非農業部門雇用者は前月比26.6万人増加したが、ストライキ(GM)から職場に戻ったことにより、自動車関連の雇用が10月の4.3万人減から11月には4.1万人増加したことによる。特に、雇用環境が大きく変わったわけではない。

ものの貿易の縮小幅が徐々に拡大しており、10月の米輸出は前年比-3.7%、輸入は-6.6%である。輸入の減少率が大きいため、赤字額は縮小し、GDPを引き上げることになるが、今年1月から10月までのものの赤字額は7,241億ドルと前年同期比34億ドルしか縮小していない。対中貿易制裁を強めてもいままでのところ、米国のものの赤字に目立った変化はないのである。

今年1月から10月までのものの対中輸出入は前年比14.4%、14.6%それぞれ減少し、赤字額は2018年の3,448億ドルから2019年には2,944億ドルへと504億ドル縮小している。だが、全体では34億ドルの微減にとどまっており、中国以外からの輸入拡大によって対中輸入減を補っているのだ。たとえば、対EUの輸出入は6.1%、6.7%増加し、赤字額は1,494億ドルと2018年よりも111億ドル増加している。インドやタイ等からも輸入は13.4%も増え、赤字額は947億ドル、前年よりも141億ドル増だ。対日でも赤字額は少し増加している。このように対中の輸出入は減少し、赤字額も縮小しているが、対中減少分を他地域からの貿易で補っており、全体の赤字額はほとんど変化していない。

米国経済が底堅いのは中国からの輸入減をほかの国からの輸入拡大で補い、国内で生産できるものは国内で生産する仕組みに変えてきているからだと思う。今年上半期(4月~9月)の日本の輸出入合計額に占める中国の割合は21.2%である。米国の(今年1月~10月)同比率は13.5%、EU28(今年1月~9月)は15.6%であり、日本の中国への貿易依存度がもっとも高い。10月の米輸入は前年比6.6%減少しているが、日本の輸入は-14.8%と米国の2倍超のマイナス幅である。EU28の輸出入はプラスであり、日本の貿易がもっとも縮小している。だから、米国が仕掛けた貿易戦争の最大の被害者は日本ということになる。米国の中国依存度の低い貿易構造が、対中貿易戦争にもかかわらず米国経済が成長を持続している理由かもしれない。

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