日本人の生活の変革を迫るGDP統計

投稿者 曽我純, 2月13日 午後8:10, 2012年

13日、昨年10-12月期のGDP統計(速報)が公表された。それによると、名目GDPは前期比0.8%減と2四半期ぶりのマイナスとなった。プラス成長は7-9月期の1四半期にとどまり、日本経済は2010年10-12月期以降の後退から抜け出していないことを裏付けた。米国は0.8%のプラスだし、ユーロ圏も名目ではこれほどのマイナスにはならないだろう。世界経済のなかでも日本経済の悪化は際立っている。世界経済の足取りが思わしくなくなると、その影響を新興国よりも受けるのが日本経済だということを改めて思い知らされた。

GDP構成比の高い民間最終消費支出が前期比微減となったため、内需も0.1%減少したが、なにより足を引っ張ったのは外需である。輸出の落ち込みにより、純輸出は0.7%も減少した。前期の純輸出は0.6%のプラスだったが、昨年4-6月期まで5四半期連続のマイナスであり、日本経済は、外需が悪くなればプラス成長を維持することができなくなってしまった。それほど内需は弱いのである。

 名目GDPの前年比伸び率は2.6%減、これで4四半期連続の前年割れだ。民間最終消費支出は前年を0.1%上回っただけであり、民間設備投資は3四半期ぶりのプラスにはなったが、0.8%増と力不足である。一方、公的需要は1.3%と3四半期連続のプラスとなり、GDPに占める公的部門の比率は26.2%と前年同期よりも1ポイントも上昇し、公的部門への依存度は高くなるばかりだ。

デフレーターは前年比1.6%減とマイナス幅は前期より0.5ポイント縮小したが、09年10-12月期以降9四半期連続のマイナスとなり、長期デフレの状態が続いている。いま長期金利は1%以下だが、マイナスの物価を考慮すれば、実質金利は2.5%程度となり、米長期実質金利よりも高い。実質金利高のデフレでは消費や設備投資よりも現金選好が強く働き、ますますものが売れなくなる。2011年の雇用者報酬は0.2%増加したが、10年前比では8.6%も減少している。それでも家計は貯蓄に励むため日本経済は超過貯蓄となり、この超過貯蓄を公的部門が吸収している。

2011年の名目GDPは468兆円(実質は506兆円)、前年比2.8%も落ち込んでしまい、経済規模は1990年以来の状態に萎んでしまった。2010年は2.6%増加したが、2011年は2.8%も縮小したため、急激に経済が悪化した09年を下回り、金融危機以前の2007年に比較すると45兆円も減少した。過去10年の成長率はプラスが4回、マイナスが5回、横ばい1回と名目GDPの縮小は当たり前の時代になってしまった。もはや日本人はマイナス成長を現実として受け入れ、経済の縮小に合わせた生き方する以外に、選択の余地はないのだと思う。

 生産年齢人口が急激に減少し、超高齢化している日本では最終消費が減少するのは至極当然のことだ。人口減、人口構成に適ったGDPの規模があるはずだ。GDPは縮小しても中身を濃くしていけば、規模の縮小など恐れることはない。

1990年代からITが登場して、パソコン、インターネットさらに携帯電話、スマートフォンなどが急ピッチで普及し、こうした分野の付加価値は増加している。だが、経済が縮小することは、IT支出は増加したが、それ以上に従来の消費を削減していることを示している。

企業等はITを導入したけれども、GDPが拡大するような効果は認められず、ただの無駄使いに終わっているのではないか。パソコンを使うことによって、一見、表面的に見栄えがよくなるけれども、その分余計に時間と労力がかかり、生産性や効率は低下し、エネルギー多消費的にもなっている。迂回させるだけでは、経済の内容を良くすることにはならないのである。原発をはじめ再生可能エネルギー、ハイブリッド車などみなエネルギー多消費装置であり機械なのであり、エネルギー節約的などと騙されてはならない。

 IT支出と同じように消費支出としてはそれなりの効果はあるが、支出したからといって経済成長に寄与したかといえば、はなはだ疑問なのが大学や教育への支出である。これだけ大学進学率が高くなったけれども、日本経済はマイナス成長に転落してしまい、経済と進学率とは逆相関している。大学はそもそも就職のためにいくところではないので、進学率と経済成長に関係を求めることは問題だが、それにしても年117万円の学費(2010年度、大学、昼間部)や都会での生活費など費用が掛かりすぎだ。大学まで迂回させればコストばかり掛かり、経済的に利するのは大学と受験産業だけということになる。さらに都会の大学は経済的に苦しい地方からマネーを吸い取り、地方を疲弊させてもいる。

GDPデフレーターは下がり続けており、2010年度までの10年間で12.5%下落した。が、学費は2010年度までの10年間ほぼ変わらず下方硬直的である。大学は就職予備校と堕落しているわりには、価格メカニズムがまったく働いていない。

 本来、家庭や個々人がごく当たり前に行っていたことを、外部にたよったり、外部から購入したりしていることから、GDPの中身は薄くなっていると言わざるを得ない。GDPの減少に加え、GDPの中身もなくなっている日本経済を下支えできるのは家計だけだ。生活全般を見直し、家計でできることは家計ですることに徹することが、日本経済を良くする王道なのである。 

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