日本の貿易収支、今年1月から8月までは赤字

投稿者 曽我純, 10月1日 午前9:19, 2018年

9月26日、FRBはFFレートを0.25%引き上げ、年2.0%~2.25%とした。今年に入り、これで3回、2015年の利上げからは8回目となる。いずれも上げ幅は0.25%と小刻みで、8回も利上げしているが、合計2.0%でしかない。過去の利上げ局面に比べれば、極めて緩やかであり、慎重な姿勢が窺える。しかも、年内1回、来年3回、利上げする見通しだが、それでも3.0%程度と米国経済の進行速度をかなり下回ったままである。だから、利上げしても米株は底堅く、債券も売られてはいない。
FOMCの声明から「緩和的」という文言を削除したというが、歴史的に見て2.0%は緩和的だし、現状の経済からすれば超緩和的といえる。どこまでも金融当局者は「ロマンティックで現実離れした人間」なのだろう。これまでの主要なバブルは、中央銀行の実体経済と掛け離れた金融緩和策による極めて人為的な現象だったことが想起される。それほど中央銀行の面々は「ロマンティックで現実離れした人間」なのである。
FRBのバランスシートは9月26日、4.19兆ドルと1年前から0.26兆ドル減少しているだけだ。主たる資産は米財務省証券(2.31兆ドル)とMBS(モーゲージ担保証券、1.68兆ドル)である。金融危機前の2008年9月3日のFRB総資産は0.9兆ドル、財務省証券は0.47兆ドルしかなく、MBSのような資産は保有していなかった。FRBの総資産は金融危機以前の依然4倍以上であり、バランスシートの正常化には程遠いことを示している。
本来ならば、民間金融機関等が処分しなければならないMBSをFRBが肩代わりし、長期間、塩付けしたままの状態にあるのだ。民間金融機関の破綻を防ぐためにFRBが救済措置を取ったのである。さらに、巨額の国債購入によって間接的だが国に財政支援をしたのである。米国経済は長期景気拡大過程にあるが、ゼロ金利、民間金融機関の不良資産の移管と財政ファイナンスという異常な方法で、景気回復を図ったことを忘れてはいけない。そしてそうした負の側面をFRBは背負ったままだということなのである。
FRBの利上げにより、円安ドル高が進行している。対ドルで円は4週連続安となり、昨年11月以来の円安水準である。円安ドル高になれば、日本の対米貿易黒字は増えることになる。昨年の日本の対米黒字額は7.03兆円と過去5年では大きな変化はないが、金融危機で世界経済が不況に陥った2009年に比べれば対米黒字は2.2倍に拡大している。
ところが、2017年の日本の対世界での貿易黒字額は2.99兆円と2009年比、12.0%増えているだけなのだ。対米黒字の半分にも満たないのである。今年1月から8月までの貿易収支は757億円の赤字だ。原油や液化天然ガスなどの輸入増が赤字の原因となっており、バレル73ドル台を付けている原油価格が持続すれば、今年は2015年以来3年ぶりの赤字になるかもしれない。
2015年まで5年間、日本の貿易収支は赤字であり、最悪期の2014年の赤字額は12.81兆円であった。2016年には6年ぶりに黒字を計上することができたが、それでも3.99兆円にとどまり、金融危機以前に比べれば小幅の黒字といえる。しかも、2017年の黒字額は2.99兆円に縮小し、今年は赤字に転落しようとしている。
日本の貿易は2011年以降5年連続の赤字となり、実質GDPの純輸出の寄与度は2014年までの4年間マイナスであった。民間需要の寄与度は2010年以降、最高は2010年2.2%、次が2012年1.9%である。2009年は世界不況の荒波を受け民需の寄与度は-4.7%に落ち込んだ。その反動が2010年に現われた結果だが、2011年は東北大震災で寄与度は0.6%に萎んでしまった。2009年以降も自民党政権が継続していたとしても、世界不況と大震災では為す術はなく、民主党政権と似たような経済過程を辿ったのではないだろうか。
安倍政権発足後、民需の寄与度が2012年の1.9%を超えたことは一度もなかった。安倍政権下の2017年までの5年間の実質民需は年率1.0%の成長にとどまっており、財政・金融政策は掛け声倒れだったことを証明している。
トランプ大統領は自動車をちらつかせながら、対日貿易交渉を有利に進めようとしているが、米国経済の拡大によって、対日輸入を大幅に削減することは難しい。今年4-6月期の米実質GDPは前年比3.1%伸び、FRBの予測もこの程度の成長が続くとみている。が、2019年は2.4%~2.7%とスローダウンし、失業率はやや低下、物価は安定した状態を見込んでいる。
もしそのように米経済が減速するのであれば、対日貿易赤字も自然に減少していくだろう。経済が好調なときに赤字が多いといって癇癪を起こすのではなく、貿易も経済の少し長い流れのなかで判断していかなければならない。
日本の対米黒字が多いからと言って、円高ドル安になるわけではない。やはり全体の貿易収支が為替相場に影響するのである。今、日本の貿易収支は傾向としては赤字に陥りつつあるといえるだろう。そのような傾向が強くなっていけば、円安ドル高が一段進むことになるだろう。さらに、FRBが利上げを継続することも円安ドル高を支援するはずだ。
円安ドル高が日本株を押し上げている。日経平均株価は年初来高値に限りなく接近した。円安ドル高によって、自動車を中心に輸出が伸び、利益は拡大するだろう。だが、日米貿易問題が大きくなっている時でもあり、円安ドル高を、諸手を挙げて歓迎するわけにもいくまい。また、値上がりしている化石燃料の輸入額を円安ドル高が一層大きくし、今年は2012年以降の貿易赤字国に転落することにも成り兼ねない。化石燃料の値上がりは売上原価の悪化に繋がり、粗利益率を引き下げるだろう。円安ドル高も良い面と悪い面があることは論を俟たない。

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