23日、対米ドルでアルゼンチンペソやトルコリラなどの新興国通貨が急落したことによって、主要国の株式は軒並み大幅安となった。米株など過去最高水準に舞い上がっていたため、なにかのきっかけで急落する状況にあった。新興国の通貨安に加えて、1月の中国PMIが49.6と50を下回ったことも、世界経済への不安を台頭させ、株式売りのシグナルとなった。
アルゼンチンは外貨準備が減少しており、当局が通貨介入をしない姿勢を示したことが売りに拍車を掛けた。アルゼンチンのインフレ率は政府発表では昨年11月、10.5%だが、民間調査では26.8%と異なる。信憑性のない統計では自国通貨を支えることなどできない。トルコリラは過去最安値を更新した。昨年12月に発覚した政府の汚職スキャンダルによってすでに売られていたが、ここにきて一段の売り圧力が掛かってきた。
新興国通貨安は基本的には、FRBが金融緩和縮小に踏み出していることによる。今週の28日、29日開催のFOMCで債券購入額の削減が決まると思うが、その後のFOMCでも削減は継続的に実施されることは間違いない。米ゼロ金利が運用資金を高金利の新興国の債券やローンに向かわせていたが、債券買入額を減らし金利も引き上げるとの予想に基づけば、新興国で運用していた資金を米国などに戻すことになる。昨年の6月までの4年半の間に新興国への民間資金流入額は3.5兆ドル、債券だけでも1.25兆ドルに上る。これら新興国債券は通貨安による痛手と価格下落の二重の損失に見舞われている。
資金の流れは株式から債券に向かい、主要国の債券利回りは大幅に低下した。金融緩和を縮小している米債も2.72%と11月26日以来、ドイツ債も1.66%と11月初め以来の低水準に下がった。対ドルでユーロは下落する半面、円とスイスフランは上昇した。米株の急落がドル不安を強めたようだ。スイスは住宅バブルの懸念から住宅ローンの規模により義務付けしている自己資本の上乗せを引き上げると発表。イギリスも住宅価格の上昇を不安視しており、金利を上げることになるだろう。
日米欧が挙ってゼロないしそれに近い超低金利を続けていることが、運用資産のリスク資産への傾斜を進めた。資金の卸売業者である金融機関は原価が低くなることで利鞘が大きくなり、リスクの高い貸出や高利回り債券に手を出す。ゼロ金利から離脱することでそうしたことへの反動があらわれるのは必至である。米国の政策金利は少なくても3%台に引き上げられなければ実体経済と整合性が保たれない。米政策金利の持続的な上昇が新興国の通貨や債券相場を揺さぶり、運用資産の大きな変動を引き起こすだろう。
安倍首相は24日の施政方針演説で「日本経済も、3本の矢によって、長く続いたデフレで失われた「自信」を、取り戻しつつあります」、そして「この道しかない」という。3本の矢しかない、これが途切れることになれば、とたんに行き詰まってしまうということか。日銀が円安ドル高を進めるために債券購入額を異常に増額、政府は公共事業の拡大に突き進む。成長戦略も国が用意する。まさに国家総動員といえる。とっくにマイナス成長に陥っている日本を再度成長させようというのだ。だが、これだけ高齢者が増え、子供が減少している人口構成の変化のなかで、いままで以上に食料、衣料、車などを買うだろうか。
日銀は円安ドル高誘導により、株高をもたらした。値上りといっても異常な値上りであり、いつ急落してもおかしくない状況である。前週まで3週連続安となり、世界的な株安となれば、外人頼みの日本株は見るも無残な姿に落ちぶれるのではないか。賭博のような株式に実体経済が左右されることは愚かなことだが、為政者も経済界も懲りない面々なのだ。バブル崩壊の痛手がいかに大きく深いものか、1990年代以降の悲惨な状況はいまも鮮明に思い出されるのだが。
安倍首相が就任した2012年10-12月期の名目GDPを昨年7-9月期と比較すると、8.73兆円増加している。国内需要は11.43兆円の増加だが、外需の赤字額が2.7兆円も増加した。円安ドル高にはしゃいで株式は高騰したが、輸入額の大幅な増加でGDPにマイナスに作用した。国内需要のうち民間は6.64兆円、公的は4.79兆円それぞれ増加し、差異はないようにみえるが、増加率では1.8%、4.1%と大きな差があり、GDP拡大は公的部門の拡大に依存していることがわかる。民需では民間住宅が1.1兆円も増加しており、結局、GDPは住宅・公共事業頼みなのである。3本の矢といえばなにか目新しいものという印象を受けるが、まったく新味なものはなく、従来の公共事業、駆け込み住宅によって経済はなんとか保たれているのだ。円安ドル高は一部輸出大企業の懐を潤しているけれども、輸入額の増加や価格上昇でそうしたプラス面よりもマイナス面が大きくあらわれている。
民間設備投資ほとんど伸びていない。駆け込み需要後の消費の冷え込みが予想される状況では企業は設備投資に踏み切ろうとはしない。むしろ来年度の設備投資は減少するだろう。貯蓄はそれほど変化がなく、設備投資が減少することになれば、経済規模は縮小することになる。超過輸入額の拡大が続くことになれば、これも経済を悪化させる。なんとか過剰貯蓄を吸収できるのは公的部門だけということになる。日銀が国債を購入することで国は歳入を確保することができるが、財政はますます悪くなるということである。