新型コロナが雇用・消費を直撃

投稿者 曽我純, 5月25日 午前9:12, 2020年

経済は戦後最大の収縮に見舞われているが、政治も国民から見放され立ち行かなくなろうとしている。最新の世論調査では内閣支持率は急落しており、安倍政権への不信は募っている。自民党内でもこの政権に同調していけば、泥船に乗っているのではないかという危機感が浮上しているのではないか。法律をかってに捻じ曲げ、自らが君主であるかのような振る舞いなど許されるべきことではない。法治国家を否定する安倍首相に国の舵取りを任せることはできない。そもそも最高法規である現行憲法を否定し、憲法改正唱える立場だから、法律などの解釈変更などは些末な事なのだろう。首相になる人は最低限憲法を守り、尊重し、憲法に鑑みて政治を遂行する人がなるべきだ。

こうした最低限のことが守れない人を首相に据えたことが間違いのもとなのだ。過去7年半の長期にわたり、次から次へと悪法を拵えてきた。改憲者だから当然のことをしたまでだと嘯く。数の力で危うい道を掻い潜り、悪法を成立させ、安倍首相は生きのびてきたが、新型コロナと黒川問題で行き詰まってしまった。

過去数ヵ月間の安倍首相の政策判断は稚拙である。マスク配布や一律10万円給付など余りにも無分別であり、無能さを露呈したではないか。我が家にも数日前マスクが届いたが、まったく無駄な配布であった。すでにマスクは問題ではなくなっているのだから。国民1人に10万円配ることも思慮に欠けた政策だ。困窮者ばかりでなく裕福な人もいるわけだから、後者に給付することはない。有り余っている人に10万円を渡しても経済的効果は産まれてこない。住民税非課税世帯や就学援助世帯などの目安で給付すべきではないか。

消費者心理は極度に悪化している。『消費動向調査』によると、4月の消費者態度指数は21.6と前月比9.3ポイント低下し、2008年の米金融崩壊期を下回った。今年1月以降4ヵ月連続の前月比マイナスとなり、昨年12月から17.4ポイントの急低下である。消費者態度指数は4指標の単純平均だが、最大の悪化を示しているのは雇用環境であり、4月は15.0と3ヵ月連続のマイナスとなり、1月の41.4から様変わりしている。

『景気ウオッチャー調査』によれば、4月の景気の現状判断DIは7.9と2月以降3ヵ月連続して低下し、1月からは34.0ポイントの急落となり、2008年を下回った。家計動向関連も7.5まで急低下しており、最終消費は異常な冷え込みをみせている。

3月の『家計調査』によれば、勤労者世帯の消費支出は前年比-7.6%と昨年10月の消費税引き上げ後の減少率を上回った。可処分所得は1.4%増加したが、消費は大幅に絞っている。3月の平均消費性向は81.0%と前年よりも7.9ポイント低下し、これで昨年10月以降6ヵ月連続の前年割れだ。消費者は消費に極めて慎重になっている様子が窺える。先行きの最大の不安要因である雇用動向に明るい兆しが見えてこない限り、消費の絞り込みは続くだろう。

米国や欧州とは比べ物にならないほど少ない感染者数と死亡者だが、このまま収束するとは思っていないのではないだろうか。この先も新コロナの不安が払拭されなければ、非常事態宣言が解除されても、消費が元の状態に戻ることはない。消費の低迷はかなり長期化すると考えておくべきではないか。

将来への不安、特に、雇用不安が続くようであれば、家計の財布の紐は緩むことはない。第2次安倍政権発足後の2013年から2019年までに雇用者(役員を除く)は447万人増加したが、そのうち254万人は非正規であり、非正規の割合は38.2%と2013年比1.6ポイント上昇している。

6年間で増加した非正規雇用254万人のうち176万人は女性であり、2019年の女性の非正規雇用は1,475万人、非正規比率は56.0%である。もっとも弱い、何かの時に解雇され調整弁となるのは女性の非正規雇用なのだ。3月の女性非正規雇用は前年比29万人減とすでに解雇が始まっており、女性の非正規雇用は危機的状況に陥りつつある。

女性雇用の総雇用に占める割合は2019年、46.5%と2013年比1.9ポイント上昇している。女性の社会への進出は高くなっており、家計所得への女性の影響度は強まっている。解雇の恐れが最も高い非正規の女性が家計の財布の一部を握っていることから、女性の解雇は今まで以上に消費に深刻な影響を及ぼすのではないだろうか。

今年1月頃までは飲食、宿泊、小売業などは訪日外国人による特需とでもいえる活況を呈していた。それが完全に消えてしまった。さらにオリンピックというこれまた大型需要を当てにしていたが、頓挫した。来年、開催するというが、いますぐ、東京オリンピックは中止と宣言すべきだ。相当の無駄遣いをしてしまったが、引きのばせば延ばすほど、費用負担は膨らむばかりだ。政治決断によって早く損切しなければならない。

日本では国内消費需要はほとんど伸びていない。今年1-3月期のGDP統計によれば、民間最終消費支出(名目)は299.2兆円と2016年10-12月期以来3年3ヵ月ぶりの低水準である。第2次安倍政権発足の2012年10-12月期と比較しても3.0%の伸びにとどまっている。7年3ヵ月でたったの3.0%、これでは伸びているとはいえない。

GDPが増加したのは民間設備投資と公的部門の拡大、さらに外需の改善によるものだ。その結果、民間最終消費支出のGDP比率は54.9%と2012年10-12月期よりも4.0ポイントも低下した。一方、同期間、公的部門は25.3%から26.1%に上昇しており、政府部門の経済への介入は強まっている。

新コロナへの不安が続く限り、サービス業、なかでも接客業の雇用の回復は進まず、そのことが消費マインドの改善を遅らすことになる。訪日外国人の消費は沸き、オリンピック特需の期待が膨らんでいただけに、外国人消費の蒸発は死活問題となっている。

非農業部門の雇用の8割超を占めているサービス産業が苦境に立たされるという過去にない不況に日本経済は喘いでいる。新型コロナの不安によって景気は急速に後退しているが、底打ち後の回復もそのテンポは緩やかなものとなりそうである。

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曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数