G7首脳会議開催の意義などあるのだろうかという印象を今回強く思った。親睦会のようなものなのだろうか。現実の課題に対して積極的に取り組む姿勢などないからだ。みなそれぞれの国の事情があり、合意を得ることは難しく、難問は当たり障りのない宣言で逃れる。議長を務めた安倍首相は、世界経済を自分に都合よく解釈し、消費税引き上げ延期の理由づくりに精を出した。議長は全体の取りまとめ役だが、取りまとめるのではなく、ごり押ししたのである。議長がこのような姿勢で臨んだため、結局、なにの成果も得ることはなかった。
安部首相は焦っているのだ。財政を積極的に拡大し、マイナス金利まで導入したけれども消費支出は悪化するという想定外の事態に陥っているからだ。消費支出悪化は、ひとつは消費税引き上げを甘く見たこと、第2は家計ではなく、企業寄りの政策を推進したことにある。
さらに、多数支配の驕りから、戦争法を通し、憲法改正を推し進めるという政治の偏向がある。憲法改正をしたい首相のエゴ、思い込みが、現実の問題を問題とせず、議論する必要のないテーマに時間がとられてしまった。政治だけでなく、企業にもいえることだが、今、なにが大事なのか、という視点が欠けており、大事ではないことに時間を費やし、現実の問題を避けている。
衆議院で与党(326議席)が68.6%を占めていることから、力を背景にした政治を進めているが、与党あるいは首相の関心事を遂行する政治を行なえば、現実と政治は乖離していくばかりか、民主主義を標榜しているが、実際は独裁政治と変わらない政治になってしまう。
今は、現実と政治が離れて行っているときなのだ。力点を入れるところが、まったく間違っている。政治は弱いところに手を差し伸べなければならないが、企業という強いところを支援している。だから、消費支出はいつまでたっても低迷状態から抜け出せないのである。企業には有り余る金があり、家計には十分な金がないのだ。家計に金が届く政策でなければ消費は良くならない。男女賃金格差、正規・非正規の格差、労働時間、残業代の割り増し率、有給消化、所得税、法人税など問題は山積している。憲法改正を議論する時間はない。
いずれも企業に負担が掛かるので与党は取り組もうとしない。取り組まなければ、経済の原動力である消費支出は低迷し続けるだろう。ものが売れなければ企業も苦しくなる。与党の企業寄り政治によって、日本経済の縮小に拍車が掛かっている。政治が経済の問題を大きくしているのだ。経済は政治そのものなのである。
2015年度の名目GDPは500.3兆円、そのうち家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃除く)は237.7兆円であり、GDPの47.5%を占める。2年連続で構成比は低下し、2007年度以来8年ぶりの低い割合である。家計最終消費支出の低迷によって民需比率は75.5%に低下した。他方、公需比率は25.1%と2014年度より低下したけれども、2012年度以降、4年連続の25.0%超である。10年前の2005年度と比較すると2ポイントも上昇している。
因みに、米国の消費支出の対GDP比率は名目68.4%(2015年)であり,日本の民間最終消費支出比率(58.3%、2015年度)よりも約10ポイント高い。民間企業設備は米国の12.8%に対して、日本は13.9%であり、大きな違いはない。だが、米国は消費比率が高くても設備投資比率は低いのである。政府支出は日本の25.1%に対して、米国は17.7%と7.4ポイントも違う。
経済が回るためには消費支出の比率を相当高くしなければならない。日本の政府支出比率は25%を超えており、これ以上、政府比率を上げることは、経済を歪めてしまう。多くの分野で政府機関と結びつきが強く、コスト意識は希薄になり、経済は非効率的になる。今も公金の無駄使いが問題になっているが、公的比率が上昇すれば、無駄使いはさらに広がるだろう。
公的部門の割合を引き下げるためにも、消費支出を拡大し、GDPに占める比率を高くする必要がある。そのためには消費税率を引き下げ、所得税の累進性を強め、法人税を強化しなければならない。
GDPベースで、米国の所得税は2015年、214兆円(1ドル=110円換算)と2014年度の日本の所得税(16.7兆円)の12.8倍である。法人税についても日本の10.5兆円に対して米国は58.2兆円と実に大きな隔たりがある。税逃れをしていながら、米国でもこれだけの税を国に収めているのだ。名目GDPでは米国は日本の3.9倍の規模だが、所得税はこれからかけ離れた規模だし、法人税もGDP格差を上回っている。米国をみれば、消費税に頼らなくても所得税、法人税などで税収を確保できることがわかる。