米10年債利回りが3%を下回り、円ドル相場は円高に振れ、日経平均株価は9週ぶりに下落した。一方、5月のユーロ圏PMIの低下にスペインやイタリアの政治不安が加わり、対ドルでユーロは昨年11月以来約7ヵ月ぶりのユーロ安だ。24日にトランプ大統領の米朝首脳会談の中止書簡など米朝で激しい駆け引きが繰り広げられている。国内では財務省が森友記録を公表、意図的に記録を破棄したこともあきらかとなった。原油価格はサウジアラビアとロシアが協調減産の緩和を協議したと伝えられたことから前週比4.8%も急落した。あまりにも頻繁に起こる政治経済の目まぐるしい変化を市場は消化しきれていない。突発的な出来事を警戒し、市場参加者は慎重にならざるを得ないのではないか。
3月のユーロ圏の失業率は8.5%だが、政治情勢が不安定なスペイン、イタリアの失業率は16.1%、11.0%とそれぞれ高く、ドイツ(3.4%)との格差は非常に大きい。両国以外ではギリシャが20.6%(1月)とユーロ圏で最悪だ。高失業率はいずれもラテン系の南欧であり、高失業率が政治不安の元になっているのではないか。特に、25歳以下のギリシャ、スペイン、イタリアの失業率は42.3%、35.0%、31.7%と信じられないような高率である。フランス、ポルトガルも21.5%、21.3%と20%を超えており、若者に仕事が少なく、将来の展望が描けないような社会はストレスが高く、不安定な社会といえる。
4月のスペインの物価上昇率は前年比1.1%、イタリア、ギリシャは0.6%、0.5%と安定している。ドイツは1.4%とユーロ圏(1.2%)よりもやや高い。だが、25日の10年債利回りは、ドイツの0.40%に対して、ギリシャ、イタリア、スペインは4.33%、2.44%、1.44%といずれもドイツを大幅に上回っており、高利回りが経済の回復を阻んでいる。これでは民間部門主導で高失業率を解消することは不可能である。経済の悪化が政治不安を引き起こし、それがさらに経済に打撃を与えるという悪循環から抜け出すことは容易ではない。
失業率が低く、物価も安定しているドイツ経済は低長期金利の恩恵を受けるけれども、南欧は資金調達コストがドイツに比べて高く、民間設備投資や住宅部門などではドイツのような成長は望めない。経済が豊かな国の国債利回りが低く、そうでない国の国債利回りが高いという矛盾は、豊かな国からの贈与という形でしか和らげることができないのではないか。
4月の米国の失業率は3.9%とユーロ圏よりも4.6ポイントも低い。金融危機の2009年10月には10.0%まで上昇したが、いまではそのピークから6.1ポイントも低下し、2000年12月以来17年4ヵ月ぶりの水準に低下した。1970年以降では極めて稀な現象であり、こうした歴史的な低失業率と物価安定がトランプ氏を大統領の地位に留めさせているのである。
3月の日本の失業率は2.5%と米国をさらに下回り、完全雇用状態にある。2009年7月には5.5%まで上昇したが、その後は低下し続け、今年1月には2.4%と1993年4月以来約25年ぶりの水準まで低下した。金融危機後、米国やユーロ圏の失業率は10%を超えたけれども、日本は5.5%が最高だった。
安倍政権発足の2012年12月の失業率は4.3%とすでにピークから1.2ポイント低下していた。世界経済の拡大に伴って、2013年3.7%、2014年3.4%と緩やかに低下し、今年3月は2.5%だ。気まぐれで独裁的なトランプ氏でも米大統領職を続行できているのと同じ要因によって、安倍政権も存続しているのだと思う。
特定秘密保護法、安保関連法、共謀罪など憲法を踏みにじる法案を成立させたばかりでなく、モリカケ問題で次々に証拠が挙げられているにもかかわらず、政権が崩壊しないのは、ひとつは2.5%という低失業率が政権存続に効果を発揮しているのではないかと思う。
財政、労働、社会保障、保育等さまざまな問題に、日本経済は直面しているが、ほぼ仕事に就ける雇用状況下にあることが、諸問題を深刻とは感じさせないように作用しているのだ。失業率を極力引き下げることが政権を存続させる最大の原動力といえる。
日経平均株価は前年よりも13%高く、地価も上昇を続けており、企業や富裕層は安倍内閣支持派が多いのではないだろうか。だから、モリカケ問題も強引に突破しようとしている。大多数の国民の意見などどうでもよいのだ。一握りの強い支持があれば、25年ぶりの低失業率が支持率の低下を食い止め、政権を維持できると読んでいるのではないだろうか。