政府・日銀による株式バブル化政策

投稿者 曽我純, 1月18日 午前8:55, 2021年

新型コロナ感染者拡大で緊急事態宣言は11都府県に発出されたが、日経平均株価は3週連続で続伸し、2万8,000円台半ばまで上昇した。昨年10月第4週の直近底値から1月15日までの上昇率は24.1%に達した。因みに同期間、NYダウは16.3%と日経平均株価を下回っている。米株が過去最高値を更新していることから、外人の旺盛な買いによって、日経平均株価は急騰した。外人は、11月第1週から今年1月第1週までに2兆4,419億円を買い越している。昨年1月から9月までほぼ売り越していた外人は、10月以降は買い越しに転じ、10月3,944億円、11月1兆5,350億円、12月5,277億円、1月第1週3,794億円と買いを持続している。

昨年10月第4週から15日までの日経平均株価は24.1%上昇しているが、TOPIXは17.6%にとどまっている。15日の終値を約1年前の2019年末と比較すると、日経平均株価の20.6%に対して、TOPIXは7.9%と上昇率は著しく違う。日経平均株価は225銘柄の単純平均だが、TOPIXは2,189銘柄の加重平均で算出される。日経平均株価の銘柄数はTOPIXの約1割に過ぎず、しかも単純平均であることから、1銘柄の価格変動が大きく出やすい。もし浮動株が極めて少ないような銘柄が、大幅に上昇するとそれだけで日経平均株価は上振れすることになる。

しかも日銀が上場投信を購入しており、1月10日現在の残高は35兆3,200億円、前年比7兆553億円の増加である(昨年10月20日から1月10日までは6,920億円購入)。個人などの売却を上回る日銀の買いによって、需要が供給を上回る状況下にあるのだ。日銀がこれだけ買えば品薄株はより需給が逼迫し、大幅な値上がりとなり、ひいては日経平均株価を押し上げる。こうした日銀の株買いにゼロ金利が加わり、日銀による日本株のバブル化が進行しているのだ。

昨年末、東証1部の時価総額は666.8兆円、対名目GDP比は125.3%(予測)となり、2017年を抜き、バブルの頂点となった1989年(142.5%)に次ぐ比率になった。東証1部売買代金の対名目GDP比も124.6%と過去最高ではないが、1989年(78.6%)を大きく上回っている。こうした実体経済との比較が1955年以降の65年間で2番目に高い、あるいは過去最高に近い水準にあることは、株式が異常な状態にあることを物語っている。

2020年の売買代金・名目GDP比が1989年をはるかに上回っている状態は、株式流通市場が異様に活発だということである。超短期売買を頻繁に繰り返している株式の投機化が窺える。売買代金・名目GDP比率は2006年にはじめて100%を超え、2008年まで続いたが、米金融崩壊と東北大震災により2009年から2012年までは100%を下回った。だが、2013年以降は100%超が続いており、株式賭博化の常態化を裏付けている。

すでに20年を超えるゼロ金利状態は、実体経済ではなく株式の活性化(投機化)にのみ効果を発揮したと言える。株式売買手数料や信用取引コストは下がる一方、値上がり益や配当課税は優遇され、預金金利ゼロが株式選好を強めた結果なのだ。相続としても株式は優遇されており、富裕層には節税対策としての妙味もある。日銀と政府の株式政策が株式バブルを主導したのである。

株式の活性化は単なる株式の持ち手が換わるだけであり、何かを生み出す行為ではない。だから、株式が活況になっても実体経済は少しも変わらないのである。株価が上昇すれば心理的に景気が良くなっている気を起こさせるだけで、本当は何も変わっていないのである。むしろ、株式投機に熱中するあまり、大事なことが疎かになることも頻発しているのではないだろうか。例えば、東証1部時価総額を2010年末と2020年末を比較すると2.18倍に拡大しているが、名目GDPはたったの6.3%しか増えていない。こうした株式の実体経済への影響力のなさが、今の株高への関心のなさとなって表れているように思う。なにか別世界の出来事のように見られているのではないだろうか。

新型コロナの感染拡大により、実体経済は落ち込み、企業利益は縮小するだろう。この傾向は今年度にとどまらず、来年度以降も持続すると想定すべきだ。先行きの見えない中での株高は不安である。信号が見えない深い靄のなかを突っ走っているようなものだ。突然、崖に出くわすこともある。その時は、日銀や国が手助けしてくれるという甘い期待があるのかもしれない。だが、時価総額が666兆円に膨れ上がった株式を日銀や国が支え切れるものではない。過去に経験したように、売りが売りを呼ぶ展開になれば、日銀がいくら買い向かったとしても急落の流れを止めることはできないだろう。そして、日銀は巨額の不良資産を抱えることになる。

日本株の先導者である米株の行方にも左右されるけれども、その米株はすでに日本株以上のバブル状態にあり、相当リスクは高まっている。米国も新型コロナ感染拡大に歯止めは掛からず、経済の先行きは不透明である。次期大統領のバイデン氏は14日、1.9兆ドルの新型コロナ経済対策を発表したが、株式などの相場は反応しなかった。

1月9日までの米新規失業保険申請件数は96.5万件、前週比18.1万件増加し、新型コロナの影響が深刻化しつつある。雇用情勢の悪化などから、昨年12月の米小売売上高は前月比-0.7%と3カ月連続のマイナスとなった。新型コロナの長期化によって、米企業収益は予想に到達しないケースが増えるだろう。不況下の株高の時代もいつまでも続くものではない。美人投票や惰性に基づいた行動が、いかにあっけなく潰えたことを幾度となく経験したはずだが。

新型コロナに加え、米国社会の激しい対立も米経済活動に負の影響を及ぼすだろう。米国の民主主義がいかに脆いものかをまざまざと見せつけられた。米国で起こることは、日本でも西欧でも起こり得ると言えるだろう。SNSが社会の脆さを燎原の火のように拡散させ、米国社会を切断したのだ。SNSは瞬時に伝えたいことを伝えるのだが、そこにはなにの介入もなく、気の向くまま言葉を綴ることができる。発信者がすべて良識のある人で、読み手も判断力を備えた受信者だとしても、言葉の捉え方は一様ではないはずだ。ましてやトランプ大統領のような超権力者が悪だくみの目的で発信すれば、その影響力は計り知れない。SNSは諸刃の剣なのである。トランプ大統領は就任式に参加せず、フロリダに向かうという。その意図に潜むものはなにだろうか。気になる。

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曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数