政府の政策では日本経済は微動だにしない

投稿者 曽我純, 7月18日 午前8:35, 2022年

ドイツのエネルギーの生命線である「ノルドストリーム1」が11日、完全停止したことやFRBの大幅利上げ観測などがユーロを一時パリティ以下に押し下げた。それにつれて円の対ドル相場も前週比2円45銭も下落した。「ノルドストリーム1」は定期保守点検が終わる22日に供給されると言われているが、果たして、その通りになるだろうか。プーチン大統領の胸先三寸、ガスを武器にドイツなど欧州経済を締め上げるのではないだろうか。22日以降、ガスが流れなければ、ユーロはさらに売り込まれ、円も連れ安となるだろう。

欧州委員会は先週、2022年の経済成長率を2.6%に下方修正したが、ガス欠では1%台ですら達成できるかどうか、ではないか。こうした欧州経済の不安を裏付けるように、7月のZEW景況指数は-53.8%と前月よりも25.8ポイントも悪化し、2011年11月以来10年8カ月ぶりのマイナス幅である。ただ、欧州の天然ガス価格は15日/8日=マイナス4.3%と低下している。

WTIは100ドルを下回ったままであり、先週末はピークから20.1%減、銅にいたってはピーク比31.3%の急落だ。資源高が需要を減少させ、経済の減速を招きつつあるといえる。22日、ガス供給が再開されるかどうかが、今後のドイツ経済、引いては欧州の行方を決めることになる。

米10年債利回りは先週末、2.91%と8日比16bp低下し、日米の金利差も15bp縮小した。金利差が縮小したにもかかわらず、円安ドル高が進行したのだ。13日に公表された6月の米CPIは前年比9.1%と前月よりも0.5ポイント高くなった。たが、食品・エネルギーを除くコア指数は前年比5.9%と3カ月連続で伸びは低下しつつある。新車と中古車を除けばコア指数は5.2%となり、インフレは緩やかになってきている。6月のPPIコア指数も前年比6.4%と3カ月連続の鈍化、6月の輸入物価も前年比10.7%と同様に3カ月連続の低下である。先週末のCRBは今年2月末以来4カ月半ぶりの低い水準に低下してきており、こうした資源価格の大幅下落は、少し遅れてCPIに波及し、総合指数の伸びも鈍化していくはずだ。

CPIコアの伸びがピークアウトしたのであれば、米10年債利回りは6月中旬のような3.5%に近づくような上昇はないだろう。3%の水準を大きく超えることはなく、日米金利差のこれ以上の拡大は起こらないとみている。当面、円ドル相場は日米金利差ではなく、ユーロ安に引きずられる展開が続くのだと思う。

前号でも指摘したが、現状の税制では岸田首相が「新しい資本主義」と叫んでも、日本経済の低迷状態を変えることはできない。しかも、岸田首相がどこを見ているかと言えば、国民ではなく自民党右派なのだ。防衛費増大や緊急事態条項、さらに安倍元首相の国葬まで振舞うご機嫌取りの目白押しだ。安倍元首相の政治スタンスはあきらかに強権的であり、大元ではプーチン大統領や習近平主席に近い思考の持ち主であった。だから、憲法9条にこだわり、集団的自衛権の行使や自殺者までがでた森友学園など疑惑が渦巻く強権的な政治姿勢を貫いた。こうした政治姿勢を岸田首相は評価するというのである。

岸田首相が主張するいかなる政策を駆使したところで日本経済は微動だにしない。そのようなことは過去数十年の施策と結果を見れば誰でもわかる。自民党政権は過去のことを振り返ることはしないのだ。なにか珍しげな奇をてらった政策を連発することが仕事なのだと勘違いしている。過去のことを十分に咀嚼することによってのみ将来が見えてくるのだが。

一国の経済規模を決めるのは消費なのだ。消費の大きさによってその経済は決まってくる。消費が旺盛であれば経済は活気を帯び、物価は上昇気味となり、消費が低調であれば経済活動は沈滞し、物価は下がり気味となるだろう。物価という経済の体温が上昇すれば、買い意欲は増し、資産価値の上昇と負債の負担低下も起こり、経済活動はますます活発になるだろう。逆に、経済の体温が低下すると、買い控え、資産の劣化と負債の増加という貸借対照表の劣化が起こり、経済活動は不活発になる。

バブル崩壊以降の日本経済の体温は低下し、上がらない状態で推移していたと言える。2021年度の名目GDP(541.8兆円)は1994年度(511.9兆円)に比べて5.8%増にとどまっていることが、何よりも事実を正確に示している。G7にGDPがこれほど伸びなかった国はない。同期間、米国のGDPは3.15倍、ドイツは1.95倍も増えている。「規制改革」、「アベノミクス」等言葉が躍っただけであり、実体経済にはなにの効果もなく、国民の生活が向上するような経済を獲得することはできなかった。

消費がGDPの最大の割合を占めており、消費が伸びなければ、他の部門がいくら頑張ったとしてもGDPを大きく伸ばすことは難しい。2021年度/1994年度の民間最終消費支出は8.4%増だが、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)は2.2%に過ぎない。消費の原動力である賃金・俸給(2020年度/1994年度)は3.1%と消費の弱さを裏付けており、これでは消費の拡大など望むべくもない。因みに、2021年/1994年の米個人消費支出は3.33倍、賃金・俸給(民間)は3.35倍それぞれ拡大している。また、同期間のドイツの家計最終消費支出は1.67倍、賃金・俸給は1.96倍も増加しており、こうした賃金・俸給の増加が、経済拡大の原動力になっている。

2021年度までの過去27年間でGDPが5.8%伸びたのは、この間、798兆円の国債を発行し、民間の需要不足を公的部門で穴埋めしてきたからだ。国債を年平均29.5兆円も増発したことになる。新型コロナ対策などで、2020年度には108.5兆円の巨額の国債を発行し、2021年度末の一般会計公債発行残高は1,004兆円に膨れている。

2013年から始まった日銀の巨額国債購入策が、国債発行の急増をもたらしたとしばしば言われているが、実際には、そのようなことは起こっていない。2002年度から2011年度までの国債発行額277.4兆円に対して、2012年度から2021年度までは334.6兆円であった。2020年度の発行額が異例の規模になったことを勘案すれば、大差はないのだ。つまり、日銀が大規模国債購入をしようがしまいが、国債発行額に違いはないのである。日銀が購入しなければ、民間金融機関などが購入していることは間違いない。

家計などが民間金融機関に預けた資金は資金需要が弱く、行き場がなく、結局、国債の購入に行き着くのだ。その国債を購入しているのが日銀であり、日銀は民間金融機関に国債の購入代金を支払う。民間金融機関は日銀から資金を受け取るが、貸出先はなく、日銀に預けるほかない。日銀がどれほど国債を購入しようが、市中に出回るお金は高が知れている。

消費を拡大しない限り、国債の発行は続き、発行で資金を手に入れた国がなにかに使うことになる。需要不足が解消されるまで国債は発行されるのだ。国債を購入するのは日銀であろうがなかろうが、かまわない。需要不足下では、いずれにせよ、預金の行先は国なのだから。

★当レポート、しばらく休みます。

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