トランプ大統領の貿易政策への懸念が弱まったことからドルが買い戻され、主要国の株式は反発した。米国の個人消費支出は2月、前月比0.2%と前月と同じ伸びであり、物価(食品・エネルギーを除く)は前年比1.6%とFRBの目標を下回ったままである。3月のミシガン消費者センチメント指数は14年ぶりの高水準だが、消費の伸びは緩やかであり、物価も安定している。2月の一人当たり実質可処分所得は前年比1.4%増加したが、2017年では0.7%と2016年の3.4%から大幅に鈍化した。2017年までの10年間では年平均0.96%とその前の10年間(2.49%)の4割にも満たなかった。こうした可処分所得の低迷が個人消費支出を抑制しており、弱い需要が物価の上昇を抑えているのだ。
物価上昇率が低いから政策金利も緩やかな利上げにとどまり、こうした低金利が株式や住宅価格を消費者物価以上に上昇させているのである。3月末のNYダウは前年比16.6%、1月のS&Pケース・シラー住宅価格指数は前年を6.4%上回り、昨年第4四半期の名目GDP(前年比4.5%)よりも高い。
米10年債利回りは2.73%とGDPの伸びを下回り、資金調達コストが実物投資収益率よりも低いのだ。こうした状況下では資金需要が活発になり、GDPの伸び率に到達するまで利回りは上昇するはずだ。だが、債券利回りが上昇しないのは、資金需要が弱いからである。
一人当たりの実質可処分所得が過去10年で年1%に満たないような状態では、個人消費支出も大きく伸びるはずがないと企業経営者は予想しているのではないだろうか。つまり、企業の期待収益率は相当低い水準にあるのである。金利よりも期待収益率のほうが低いので、資金需要がちっとも盛り上がらないのである。
実物投資の期待収益率が低く、かつ超低金利なので、資金は株式や不動産へと向かう。数年後の利益よりも明日の儲けを求めて、流動性のあるそうした市場へと資金は活発に動き回る。今日投資し明日には回収という実物投資では不可能なことが株式市場では日常的に行なわれている。が、本当は、投下資本は長期間固定されていることを忘れてはいけない。株式の持ち主が日々何回変わったとしても、固定資本が変わるわけではないのだ。単に、持ち手が変わっているにすぎないのである。
国内では、27日に前国税庁長官の佐川宣寿氏が証人喚問されたが、予想通り、文書の改竄には触れず、安倍首相と昭恵夫人への関与だけは強く否定した収穫ゼロの証人喚問であった。なぜ改竄しなければならなかったのかという最大のポイントを少しでも解明するためには、より深く多面的な追及が必要である。安倍首相追及の正念場といえる証人喚問を意義あるものにするためには野党は万全な調査をしなければならない。
森友学園の追及は必要だが、より長期の問題も議論しなければならない。週末、国立社会保障・人口問題研究所が『日本の将来推計人口』を公表した。改めて、日本の人口減と人口構成の激変ぶりに驚かされる。2025年までの10年間で人口は3.6%減、2035年までの10年では6.0%減、次の2045年までは7.6%減と減少率は大きくなり、2045年の人口は2015年比2,067万人減の1億642万人となる。
2025年までの10年の人口減は3.6%だが、生産年齢人口(15~64歳)は7.2%減少する。一方、75歳以上は33.6%、547万人増の2,180万人へと急増し、15歳未満(1,407万人)をはるかに上回る。団塊世代がすべて75歳以上になるからだ。生産年齢人口の減少分(5,581万人)と75歳以上の増加分(5,478万人)はほぼ等しい。
75歳以上の2035年、2045年までのそれぞれ10年間の増加率は3.7%、0.8%と穏やかとなり、2025年までの増加率が飛び抜けて高い。ただ、増加率では2015年までの10年間が40.7%と最大であったが、増加数でみれば2025年までが最高である。いずれにしても2025年までの20年間で75歳以上の人口は約1,000万人増加し、2,180万人に達するという超高齢化社会の真っただ中にあるということなのである。
昨年12月の要支援・要介護認定者数(第1号被保険者)は628万人だが、75歳以上が553万人、88.1%を占めている。75歳以上の第1号被保険者(1,726万人)の32.1%が介護認定を受けているのだ。介護比率から予測すれば2025年には75歳以上の介護認定者数は700万人と現状から72万人増加するということだ。今でも介護者不足が深刻だが、大幅な生産年齢人口減により、介護の現場は深刻さが増すことは間違いない。
安倍政権は東アジアの脅威など煽り防衛力の強化を推進しているが、国内の人口問題が日本を押しつぶすことのほうがはるかに重要な問題である。福島第1への資金援助や公共事業の拡大を図る資金があれば、人口問題に集中的に資金を投入すべきだ。数週間のオリンピックに巨額の金を使うほど、今の日本には余裕はない。保育園さえも入れない情けない国が、オリンピックを開催し、巨額の戦闘機やミサイルを購入する。
自国が深刻な内部問題を抱えているときに、外部の脅威を声高にいう。重要な問題を逸らし、政権を持続させることだけに注力している。そうした方法によって、森友問題も、当面の外交で首尾よく煙に巻きたいのだろう。安倍首相を米国に行かせる余裕を与えた野党の追及の甘さが、返す返すも残念だ。攻めるときは徹底的に攻めなければならない。野党は真剣さと調査力に欠けたということだろう。