米株式の過去最高値更新に牽引され、主要国の株式はいずれも好調である。日経平均株価も1年10ヵ月ぶりの高値を付けた。が、国債利回りは低下傾向を示し、商品市況は低調である。米国経済は拡大を続けているが、思いのほか物価は安定しており、利上げを急ぐ必要はなさそうだ。4月の米個人消費支出物価指数(PCE)は前年比1.7%と2月比0.4ポイント、コアは1.5%、0.3ポイントそれぞれ低下しており、FRBのシナリオ(2017年、PCE 1.8%~2.0%、コア1.8%~1.9%)を下回ってきた。物価は低下しつつあるが、株式は最高値更新、住宅価格も上昇しつつあり、実物経済と金融経済の温度差は拡大している。
こうした金融経済が実物経済を上回る拡大をみせているのは、政策金利を引き上げたとはいえ依然0.75%の超低金利だし、これからの利上げも非常に緩やかなものにとどまると予想されているからだ。物価安定と雇用拡大がFRBの使命だが、これらの目標はすでに達成されており、今、政策金利を操作する明確な根拠は見いだせない。金利に敏感な金融経済だけが膨張しすぎているのだ。こうした金融経済のさらなるバブルを防ぐために利上げは必要なのだ。
円ドル相場は傾向としては円高ドル安である。それでも1ドル=110円ほどで、企業にとっては居心地の良い水準なのだろう。4月の貿易統計によれば、輸出は前年比7.4%伸び、昨年12月以降5ヵ月連続のプラスだし、数量でも4.1%と3ヵ月連続増である。特に、アジア向けが12.2%と3ヵ月連続の2桁増と好調であり、数量では昨年6月以降ほぼプラスである。こうした好調な輸出によって、4月の鉱工業生産指数は前月比4.0%も上昇し、2008年10月以来、8年6ヵ月ぶりの高い水準だ。前年比でも5.7%も伸び、2014年3月以来約3年ぶりの高い伸びとなった。
生産の拡大は機械、輸送、電子部品・デバイスの一部の産業に集中しており、全般に波及しているわけではない。在庫指数は昨年12月以降5ヵ月連続の前月比プラスとなり、意図しない在庫が発生していることも気掛かりだ。
雇用環境も引き続き改善しており、失業率は4月まで3ヵ月連続の2.8%、有効求人倍率は1.48倍と1974年2月以来、実に約43年ぶりとバブル期でも超えることができなかった人手不足の状態となった。これほど雇用は良くなったが、問題は雇用の内容だ。4月の雇用者(役員除く)に占める非正規の職員・従業員の割合は37.1%と過去3年ほとんど変化していない。女の非正規の比率は4月、55.7%と半分以上である。今年4月の雇用者数を2013年と比較すると、男女合計で183万人増加しているが、男は40万人、女143万人と増加数の8割近くは女で占められている。男女の賃金がはなはだしく乖離していることから、これだけ雇用が増加しても企業の人件費の負担は軽く、むしろ雇用増加は企業利益を拡大する要因になっているのだ。
財務省の『法人企業統計』によると、今年1-3月期の全規模全産業売上高は前年比5.6%伸び、営業利益は11.4%拡大した。原価と販管費は売上高の伸び以下に抑えられている。特に、人件費は前年比1.0%と売上高の伸びを大幅に下回り、最大の利益押し上げ要因になった。人件費の内訳をみると、役員の給与と賞与は前年比2.9%、38.6%それぞれ伸びたのに対して、従業員の給与と賞与は0.0%、0.9%とほぼ横ばいであり、あまりにも役員とは違いすぎる。製造業の従業員給与は前年比-0.3%と3四半期連続の前年割れ、賞与は1.8%と5四半期ぶりのプラス。賞与の格差は非製造業が大きく、今年1-3月期では役員の前年比47.5%に対して従業員は0.3%にすぎない。2015年4-6月期以降、役員の給与の伸びは従業員を上回り、賞与については2014年1-3月期以降従業員を大幅に上回っており、役員と従業員の所得格差はますます大きくなっていることがわかる。
全規模全産業の純資産は今年3月末、664.7兆円、利益剰余金だけで390.3兆円と企業は太るばかりだ。個別企業にとっては健全性が増し、経営は安定しよう。だが、国全体を考えれば、利益拡大と賃金抑制は、よく言われているように有効需要不足の問題を引き起こす。
労働分配率をこれだけ抑えれば、特に、低所得者層の賃金を絞ることになれば、消費は冷え、国の経済がうまく回らなくなるのは至極当然のことである。企業の分配政策が日本経済を疲弊に追い込んでいるのだ。日本が経済的にもう少し元気になるには労働分配率を引き上げることしかない。さらに非正規労働の縮小、男女賃金格差の是正、労働時間の短縮、有給休暇の完全消化を実施できれば、日本経済はさらに溌剌とした姿になるのではないか。
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