当てにならない経産省『生産予測調査』

投稿者 曽我純, 3月31日 午前8:19, 2013年

2012年度末の日経平均株価は07年度末以来5年ぶりの高値で引けた。月間では昨年8月以降8ヵ月連続高となり、その間3,702円も上昇した。衆議院の解散が決まった昨年11月16日を境に値上りの勢いは増した。円ドル相場も月間では昨年10月以降6ヵ月連続の円安ドル高となり、09年7月以来3年8ヵ月ぶりの円安である。政権交代と金融緩和という国内要因によってこれだけ株式と為替が変動するとはだれも予想できなかった。

日本株は欧米株に比べて低い水準にあったとはいえ、収益の回復を見通すことはできず、明らかに見切り発車である。金融緩和だけでここまで株式は上昇し、円安ドル高となった。金融緩和の期待だけで上昇したことから、株式、国債はバブル化した。だが、バブルはいつまでも膨張し続けることはできない。期待はずれの兆候が見えてくれば、バブルは一気に萎むことになる。

 3月に入ってからの日経平均株価は足踏みしている。3月第3週、外人が昨年11月第2週以来の売り越しとなったからだ。日経平均株価の予想株価収益率はすでに21倍まで上昇し、欧米の主要株価よりも高くなっており、さらに買い上がるには、収益面の裏づけが必要になってくる。

先週発表の経済指標からは、企業収益が回復するようなシグナルは発せられていない。2月の鉱工業生産指数は前月比-0.1%と経産省の1月発表時の予測(5.3%)から大きく外れた。経産省は鉱工業生産公表時に翌月と翌々月の予測を「製造工業生産予測調査」として公表している。昨年10月分発表以降の経産省の製造工業生産予測は、予測が実現値の伸びを上回っている。例えば、昨年10月時点の12月予測は前月比7.5%であったが、11月時点では6.7%、だが実際の数値は2.4%に過ぎなかった。昨年12月時点の今年1月予測は2.6%であったが、これも下方修正され0.3%の伸びにとどまった。昨年12時点の今年2月予測は2.3%、今年1月時点では5.3%に上方修正されたが、蓋を開けてみると、-0.1%とまったく異なる結果となった。

昨年10月分発表以降、製造工業生産予測調査は先行き良くなるという見方を植えつけてきた。このようにまったく当てにならない予測を公表することは、経済予測にとどまらず、市場関係者などを惑わすだけではないか。今回の株式上昇要因のひとつに楽観的な予測を連発した「製造工業生産予測調査」を挙げてもよいのではないか。

2月の生産は前月比-0.1%と3ヵ月ぶりのマイナスとなり、前年比では11.0%減と2011年4月以来の2桁のマイナスになった。昨年8月以降、在庫は7ヵ月連続の前月比減となり、前年比でも-0.5%と2010年5月以来、2年9ヵ月ぶりのマイナスだ。在庫の前年割れは生産の底を示唆するけれども、在庫率が依然高く、しばらく在庫減らしが必要だろう。

2月の資本財生産(輸送機械を除く)は前月比2.0%増加したが、指数は77.1と鉱工業生産指数(89.0)を大幅に下回っており、設備投資関連の不振を示している。在庫は前月比-5.4%と5ヵ月ぶりのマイナスになったが、在庫率はプラスになり、資本財の在庫調整の進み具合は緩慢である。設備投資に関連深い一般機械の生産水準は依然低く、前年比では18.7%も落ち込んでいる。

液晶テレビ(前年比-76.6%)などを含む情報通信機械工業の生産は前年比30.3%もの減少だ。鉱工業生産への影響度の大きい電子部品・デバイス工業の生産は3ヵ月連続の前月比マイナスだが、在庫は2ヵ月連続増となり、前年比では20.6%も増加し、3月以降も生産は軟調に推移するだろう。

2月の『家計調査』によると、消費支出は前年比0.1%と2ヵ月連続のプラスである。交通・通信が12.4%も増加したからだ。交通・通信は昨年2月から前年比増を持続している。なかでも自動車等購入が急増しており、消費支出プラスの原動力となっている。しかし、2月の新車販売台数は前年比2桁減と売れ行きは低迷しており、家計調査とのズレは大きい。2月の『商業販売統計』によると、卸売業と小売業の自動車販売はいずれも前年割れだ。小売業の総計も前年比2.3%減と2ヵ月連続のマイナスとなり、伸び率は3ヵ月連続で悪化している。

売上高の減少などから消費者物価指数は前年比0.7%減とマイナス幅は拡大し、2010年9月以来の減少となった。上昇したのは電気代、自動車関連、教育であり、代替が効かなく、根深い教育信奉に支えられている分野だけである。

2月の勤労者世帯の可処分所得は前年比-2.4%と2ヵ月連続の前年割れとなり、失業率も4.3%と前月よりも0.1ポイント上昇、特に、男の失業率が4.6%と昨年10月から0.3ポイント高くなるなど、消費を刺激するような経済状況ではない。

円安ドル高によって、輸入品価格は上昇しているが、価格転嫁は消費意欲を低下させ、消費者物価はじりじり下がるのではないだろうか。黒田日銀総裁は2年以内に2%にもっていくと断言しているが、人口減少過程にある日本で、需要が増えることはなく、2%の物価上昇は起こらない。また、下落しているとはいえ0.7%にすぎず、物価情勢は理想的なトレンドを辿っているといえる。なぜ、2%に引き上げたいのか、そもそも物価を動かすことなど、ゼロ金利下でどうしてできるのだろうか。

PDFファイル
130401_.pdf (388.54 KB)
Author(s)