円安・株高が止まらない。NYダウは1万4,000ドル台を回復し、過去最高値に接近した。日銀とFRBがゼロ金利を際限なく続け、国債を無制限に買い進めることによるバブル相場である。日本はバブルが弾けてから24年目だが、1995年以降、政策金利はほぼゼロ近辺かゼロで推移してきた。2000年以降は国債を積極的に買い入れてきた。実体経済を良くするためというが、実態は金融機関の救済であり、金融株式の後押しである。FRBはITバブル崩壊後から政策金利を急激に引き下げ2008年の金融危機の下地を作った。実体経済が2012年、名目前年比4.0%も成長しているにもかかわらず、ゼロ金利をまだまだ続け、月850億ドルの債券を買うという。正気の沙汰ではない。
中央銀行の役目は「物価の安定」だが、これだけではない。経済の進展とともに不可避に起こる貯蓄率の上昇が、金融資産の著しい増加をもたらす。名目GDPの規模をはるかに超える金融資産が資産価格を激しく変動させる。
2011年度末の日本の総金融資産残高は6,182兆円、名目GDPの13倍だ。1990年度末は10.4倍であり、バブルが崩壊しても金融資産が実体経済よりも拡大したのである。2011年末の米国の総金融資産残高は157兆ドルと名目GDPの10倍の規模である。2008年末の総金融資産残高は前年末比減少したが、翌年には増加に転じ、2010年には過去最高を更新した。1990年末、名目GDP比6.1倍であり、金融資産の伸びが実体経済をはるかに凌いだことがわかる。実体経済の10倍もの規模の金融資産が、実体経済を揺さぶることはいとも簡単なことに思える。米国の金融資産は今の為替レートで日本の2.3倍の規模であるが、実体経済との比較では、日本が金融資産の影響をより受けやすいといえる。
短期に資産価格を変動させる最大の要因が中央銀行の金融政策なのだ。ものやサービスの価格だけでなく、株式や為替などの金融商品価格の安定にも中央銀行は眼を向けなければならない。ものやサービスの価格だけ安定していれば、経済が安定するかといえば、そうではないことが過去30年ほどの経済を顧みるだけであきらかだ。1929年以降の米大恐慌まで遡れば、金融資産の暴騰暴落がいかに経済を破壊したかが、一層あきらかになる。安易な金融緩和がとんでもない経済恐慌を引き起こすことを、過去の歴史は語っている。
金融資産の暴騰暴落による経済麻痺が完全に治癒していないにもかかわらず、FRBは金融資産を高騰させることで、経済を回復させようとしている。病巣を摘出することなく、ゼロ金利等の劇薬で糊塗しているのである。FRB自身、モーゲージ担保証券を9,657億ドル(1月30日時点)保有している。だが、金融・信用に過度に依存すると暴落という悲惨な結末を迎えることになる。信用緩和による資産価格持ち上げにも限界がある。あまりにも実体経済から掛け離れると、実体経済に鞘寄せするかたちで急落することになるだろう。
日銀もFRBも政治の目先の目標を達成する片棒を担がされ、物価を上昇させる目標や雇用まで面倒をみなければならなくなった。いま安定している物価を2%に上げたいという。本当に上がりだしたら止めることなどできないのだが。経済的思考が通用しない政治屋と同じ土俵にのり、物価の番人とは言えない金融政策を採る。日銀は地に落ちてしまった。
ケインズのいう信用の拡大と投機的確信が強まったことによって株式は暴騰しているが、それを演出したのは安倍首相であり日銀なのだ。資産価格が暴騰していけば、行き着く先は暴落である。物価だけみていれば事足りる経済ではなく、資産価格の異常な変動にも眼を配る政策が求められているのである。ましてや、資産価格の上昇を煽る政策や言動などもってのほかだ。