対照的な日米の景気

投稿者 曽我純, 8月24日 午後3:43, 2014年

7月の米景気先行指数や住宅関連指標が予想よりも強く、米国経済の拡大を示す一方、ユーロ圏の経済指標は景気の低迷をあらわし、ドル高ユーロ安が進んだ。週末値のドルユーロ相場は1.3244ドルと昨年9月第1週以来のドル高ユーロ安となった。FOMC議事録によると利上げはこれからの経済動向次第だと述べ、強めの経済指標が出てくることになれば、利上げ開始時期は早まる。こうした利上げの現実的判断を示したことが、ドル全面高を引き起こした。円ドル相場も1月第3週以来の円安ドル高となり、スイスフランも値下がりしている。

 住宅関連指標が強いとはいえ、米実質GDPに占める住宅の比率は3.1%(2013年)にすぎず、米国経済への影響力ははなはだ小さい。だから、住宅指標をことさら評価するのは考えものだ。一番大事なのは個人消費支出であり、これが良くなければいくら住宅が伸びたとしても、米国経済は力強さを取り戻すことはできないのである。肝心の個人消費が伸び悩む指標で出てくれば、その影響力は住宅をはるかに上回り、米国経済への不安は募り、ドルは売られることになる。足元の個人消費指標は弱いものがみられ、ドルは過大評価されているともいえる。

 強めの経済指標の発表を受け、米株式は堅調に推移し、21日、S&P500は過去最高値を更新した。為替と同様、一部の経済指標を米国経済全体に敷衍するという偏った見かたによる値上りだ。米国株の上昇に押され、日本株も21日まで9連騰を達成し、1万5000円台を回復した。米国経済と異なり、芳しくない7月の消費指標や電力需要が出ているが、それらを脇へ置き、株価だけが上昇していくことは危険である。

7月の米住宅着工件数は年率109.3万戸、前月比15.7%も伸びたが、一戸建ては8.3%であり、特に集合住宅が33.0%も拡大したことが大きく影響した。同様に許可件数も8.1%伸びたが、一戸建ては0.9%増にとどまり、集合住宅が23.6%も急増した。住宅金利の低下が住宅需要を引き上げているが、この低金利もおそらく向こう半年程度で終了するだろう。一旦、FRBが利上げに踏み出せば、3%程度までは短期間で引き上げるだろう。そのような利上げが実施されれば、金利に敏感な住宅、自動車などの耐久消費財の需要は大幅に落ち込むことになるだろう。

米国経済がゼロ金利から離れることになれば、消費需要の低迷により、米国経済は後退に向かう。住宅や自動車などの販売増で維持されている経済は、利上げでその反動に見舞われる時期が近づいていることは間違いなく、株式も警戒すべき時期に入ってきている。過去最高を更新しているとはいえ、これを何度も繰り返すほど米国経済は強くない。

7月の米景気先行指数は前月比+0.9%も伸び、米国経済はしばらく拡大するだろう。景気一致指数は0.2%上昇したが、ディフュージョン指数(DI)は100%を付け、しかも100%が今年2月以降6ヵ月も連続しているのである。100%を持続していることは経済全体へ景気拡大が波及していることである。

ちなみに、6月の日本のDI一致指数は10%と景気の良いか悪いかの分かれ目である50%を大幅に下回っている。3月の95.5%から4月には20%へと一気に下がり、その後はさらに低下し、これで3ヵ月連続の50%割れとなり、景気は後退下にあるといえる。DI先行指数は一致指数の2ヵ月前の今年2月、36.4%と50%を下回り、6月まで5ヵ月連続の50%割れである。DI先行・一致指数ともに50%割れとなり、日本が景気後退入りしていることを示している。

1997年4月の消費税引き上げのとき、DI一致指数は31.8%と50%を下回り、5月と7月は50%を超えたけれども、9月にはゼロまで落ち込み、翌年8月まで50%割れが続いた。今回のDI一致指数の低下速度は前回を上回り、消費税引き上げの影響がより強く経済にあらわれていることがわかる。DI先行指数は1997年3月に50%を下回ってから、翌年の11月までの21ヵ月も50%割れが続いた。

米国の景気先行指数は上昇を続ける一方、日本は低下している。景気先行指数の低下など気に留めず、連れ高で日本株も上昇していく。消費税の悪影響は短期間に出尽くし、年内には経済は良くなるのだろうか。1997年と比べて経済規模は縮小し、財政は酷くなり、福島原発も加わった。体力が落ちているところへ3%も消費税を上げた。1997年よりも需要不振は長引き経済の後退はより深刻になることは避けられないだろう。経済の悪化が進行しても、財政の出動には限界があり、日銀はどうすることもできない。今度の経済不況では財政・金融政策に頼ることはできないのだ。ずるずる落ちるところまで落ち、這い上がる道しかないのである。

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