年明けの4日に中国株式市場でサーキットブレーカーが初めて発動されたことに端を発した株式への不安が世界株安を引き起こした。なかでも日本株は大発会から8日まで5連続安と戦後初の出足となった。昨年末からの日経平均株価の下落率は7.0%とNYダウの6.2%を上回る。商品市況の下落も止まらず、同期間、CRBは4.6%、WTIは10.5%それぞれ落ち込んだ。資源をがぶ飲みする中国経済の低迷が続けば、資源の需要は弱く、商品市況の回復は遠のくだろう。商品価格の暴落に目をつぶり、マネーゲームのように株式取引を行なってきた付けが回ってきているといえる。
マネーゲームを招いたのは日米欧の中央銀行である。1980年代からすでに顕著になっていることだが、金融政策が重視しなければならないことは、実体経済ではなく、金融経済に対してであるということである。資本主義経済が拡大するにつれて、金融経済の規模は実体経済よりもはるかに大きくなり、しかも金融経済は金利等から受ける影響がきわめて大きいからである。金利が低ければ低いほど金融経済の実体経済に対する優位性は高くなり、虚構の世界だけが膨らんでいくことになる。金融経済の巨大化により、金融経済の崩壊が実体経済を翻弄する構造的な問題が横たわっている。バブルの生成と崩壊がたびたび起きているにもかかわらず、2%の物価目標を掲げ、長期間、ゼロ金利を続けているのである。
米国だけは昨年の12月16日にゼロ金利を解除したが、FRBは引き上げを常々ほのめかしており、為替レートはドル高に進んでいた。特に、新興国通貨の対ドルレートは軒並み安くなっており、米利上げを先取りしていた。だが、今後、米利上げは継続され、さらに新興国通貨は下落すると予想されることから、新興国からの資金引き上げ、通貨安という悪循環は続くだろう。新興国は資金流失に加えて、ドル高によるドル建て負債の急増というダブルパンチに見舞われている。
中国も同様のドル高元安、資金引き上げにより、中国経済は金融面からも追い詰められている。実体経済もおそらく過剰設備、過剰生産によって疲弊しているところへ、金融面からの圧力が加わることになり、共産党では中国経済は制御不能に陥るかもしれない。
隣国の中国がおかしくなれば日本経済にも影響がおよぶのは必至である。貿易総額の約2割を占める最大の貿易相手国であることを取り上げるだけでも、経済的結びつきが強いことがわかる。日本株の下落率が大きな理由のひとつに、日本が中国との経済的関係が強いことを挙げることができる。
円ドル相場が117円台に急伸したのは、円売り・日本株買いの反対売買もあるけれども、資源安のメリットを受け取る観点から、日本円が選択されたのだろう。大半の原材料を海外に依存している日本は資源安の恩恵を大きく、労せずして、今までよりも低価格でものを買うことができる。貿易統計によれば、今年度上期の鉱物性燃料輸入額は前年同期よりも4.1兆円減少している。年間では8兆になる。これに円高が加われば、さらに輸出支払金額は少なくなり、なにをすることもなく日本経済は潤うことになる。
日本の貿易収支の改善も円高支援材料である。資源価格の下落が輸入額を減少させ貿易収支を大幅な赤字から黒字へと転換させた。月を追うごとに貿易収支は好転するとみられることからドル売り円買いが発生しているのだろう。資源価格下落を受け、消費者物価も低下していくだろう。それによって一層円は強くなるはずだ。
円高になれば、輸出型大企業の業績は悪化することは間違いない。輸出型大企業の業績悪化はだれにでもわかる。わかりやすいから売られるのだ。昨年3月、トヨタ自動車の株価は8,783円に達していたが、今は6,000円台に下落している。資源高で儲けた三菱商事の株価は昨年6月の高値から31.6%もの下落だ。円高や資源高で「棚から牡丹餅」ようにたまたま幸運を手にした企業の株価は、まだまだ下値が見えない。
昨年まで日本の株価が高値を維持できた最大の要因として、公的年金と事業法人の大幅株式買い越しを挙げることができる。さらに日銀の上場投資信託の買入れも重要な株高維持政策である。昨年末、日銀保有の上場投資信託の残高は6.89兆円、前年末比3兆円の増加である。日本の株式市場は、政府と日銀による官製相場以外のなにものでもない。競争市場ではなく政府管理市場といえる。中国の株式市場と五十歩百歩だ。東電や東芝が上場廃止にならないのだから、博打場よりも酷い市場ではないか。
東証の「投資部門別売買状況」(東証1部)によると、2015年の外人は3,258億円売り越した。2008年以来7年ぶりの売り越しである。2013年、外人は14.6兆円の買い越しとダントツの存在であったが、2014年の買い越し額は1兆円を下回り、買いの主体は公的年金と事業法人に明け渡した。公的年金の売買動向を概ねあらわす信託銀行の買い越し額は2014年の2.76兆円から2015年は1.99兆円へと減少する一方、事業法人は2014年の1.12兆円から2015年は2.97兆円へと急増している。事業法人の買い越しは2011年以降5年連続だ。いかに大企業が金を持て余しているかがこれからも窺える。企業がマネーゲームに現を抜かすことは、「投機の渦巻きのなかの泡沫」となる事態も考えられる。企業が投機業者の餌食になることは、火を見るよりも明らかである。