官僚のでっち上げを鵜呑みにする野田政権

投稿者 曽我純, 2月5日 午後8:03, 2012年

日本の株式が沈んだ状態から抜け出すことができないのは、日本経済の縮小傾向が強まっているからだ。原発事故が起きて1年近く経つが、原発廃止も打ち出せず、なにも決まらないままずるずると時間だけが過ぎている。大罪を犯した東電を咎めることなく、電気料金を自由に引き上げさせるなど、政治はいったいなにをしているのだろうか。手をつけなければならない問題が山積しているときに、消費税引き上げを持ち出し、しかも理解不十分の半煮えの議論を展開している。

多くの人が日本の先行きに期待などしていない。長期のGDPをみれば、マイナス成長が本格化することを読み取ることができる。そうした大枠のなかで生活をしていく術を真剣に考えなければならないのだ。

1月30日、国立社会保障・人口問題研究所は『日本の将来推計人口』(2011年~2060年)を公表した。それによれば、2020年(出生中位死亡中位)までの10年間に総人口は395.7万人、生産年齢人口(15歳~64歳)は832.7万人それぞれ減少する反面、65歳以上は664万人も増加する。総数は2020年までの10年間、年率0.3%減となり、2010年までの10年間の年率ゼロから初のマイナスとなる。1980年代以降の明らかな人口の伸び率鈍化が、この10年では減少に変わることになり、経済成長率はまったく望めなくなった。すでに名目GDPは2010年までの10年間、年率0.5%のマイナスに転落しているからだ。

人口減少率は2020年代、30年代とさらに拡大し、消費需要の減少は必至である。消費が減少することは余剰生産設備が多量に出てくることになる。この過剰な企業の資本ストックを適正な水準まで破棄する必要がある。家計も消費支出を見直さなければ、生活が成り立たなくなるだろう。

1月24日、内閣府は『経済財政の中長期試算』を公表した。成長シナリオでは2020年度の名目GDPは636.8兆円、年率2.9%成長を前提としており、慎重シナリオでは2020年度558兆円、年率1.5%の成長を見込んでいる。慎重シナリオでさえ10年間で名目GDPは79兆円も増加するのである。2010年度までの10年間に31兆円減少している事実などなかったかのように。日本の長期トレンドを覆すほどの技術進歩や生産年齢人口の年率1.1%減をはるかに超える生産性の上昇が起こるのだろうか。内閣府の成長試算は、安全神話で塗り固められていた原子力行政とまったく同じである。年率1.5%の成長はあり得ない。マイナス1%程度で縮小していくシナリオのほうがはるかに現実に近い。

しかも、『経済財政の中長期試算』は2014年4月1日に消費税率を8%、2015年10月1日に10%への引き上げを前提にしている。消費税が導入されたのはバブル経済が最高潮に達しようとしていた1989年4月1日である。1989年度の一般会計の税収は54.9兆円と前年度を4.1兆円上回り、1990年度は前年度比5.1兆円とさらに伸びたが、国債発行額は減少しなかった。1997年4月1日に5%に引き上げられたが、金融危機が強まるなかで、1997年度の税収は前年度比1.8兆円増にとどまった。98、99年度の2年連続、名目GDPはマイナスになり、税収は落ち込み、国債発行額は1997年度の18.4兆円から1999年度には37.5兆円に急増した。消費者物価指数(CPI)は96年度の前年比0.2%から97年度は2.1%に上昇したが、99年度には需要の低迷から0.5%低下した。公債残高は97年度の258兆円から3年後の00年度には367兆円へと109兆円も増加しており、公債残高の対GDP比では49.5%から71.9%に上昇している。

これから言えることは、消費税率を引き上げれば、名目GDPは落ち込み、税収は大幅に減少、国債発行は急増、CPIは下落するということだ。消費税率の10%に引き上げ後の日本経済は大不況に陥ることになるだろう。政府のGDP予想が甘いことに加えて、消費税率の経済に及ぼすインパクトを過小評価している。原発と同じように、政府の杜撰な経済見通しによる人災が繰り返されることになる。官僚のでっち上げといってもよい、なにの根拠もない経済見通しを鵜呑みにした野田政権の責任は重大である。 

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