安倍内閣の政策出尽くして株売り続く

投稿者 曽我純, 4月3日 午後6:05, 2016年

イエレンFRB議長の金融調整は慎重に進めることが妥当だという講演によって、ドルは売られ、NYダウは年初来高値を更新した。3月の非農業部門雇用者が前月比21.5万人増と拡大し続けていることも、株価を押し上げた。ゼロに近い超低金利下で雇用も改善していれば、株式にとっては好環境である。さらに物価も2月PCEは前年比1.0%と安定しており、米国経済はかなり理想的な状態にあるといってよいだろう。ただ、2009年6月(米景気の谷)以降の株式や住宅の伸びは、雇用や個人消費支出を上回っており、金融経済が膨らんでいることは明らかである。

昨年第4四半期の米企業利益(税引後)は前年比3.6%減と4四半期ぶりの減益となった。過去3年の企業利益の推移をみると、最大でも8.5%であり、前年割れも4回ある。2013年、2014年はほぼ横ばい、2015年は3.3%と過去3年では年率1.3%しか伸びていないのである。それでもNYダウは2015年央までは続伸しており、過去最高値を更新したのだった。

利上げが気掛かりになってからは、株式の勢いは失したけれども、利上げのスピードが下がることになり、株価は戻ってきている。株式市場の参加者は企業収益ではなく、金融政策の動向を窺いながら売買に取り組んでいるのである。緩やかながらも景気が拡大し続けていながら、FRBはゼロ金利を継続し、利上げしたとはいえ、その後の利上げの道筋を見通すことができないでいる。

2010年から2015年までの6年間の米経済成長率は名目平均年3.7%、実質2.1%である。それでもゼロ金利に据え置いていた。さらにFRBは巨額の国債を購入し、金融機関にマネーを供給した。株式や債券などマネーに敏感なところは活況を呈し、大いに潤った。歴史上初の超金融緩和が株式や債券相場を狂わしてしまった。だから、僅かな利上げでも心配なのだ。FRBにしても買いオペにより巨額の国債や住宅抵当証券を保有しており、利上げにより、保有国債等が値下がりすればダメージは大きい。FRBにとっても利上げは綱渡りのように危うい操作なのである。

 

米国経済は実質2%の成長を維持できる見通しだが、昨年の日本の実質GDPは前年比0.5%、2014年は微減、2013年は1.4%と過去3年間の日本経済は平均して年0.6%の成長にとどまり、同期間の米国(平均2.1%)を大幅に下回っている。なんとかミクスとやらを唱え、日銀を巻き込み、財政・金融政策を総動員してもこの程度なのである。安倍首相の取り巻きや官僚のレベルはこれでわかる。

安倍内閣の政策は出尽くしたのだ。マイナス金利まで導入し、これから先、なにがあるというのだろうか。補正予算を組むことくらいだろう。乳幼児の保育所問題でさえもままならないということが、安部内閣の実行力のなさを物語っている。資金が不足するなら高価な自衛隊の装備や東北の防潮堤など取り止めにして、保育所関連に回せばよいのだ。要するに安倍内閣の方針に合致する分野あるいは派手で票につながるところには厚く盛るが、そうでないところへの配分は薄い。

安倍首相も政策の限界に気づいているから、消費税率引き上げ延期の口実を探しているのだろう。経済政策の行き詰まりから、焦点を経済から憲法改正に変えてきている。だが、安部内閣の経済政策が出尽くしたことを投機家は察知している。だから、外人売りは止まらないのだ。財政・金融政策の限界が露呈したことに、実体経済の悪化が加わり、日本株の魅力は褪せるばかりである。

 

日本株は経済指標になぜ鈍感なのだろうか。3月調査の『短観』には反応したけれども、すでに昨年9月以降の『家計調査』には消費の悪化がはっきりあらわれている。昨年11月の消費支出(季節調整値)は大震災以来の水準に落ち込んでいた(実質では過去最低更新)。消費が不振だということは経済全体がダメだということなのだ。

2月の鉱工業生産指数も驚きだった。生産(季節調整値93.6、2010年=100)は前月比-6.2%と2011年3月以来の急落であり、2012年11月(93.4)以来3年3ヵ月ぶりの低い水準である。生産水準は安倍首相就任以前に戻ってしまった。

製造工業生産予測調査によると、3月、4月は前月比3.9%、5.3%それぞれ大幅に上昇するそうだが、このように伸びることはないだろう。これだけ生産を縮小しても2月の在庫は前月比0.1%しか低下していない。特に、機械工業では在庫は2月まで6ヵ月連続の前月比減だが、在庫調整は道半ばである。財別では資本財(輸送機械を除く)の在庫がまだ高水準状態にあり、生産の削減は避けられない。

2月の生産は自動車の特殊要因も加わったが、需要の不振は国内だけでなく、海外も弱いため、生産はなかなか回復しないだろう。輸出は昨年1月をピークに減少しているが、今年の円高ドル安がさらに輸出不振に拍車を掛けることも考えられる。いずれの調査も今年度の設備投資計画は前年比マイナスになっており、もしそうであれば資本財生産は厳しい状況に直面するだろう。

名目民間企業設備は2015年、前年比2.4%と2011年以降5年連続のプラスだ。その間、民間最終消費支出は2度もマイナスになっている。最終消費が増えずに、設備投資が増え続けることは不可能だ。2015年の民間企業設備・GDP比率は14.0%と2011年から0.6ポイント上昇している。民間最終消費支出の低迷を公的需要が補っている。そのため2015年の公的需要・GDP比率は25.1%と2011年比0.4ポイント上昇した。5年連続増の民間企業設備がマイナスに転じることになれば、今年の日本経済は相当厳しい内容になるだろう。

 

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