大幅に改善した1-3月期の売上原価

投稿者 曽我純, 6月6日 午前11:18, 2016年

5月の米雇用統計が予想を大幅に下回り、円は急騰した。3月の経常収支が3兆円近くに達し、4月の日本の消費者物価指数(総合)が前年比-0.3%と日米の物価格差が拡大していることなどから、基本的には円高ドル安の流れにあった。そこに、非農業部門雇用者が前月比3.8万人増、しかも3月、4月も下方修正され、6月利上げが後退、円高に火が付いた。

事実、1-3月期の米実質GDPは前月比0.2%と3期連続で伸び率は低下しており、米国経済の足取りは重い。4月の製造業受注(資本財、非軍事、航空機除く)は前年比6.0%減と不振であり、4月の米国の財輸出入は共に前年比6.9%減少した。米国の輸出入の前年割れが続いていることは、米国の需要が弱いだけでなく、世界経済の需要も弱いことを示している。米企業業績も1-3月期、前年比3.6%減と2四半期連続の減益である。

良いのは実体経済ではなく、金融経済である。いまだにほぼゼロ金利であることが、金融経済を後押ししているのだ。米株式は高値近辺にあり、住宅価格は2012年以降、4年も上昇を持続しており、今年3月には、2006年の過去最高を約9%下回るところまで回復している。超金融緩和策によって、株式や住宅などの金利に敏感な部門に投機的資金が流入しているのだ。金融部門には資金は流入するけれども、家計部門にはその恩恵は回ってこない。日本と同じだ。GDP統計はそのことをはっきりあらわしている。

金利動向に過敏に反応する投機資金が為替市場を変動させている。だから、常人には理解しがたいような、激しい値動きがしばしば起こる。乱高下の仕掛人は外人だ。円買いと日本株売りをセットにしており、円高がさらに進めば、株安も進むということになる。しかも、円ドル相場と日本株の水準は微妙なところにあるといってよい。経常黒字拡大や日米の物価動向、さらにFRBの金融政策などを勘案すれば円高ドル安は持続するだろう。そうであれば為替に連動する日本株は一段の底があると考えておくべきだ。

安部首相は消費税率引き上げを再延期したが、延期したからといって消費が上向くわけではない。消費不振はそのような単純なことでは変化しないほど、複雑かつ構造的になっているのだ。それが長年の自民党の政策によって作り上げられてきたことを忘れてはならない。

公共事業中心の補正予算の話もでているが、すでに過去最高益を享受している大手建設会社にこれ以上の利益を与えてどうするのだろうか。まったく考えのない口から出まかせの政策だ。いままで実行したことが通用しなかったのだから、思考を180度変えた政策でなければならないのである。人口減、超高齢化のなかで消費を増やしたいのであれば、これまでやってきたことのない政策を導入しなければならない。しかも税収は確保するという前提は崩せない。

低所得者層の減税と高所得者層の増税、使い切れないほどの内部留保を抱える法人への課税、博打場を正常にするための株式や為替取引に対する課税、これらは早急に政策決定する必要がある。公務員給与や国会議員歳費や地方議員報酬なども見直すべきだ。1980年代の課税体系へ戻らなければ、日本経済の消費縮小は加速するだろう。政府はいまだに経済成長という幻想を振り撒いているが、すでに長いこと成長はしていないのだ。日本経済は長期停滞期に完全に入っているのである。成長しないなかで住みやすい社会を作り出す方法を見つけていかなければならない。

 

1-3月期の『法人企業統計』によれば、全産業の売上高は前年比3.3%減と2期連続の減収だが、営業利益は-1.8%の微減にとどまった。売上高は3.3%も減少したが、営業利益はより小幅だったのは売上原価の減少率が4.2%と売上高を上回ったからだ。販管費は前年並みだったので、営業利益は売上原価の減少だけで説明がつく。売上原価は前年比-4.2%、11.3兆円減少したが、人件費は2.5%増加している。人件費は売上原価だけでなく販管費にもはいるが、人件費が1兆円増加しながら、売上原価が11.3兆円も減少することはなぜなのだろうか。資源価格の下落や円高ドル安によって、輸入なかでも原油などの鉱物性燃料の輸入額は1-3月期、前年比2.1兆円も減少しており、輸入総額では3.2兆円前年を下回っている。企業の売上原価に輸入が総額寄与しても3.2兆円しかならない。

1-3月期の総合消費者物価指数は前年比ほぼ横ばい、企業物価指数は3.5%低下している。大まかにいえば、1-3月期、消費者物価水準で売り、企業物価水準で仕入れをすれば、なにもしなくても3.5%の差額を入手できることになる。1-3月期の小売業売上高は前年比-1.5%だが、営業利益は11.9%と4四半期連続増である。卸売業の売上高は7.8%も減少しているが、9.3%の増益なのである。いずれも仕入れ値が大幅に下がったからだろう。

4月の企業物価指数は前年比-4.2%とさらに低下しており、消費者物価指数との開きが拡大している。つまり、小売業は値段を据え置くならば、利益は大きくなるはずだ。企業物価指数の低下から判断すれば、消費者物価指数は数パーセント下がっても不思議ではないのである。

日銀の『製造業部門別投入・産出物価指数』によれば、1-3月期の投入物価指数は前年比7.7%も下落している。一方、産出物価指数は4.0%減と投入物価指数を3.7ポイント上回っている。投入物価指数からも売上原価は大幅に改善していることが窺える。価格競争の激しい分野であれば、投入物価が下落すれば、産出物価も下落することになるが、これは競争の程度により、差異が生じてくるだろう。

円高、資源安は日本経済を大いに潤すことを改めて実感する。日銀、政府の誤った為替政策が、輸入物価低下の恩恵を、長期間みすみす逃してしまった。特に、輸入はドル建て比率が高く(約7割)、円ドル相場の影響が大きい。おそらく、円安ドル高が発生していなければ、2012年12月の安部内閣発足以降では10兆円を超える資金が外国に支払われなかったであろう。

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