7月の『景気動向指数』によれば、先行指数は93.6(2015=100)と前月比横ばい、一致指数は0.3%増の99.8であった。先行指数は2017年11月、一致指数は2017年12月をピークに低下しており、ピークからの下げ率は先行指数では9.0%に達しており、水準としては2011年4月以来、8年3ヵ月ぶりの低さである。消費税率の引き上げが迫っているにもかかわらず、先行指数は一向に上向かない。前回の消費税率引き上げの3ヵ月前は、先行指数は高水準を維持しており、一致指数は引き上げの直前に急騰していた。それに比べて、今回の指数は依然低いままである。
経済全体への景気の波及をあらわす「デフュージョン・インデックス」も先行指数は7月、最高の広がりを示す100を大幅に下回る11.1、一致指数は14.3に低下した。前回、引き上げの3ヵ月前は、先行指数と一致指数は81.8、100.0であり、引き上げた2014年4月は0.0、22.2へとそれぞれ急低下している。
4-6月期の『法人企業統計』によれば、大企業の業績は不振であった。全産業の売上高は前年比-2.1%、営業利益は-15.9%といずれもマイナスだ。前回消費税率を引き上げた2014年第2四半期の2四半期前は、売上高と営業利益は7.1%、38.7%それぞれ大幅に伸びており、今回とは対照的である。
4-6月期の大企業の売上高が減益になるのは2年半ぶりである。営業利益は2四半期ぶりだが、製造業の営業利益は2018年第3四半期以降、4四半期連続の減益であり、しかもマイナス幅は29.8%に拡大している。トランプ大統領が引き起こした貿易戦争が製造業に悪影響している。減収になったことから、原価率などが悪化し、売上高営業利益率は4.2%と前年同期比1.6ポイントも低下した。非製造業の売上高営業利益率は8.1%と同0.7ポイントの低下にとどまり、営業利益は前年比-9.8%と製造業の減益に比べれば小幅である。
今年4-6月期の売上高営業利益率は、非製造業が製造業よりも約2倍も高く、非製造業の高収益性が目立つ。普通に考えれば、製造業のもの作りの利益率が高いはずだが、今では非製造業が優っているのである。
いつ頃から非製造業が高収益に様変わりしたのだろうか。製造業よりも高い売上高営業利益率を上げることができるようになったのは、2008年の米金融危機を境にしてからである。それまでは製造業の売上高営業利益率が非製造業を上回っていたのだ。1950年代末から1960年の初めまでは製造業では10%を超えており、非製造業はその半分にも満たなかった。製造業の売上高営業利益率はその後、徐々に低下したものの、バブル期には6.0%まで戻す。たが、バブル崩壊後は低迷し、一時的な改善はみられたものの、米金融崩壊によって、マイナスに転落してしまった。製造業の売上高営業利益率はマイナスまで悪化したが、非製造業はプラスを保ち、2009年以降、非製造業が製造業の売上高営業利益率を上回る状態が続いている。
1988年第2四半期の非製造業の売上高営業利益率は5.2%と約29年ぶりに過去最高を更新した。これを破ったのは22年後の2010第2四半期であり、それからは頻繁に過去最高を更新し、2016年第2四半期には8.8%を記録し、製造業を引き離した。昨年第2四半期にも8.8%に達し、今年第2四半期でも8.1%と高水準を維持し、製造業をはるかに凌駕している。
第2四半期で過去最高の営業利益を製造業と非製造業を比較してみると、製造業では2007年だが、2019年第2四半期と比較すると40.3%も下回っているが、非製造業では2018年が過去最高であり、9.8%下回っているだけである。
1989年のバブル期と2019年(いずれも第2四半期)の30年間の大企業営業利益を比較すると、製造業は2019年が1989年を8.4%下回っている半面、非製造業は2019年が2.76倍も1989年を上回っている。
大企業全産業の営業利益に占める非製造業の比率は2019年第2四半期、74.4%である。5年前の2014年第2四半期では68.9%、さらに遡って、2007年は49.1%であった。
こうした非製造業の売上高営業利益率の改善は、売上原価率の低下によるものだ。1959年末から1980年代半ばまでの売上原価率は90%前後であったが、その後、長期的に低下しており、製造業がバブル期以降、横ばいのトレンドを描いているのとは異なる。
2000年前後の非製造業人件費比率は10%程度に上昇していたが、米金融不況期には6%台に低下し、今年4-6月期は8.7%に上昇している。だが、4-6月期の製造業人件費比率は11.3%と2.6ポイントも非製造業を上回っており、これが売上高営業利益率の差となってあらわれている。
消費税率引き上げに伴い、2014年4月の国内企業物価指数は前年比4.1%上昇した。だが、2014年12月には1.8%に低下、引き上げ1年後の2015年4月には2.1%減とマイナスとなり、マイナスは2016年12月まで続き、しかも2016年5月には4.6%も前年を下回った。
消費者物価も2014年4月には3.4%上昇したが、2016年に入り1.0%未満だがマイナスの期間もあった。ただ、国内企業物価指数のマイナス幅は消費者物価指数よりも大きく、売上原価の低減に寄与したと考えられる。さらに、消費者物価指数の伸びが国内企業物価指数を上回ったことにより、仕入価格と販売価格の差が大きくなり企業収益へも貢献した。
原油価格の2014年半ば以降の急低下が売上原価率の改善に寄与したことは間違いない。原油価格の下落は貿易黒字を拡大させ、それまでの円安ドル高を反転させ、企業収益にマイナスに作用する側面もあった。